【林 壮一】大学産業に暗雲が立ち込める中、「秋田の公立大」に注目が集まっている「納得の理由」

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2024年4月26日の『ワシントンポスト』に「現在、1週間に1度のペースで大学が閉鎖されている。学生たちはどうなるのか?」という衝撃的な見出しが躍った。

日本でも同様に、望めば誰でも大学生になれる時代になり、生き残りが危うい大学が増加している。

前編『潰れる大学・生き残る大学…私立大では早稲田が圧倒的に優れていると言える「納得の理由」』では、こうした中で“質のいい”学生を取る改革を進めた早稲田大学の例を取り上げた。後編では、潰れる大学・潰れない大学の特徴について『大学通信』で情報調査・編集部部長を務める井沢秀氏に話を聞いた。

いまだ安定の地位にいるのは旧帝国大学

米国においても、アイビー・リーグ(Ivy League)を始めとした名門私大は依然として人気が高い。1週間に1校が消え行く時代となっても、確固たる地位は揺るがない。

要するに、名も無き大学から潰れていくのが自然の流れだ。

井沢氏は続けた。

「旧帝大は皆強いですよね。関東圏のレベルの高い大学や、東大・京大の学生さんは、就職先にコンサルティング会社なんかを目指すのかもしれませんね。一方で、東北大などに進んだ堅実なタイプは、郷里の電力会社とか、公務員、充電系などを考える子もいると思うんですよ。地方は、そういう職に強いです。ただ、東京の大学に比べると派手な企業への志願者が少ないですね。もちろん学生さんの考え方はまちまちですが。

今、地元志向の若者が増加しています。。同現象はずっと続いていましたが、コロナによって更に強まった感があります。深刻な少子化が問題視されるようになった10年ほど前からは、地元の大学を卒業して故郷で就職する。

親も外に出したくない、という気持ちを汲む傾向が見られますね。東大に行けるのに、東北在住なら東北大、九州育ちなら九州大という風になっているようです。子供も素直ですからね。もちろん、メガバンクですとか、大手メーカー何かを志望する子もいるでしょうが」

ドルで稼げる能力は大きなアドバンテージに

こうしたなかで、注目を集めているのが、2004年に秋田県秋田市でスタートした公立の国際教養大学だ。2024年春に日本大学の某付属高校を卒業しながら、エスカレーターに乗らず、国際教養大学入学を掲げて浪人の道を選択した18歳は言った。

「授業が英語で行われるところが魅力です。国際人としてやっていきたいので。あそこで学んで、卒業後は海外の院に進学したいですね」

井沢秀氏に、同大学の魅力を訊いた。

「東京外大から移られた初代学長の中嶋嶺雄先生が、設立時から日本全国を行脚しました。マスコミにも出まくったんです。『この人、本当に東京外大の学長だったの?』というくらいフットワークの軽い方でしたし、電話一本でマスコミの取材にも応じていました。その結果、名門高の生徒が進学するようになったんです。

学生全員に留学を義務付け、授業はオールEnglish。24時間稼働の図書館、留学生と寮生活を共にする等、初年度から斬新なカリキュラムを打ち出しました。太いネットワークもあったと思います。4年経ってみて卒業生の代表的な就職先が、しっかりしたグローバル企業なので、再評価されたんですよ。将来的にドルかユーロで稼ぎたい子は狙い目かもしれませんね」

中国の大衆による動乱を描いた『北京烈烈』の著者でもある中嶋嶺雄初代学長は、次世代の若者に、それこそグローバルな視点で生きることの重要性を説いた。

円安が進み、1ドル=160円時代となった今日、確かにドルかユーロで収入を得ることは、大きなアドバンテージとなる。先見の明がある教育者が立ち上げた大学だからこそ、頑丈な根が張ったと言っていい。

だが、日本の教育界をリードする魅力的な存在など、そうそう見られない。名もなき大学は、どんどん淘汰されるに違いない。

井沢氏に、先日まで筆者が在籍していた大学の事情(4月に増設された新学部で、100名の定員に対し、入学者は僅か6名。全員が外国籍で日本語が話せない学生。その大学は同族経営で、コンサルタント会社に運営を丸投げしていた)を告げると、こんな回答だった。

「コンサルティング会社に投げても、大学経営のスキルを持っている訳ではないでしょう。が、そういうタイプの人間が生息している業界でもあります。最悪だと思いますよ。

劇薬を投与するよりもソフトランニングしたほうがいい大学もありますよね。たまたまお金を持っているから、コンサルティング会社に依頼する。無理だと分かってやっているんじゃないでしょうか」

我が国の大学産業も、遠からず、週に1校が閉鎖されるようになりそうだ。

潰れる大学・生き残る大学…私立大では早稲田が圧倒的に優れていると言える「納得の理由」