東北本線の黒磯―新白河間でワンマン運転を行うJR東日本のE531系電車(写真:tarousite/PIXTA)

ローカル線を中心に普及してきた鉄道の「ワンマン運転」は、今では都市部を含む全国各地に広がった。

ワンマン運転では、運転士がドアの開閉などといった車掌の仕事も引き受けることになる。また、ローカル線の場合は無人駅に対応するため、路線バスのように運転席近くに運賃箱を設置し、乗客は乗車時に受け取った整理券で運賃を確かめて降車時に支払う形が多い。車両も1両か、せいぜい2〜3両編成といったところだ。

都市以外にも広がる「都市型ワンマン」

しかし、今やワンマン運転はローカル線だけのものではなくなった。例えば東京メトロ丸ノ内線や南北線、副都心線、つくばエクスプレスなどはワンマン運転だ。

これらの路線は「都市型ワンマン」と呼ばれ、運賃の収受は駅で行う方式だ。前述の各線のようにホームドアを完備するなど安全設備を整えたうえで、長編成の列車を運転士1人で走らせることのできる体制となっている。

最近では、東急電鉄東横線が2023年からワンマン化を実施した。同線はホームドアを完備しているため導入しやすいといえる。JR東日本は、2025年以降に山手線や京浜東北線での導入を検討しており、ホームドアや安全確認の設備を充実させる中でこの形態の運行を増やすことになっている。

一方、最近は郊外や地方路線でも都市型ワンマン運転を導入する例が目立つ。

例えばJR東北本線の黒磯―新白河間は、2020年3月から5両編成のE531系電車でワンマン運転を開始。2024年3月からは同型車両で常磐線の土浦―水戸間、いわき―原ノ町間でもワンマン運転している。

2022年3月のダイヤ改正では、日光線や宇都宮線(東北本線)宇都宮―黒磯間に新型のE131系を投入してワンマン化。同時に相模線、八高線でも実施した。宇都宮線は、ラッシュ時には6両編成になることもある。2023年3月からは青梅線の青梅―奥多摩間もワンマン化した。いずれも4両編成以上の都市型ワンマンだ。


宇都宮線を走るE131系の6両編成(写真:tarousite/PIXTA)

都市型ワンマン運転に不可欠なものの1つは、ある程度長編成の列車でも運転士1人で乗降などの安全確認ができるための設備である。1〜2両程度の列車なら、ホームに設置したミラーで安全確認を行うこともできるが、5両や6両といった長さになると困難だ。一方で、郊外や地方の路線では監視用のカメラなどをすべての駅に取り付けるのは難しい。

側面のカメラが威力発揮

これらの線区で5両や6両といった長編成のワンマン運転を可能にしたのは、車両の側面に設置したカメラだ。ドア付近の映像を運転台に送って乗降の安全を監視することができる。車外カメラを設置した車両は各社に増えており、JR九州も車外カメラを設置した車両で6両編成ワンマン運転を行っているほか、東武鉄道も4両編成のワンマン車両に搭載している。


乗降の安全確認用として車両側面にカメラ(中央の出っ張り)を備えた車両は増えている(編集部撮影)

これまでワンマン運転は2両以下のローカル線のみだったJR東海も、この車側カメラを活用して2025年以降に4両編成での都市型ワンマン運転を導入する。同社は6月、新型車両315系4両編成に、画像認識技術を活用した安全確認支援装置を搭載すると発表した。各車両に前後2台のカメラを設置し、ドアが閉まってから列車に接近した人物を画像認識によって自動で検知、警報音などで運転士に通知する。

計画では、2025年度内に関西本線の名古屋―亀山間と武豊線で導入し、2026年度以降に東海道本線の浜松―豊橋間や大垣―米原間、三島―沼津間と御殿場線でも実施する。普通列車でもそれなりの輸送力が必要な東海道本線でもワンマン運転を導入することになるのだ。


武豊線を走るJR東海の315系電車。車側カメラを搭載した編成だ(写真:yako/PIXTA)

車側カメラという安全策が確立されてきたことで、ある程度編成両数の長い地方都市圏での都市型ワンマン運転導入は今後も増えると考えられるだろう。

安全確認とともに、都市型ワンマン運転に欠かせないのは駅での運賃収受だ。車内に運賃箱を置いているワンマン列車と違い、都市型の場合は無人駅でも駅側に改札機などが必要になってくる。

ここで都市型ワンマン運転導入の助けになっているのが交通系ICカードだ。無人駅でも入出場時にタッチする端末を設置することで運賃収受が可能だ。

運賃収受には課題が残る

だが、実は交通系ICカードの利用できない区間で都市型ワンマン運転を実施している例もある。

JR九州の大村線は全線で3〜4両のワンマン運転を行っている。同線は諫早―竹松間で交通系ICカードが使用できるが、それ以外の駅では利用できない。ICカード非対応の駅には切符や運賃を入れる箱があるだけである。慣れない利用者は不安なものを感じるだろう。

JR東日本でも、意外なところに設備不足といえる都市型ワンマンの区間がある。車外カメラ付きのE531系5両編成が走る東北本線の黒磯―新白河間だ。この区間は交通系ICカード(Suica)が導入されていない。券売機がなく乗車駅証明書発行機だけの駅もある。

また、常磐線のいわき―原ノ町間も、浪江―小高間にある桃内駅だけ交通系ICカードが利用できない。同駅は無人駅である。

これから人口減少が進む中、省力化・省人化は合理化のために必要な施策である。その中で、すでにワンマン化されているローカル線よりも輸送量が多い一方、都心部の路線ほど多くはないという区間で都市型ワンマン運転は今後も増えていくだろう。安全の確保はもちろん、運賃収受についても確実さが求められる。


「鉄道最前線」の記事はツイッターでも配信中!最新情報から最近の話題に関連した記事まで紹介します。フォローはこちらから

(小林 拓矢 : フリーライター)