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 世の中には、相手を傷つけたり恥をかかせたりしないよう遠回しに注意を促しても、気づいてくれない人もいる。これが客とスタッフの関係である場合、「気も使うし、あまりキツくは言えないというのが頭の痛いところ」だと話してくれたのは、井上彰さん(仮名・37歳)。
 居酒屋で雇われ店長として業務を任されている井上さんはある日、とんでもなく図々しい迷惑客と遭遇したと話す。けれど、それが故意なのか、それとも店に迷惑をかけていることに気づいていないだけなのか、いまも悶々としたままなのだとか。

◆「連れが店へ来るまで待たせて」

「そのお客Sは、当日の開店間際に電話してきて、『17時半から予約したい』と言いました。アルコールの割引をおこなうハッピーアワーなどを実施しているときは別ですが、平日の17時半は、基本ヒマ。そのため、大歓迎でOKしました」

 店を開けるとすぐ、予約していた2人のうちの1人、Sが店へやってききた。「連れが店へ来るまで待たせてほしい」と言う。開店時間は、17時。予約の時間は、17時半だったが、外は雨。井上さんは、快く予約席へ案内した。

「メニューでも見てゆっくりしてもらおうと、お冷(水)とおしぼりを提供したのですが、スマホを片手にチラリとこちらを見ただけ。メニュー表や注文用タブレット端末に触れる様子もなく、ひたすらスマホをしている様子でした」

◆30分で水を3杯もおかわりした

 さらに、水のおかわりがひどい。予約時間の17時半が到達する前に、水を3杯もおかわりした。「めっちゃ飲みますね。ソフトドリンクでも注文してくれたらいいのにね」と愚痴をいうスタッフもいたが、井上さんは「喉が渇いていたのかも?」と諭している。

「注文は揃ってからかな?と思って待っていたのですが、17時半を過ぎても、もうひとりの連れが現れないのです。15分ほど待ってから、『お連れ様は、何時頃ご到着予定ですか?』と確認すると謝罪もなく、『いま向かっているみたいです』とだけ返答がありました」

 そして、またもや水のおかわりを要求。「ちょっと図々しいな」と思いつつも、もうひとりが来るまでにそう時間はかからないだろうと予測し、最後の無料サービスのつもりで新しい水を注いだグラスを提供した。

「ところが、それから10分が経ってもSの連れという人は来る気配がありません。そのため、18時ジャストになったときから『お連れ様の到着は何時頃になりそうですか?』と、10分ごとに声をかけることにしたのです」

◆1時間半居座って1円も払わず退店

 井上さんは先に注文しないかとも促してみたが、それでもSは「待つので大丈夫です」と言うばかり。店への謝罪や気遣いの言葉は一切なし。帰る気配もないまま、18時半になってしまう。予約時間からはすでに、1時間もオーバーしている。

「細かいことを言えば、Sが来店してからだと1時間半近くも経っています。さすがにこれは酷いと思い、予約時間から1時間経っていることを説明し、申し訳ないが注文するか退店してもらいたいと丁寧にお願いしました」

 すると「じゃあ、雨も止んだみたいだし帰ります」と謝罪もないまま立ち上がり、さっさと帰ってしまったのだとか。もちろん、お水やおしぼりの無料提供へのお礼もなければ、テイクアウトなどの利用もしていない。Sさんは、1円も払わず退店したのだ。

◆せめてお礼や謝罪の言葉がほしかった

「おしぼりや水でお金を払えとは言いません。でも、予約時間からでも1時間もテーブル席を占領しているので、せめてお礼や謝罪の言葉ぐらいはあってもいいのではないかと思います。何か注文するとかテイクアウトするとかしてもらえたら、さらに有難かったです」

 Sさんの振る舞いが故意なのか、それとも店に迷惑をかけていると気づいていないだけなのか、いまも悶々とする井上さん。店の人に嫌な思いをさせないよう、私たち利用者もお礼や謝罪の言葉をきちんと伝え、気持ちのよい対応を心がけたいものだ。

<TEXT/山内良子>

【山内良子】
フリーライター。ライフ系や節約、歴史や日本文化を中心に、取材や経営者向けの記事も執筆。おいしいものや楽しいこと、旅行が大好き! 金融会社での勤務経験や接客改善業務での経験を活かした記事も得意