銀座の中心エリア。左が鳩居堂、その隣が建て替え中の「三愛ドリームセンター」(記者撮影)

相続税や贈与税の算定基準となる路線価が7月1日、国税庁と全国の国税局より発表された。都内の標準宅地は、平均で前年比5.3%上昇。全国的にも平均2.3%上昇し、29都道府県で前年を上回る結果となった。

都内で上昇幅の大きかったのは、浅草の雷門通(16.7%増)、北千住駅西口駅前広場通り(15.1%増)、中野駅北口駅前広場前(13.2%増)。訪日観光客(インバウンド)の増加や再開発の影響が強いとみられる。

銀座「鳩居堂」前が39年連続で全国1位

その中で、改めて地価の高さを印象づけたのが銀座だ。銀座5丁目の老舗文具店「鳩居堂」前の1平方メートルあたりの路線価は4424万円と、39年連続で全国1位となった。エリアごとの最高地点で比較すると、今回初めて全国2位となった渋谷の「QFRONT」前が1平方メートルあたり3224万円。銀座の地価は、再開発で沸く渋谷と比べてもまだ35%以上高いことになる。


鳩居堂前の路線価の上昇幅は、コロナ禍が明け、3年ぶりの上昇に転じた昨年を上回る3.6%を記録。過去最高だった2020年の96%以上にまで回復した。すでにバブル期の水準も優に越えている。今後下落に転じる懸念はないのか。

「銀座の地価は上がって当然」「まだまだ上がる」。今回の取材では、不動産業界の関係者から強気な声が相次いだ。

銀座エリアに37の物件を保有し、「銀座の大家」の異名を持つ不動産大手のヒューリック。西浦三郎会長は「中央通りをはじめとした目抜き通りでは、坪あたり2億円を出しても買えない物件もある」と明かす。そのうえで、「確かに高くなっているが、実需があっての話。まだ上がる余地は十分にある」と続ける。

背景には、堅調なテナント需要がある。銀座中心部の路面店は、一度撤退すると次に入ることが難しくなるという事情から、「コロナ禍でもテナントはほとんど退去しなかった」(西浦会長)。

別の不動産業者は、「銀座には希少価値があり、テナントを募集すればすぐに埋まる」と話す。実際、ヒューリックが地権者と共同で再開発を進める「銀座コア」ビル(銀座5丁目)では、募集水準を上回る賃料でテナントが応募してきているという。

【2024年7月8日11:00追記】「銀座コア」ビルについての記載を上記のように訂正しました。

国内の富裕層も取り込む

不動産市場のデータを公表するCBREの調査によると、銀座中心部路面店の賃料は、2023年第3四半期でコロナ禍直前の水準を上回り、坪あたり26万0600円に上昇。2025年末には、26万9500円に達すると予想されている。中でも一等地とされるエリアの路面店賃料は、坪あたり40万円まで上昇している。

テナントの出店意欲を支えているのが、インバウンド需要であることは間違いない。さらに今回の取材で耳にしたのが、「銀座では国内客の流入も目立つ」という指摘だ。そうした国内客を取りこぼさないために、高級ブランド店の中には、国内客に絞った店舗を展開するケースも出てきている。インバウンドだけでなく、国内の富裕層需要も取り込んでいるのが、銀座の強さといえそうだ。

もともと銀座は狭い土地に細長く建つペンシルビルが多く、「大型の開発用地は出てこず、大手デベロッパーが参入しにくい」(業界関係者)。今でも銀座には、ウィンドーショッピングをしながら街を散策できる街並みが残っている。それが他のエリアにない特徴になっている。

個人の地権者が多く、「売却物件があまり出てこない」(別の関係者)ことが、地価の高止まりにつながっている側面もある。また、中小物件が中心なため、大型物件に投資する外資系ファンドの参入が比較的少ないとも指摘されている。

そうした中で、銀座での新たな投資機会を提供する動きもある。投資用不動産の販売を手掛けるボルテックス。2017年に竣工・開業した「GINZA SIX」(銀座6丁目)の10階オフィスフロアを、今年4月から不動産小口化商品として販売している。


GINZA SIX。ボルテックスは10階のオフィスフロアを小口化して投資家に販売を開始した(記者撮影)

1口100万円で、投資家は10口から購入できる。投資家の8〜9割は個人で、中小企業の経営者などが多いという。2年かけて全口を販売する計画だが、すでに20〜30%を販売した。「計画を大きく超えるペース。他の商品と比べ利回りが高いわけではないが、個人で銀座の不動産の実物に投資できる機会はほとんどない。銀座のオーナーになれるというステータスを求めるお客様も多い」(担当者)。

老朽化に伴う建て替え・改修が続く

銀座ではビルの老朽化に伴う建て替え・改修も多い。中央通りでは、60年にわたり銀座のシンボルとして親しまれてきた鳩居堂横の「三愛ドリームセンター」が建て替えを発表、現在解体中となっている。

ほかにも中央通り5丁目では清和綜合建物が、6丁目ではみずほ信託銀行が事業主となり、建設工事が進んでいる。中央通りから裏路地に入ったガス灯通りや並木通りでも、複数の建設計画が進行中だ。1つ1つの案件が大きいわけではないが、それらの集積が街の魅力度アップにつながりそうだ。


銀座ではあちらこちらで工事中のビルが見られる(記者撮影)

先を見越せば、銀座から徒歩圏内の築地で2030年代にも大規模な再開発が予定されている。回遊エリアが広がり、銀座の集客力がさらに向上するという期待もある。

「銀座ならどのエリアでも買いたくてたまらない」(複数の業界関係者)。不動産関係者は、当面銀座に熱い視線を送ることになりそうだ。

(筒井 華子 : 東洋経済 記者)