ラグジュアリー eコマース は終わったのか? 一部ではAI活用が進むもパイオニアたちは苦戦
ラグジュアリーのeコマース分野は、消費者の嗜好の変化と技術の進歩によって大きく変化している。かつてパイオニアと称賛されたファーフェッチ(Farfetch)やマッチズ(Matches)といったプラットフォームは、市場の需要についていくことができず、閉鎖や顕著な収益減に見舞われている。ことし1月に韓国のオンライン小売業者クーパン(Coupang)に買収される前のファーフェッチは、2023年第2四半期に前年同期比1.3%の減収を報告していた。一方でマッチズの問題は、共同創業者のトム・チャップマン氏とルース・チャップマン氏が最近のインタビューで語ったところによると、収益性が低かったという事実に関連していた。
ラグジュアリー市場の変化
コンサルタント企業のライトイヤーズ(Light Years)に勤務するルーシー・グリーン氏は、「ラグジュアリー市場を形成する新たな勢力が、顧客の買い物の仕方を変えており、それが小売業者の繁栄をさらに難しいものにしている」と話し、ラグジュアリー市場はとくに2極化していることを強調した。「現在、大半の富裕層がラグジュアリーの消費の大部分を支配している。上位の層はラグジュアリーのメガブランドに集中しており、これらのブランドはeコマースでの役割を向上させ、実店舗でのリテール体験を最終的な目的地とした」と、グリーン氏は言う。
こうしたブランドは、世界最高のホスピタリティブランドからトップクラスのサービス人材を採用し、提供するリテール体験を強化することで一歩リードしている。グリーン氏は、「ラグジュアリーのメガブランドは、仲介役としてのマルチブランド小売業を迂回しようとしている」と言う。
一方、消費者の可処分所得のレベルは変化している。「大手テック企業やロレアル(L’Oréal)のような会社で働く6桁の収入を得ていた人々のあいだで大幅な人員削減があった」とグリーン氏は指摘。そのうえで、「この層は生活費の上昇に伴い、以前にくらべて豊かであると感じられなくなっている。同時にファッションの価格も妥当な範囲を超えて上昇しており、消費者の購買決定に影響を及ぼしている」と話した。
いまでは多くの顧客が買い物をリサーチ活動として扱い、ほしいものを見つけてから、よりよい価格を探すようになっているのだ。
「顧客を獲得するに苦戦しているマルチブランド小売業者は、顧客が求めているサイズの包括性やパーソナライズされたショッピング体験を取り入れているD2Cブランドから学ぶべき」と、グリーン氏は述べた。同氏によれば、より多くのテクノロジーを統合した厳選した品揃えのブランドと比較すると、ファーフェッチのキュレーションは物足りなりないという。またチャップマン夫妻も、「マッチズの商品キュレーションがリテール業を始めた当初とくらべて低下していた」と話している。
AI主導のパーソナライゼーション
世界的なファッション検索プラットフォームであるリスト(Lyst)は、2億人の買い物客と1万7000ものブランドを抱えている。CEOのエマ・マクフェラン氏いわく、同社は買い物客の行動、好み、嗜好に基づいて顧客体験をパーソナライズし、ブランドパートナーのビジネス成長を支援するためにAIを活用しているという。
「我々のスーパーパワーは、約1000万点の在庫商品のカタログ全体にわたる豊富な顧客行動情報を押さえていることにある」と、同氏は自信をのぞかせる。2024年度、リストの流通総額は初めて6億ドル(約938億円)を超えた。同プラットフォームは主に、販売手数料、提携ブランドや小売業者からのリファラル料、広告、販促サービス、データインサイトを通じて収益を上げている。
画像とテキストの両方に基づいたリストのAI主導のパーソナライゼーションは、顧客エンゲージメントと満足度を向上させ、過去1年間でコンバージョンを20%近く増加させている。「当社の顧客は高い基準を持ち、かなりの情報通だ」とマクフェラン氏は言う。「顧客は多くの情報源から情報を引き出し、(膨大なブランドへのアクセスとカスタマイズ可能な検索を顧客に与えていることによって)深くエンゲージメントできるプラットフォームを高く評価している」。
オンラインラグジュアリービジネスは終焉か?
多くのブランドや小売業者にとってAIの活用は、「商品のレコメンデーションのみに留まらず、パーソナライズされたマーケティングメッセージやダイナミックな価格戦略にも及んでいる」とグリーン氏は述べた。
会員制ラグジュアリーショッピングクラブのロングストーリーショート(Long Story Short)の創設者であるジョー・アインホーン氏は、2022年に開始されたAppleのユニバーサルな「追跡禁止」機能がほかの市場に及ぼしたのと同様に、オンラインラグジュアリー市場の変化もほかの市場に影響を与えていると話す。オンライン機能で顧客獲得コストが上昇し、収益性が圧迫され、ブランドにとっては広告掲載料の上昇や売上高の大幅なカットにつながり、最終的には消費者価格をつり上げることになったという。
アインホーン氏の考えでは、従来のオンラインラグジュアリービジネスモデルは終焉を迎えているようだ。「ラグジュアリーブランドは、自分たちの伝統を守り、価格設定や流通チャネルをコントロールすることにますます力を入れるようになっているが、その一方でオンラインラグジュアリープラットフォームは苦戦を強いられている」と同氏は言い添える。
個性的なショッピング体験が重要に
勝ち残っていくのは、洗練されたレベルのパーソナライゼーションと顧客サービスを提供する企業だ。パリの新しいドーバーストリートマーケット(Dover Street Market)や、数カ月前にロンドンにオープンしたLN-CCのような、パーソナライゼーションに基づく小売コンセプトがそれに該当する。
LN-CCは、厳選されたハイエンドファッションのセレクションに加え、パーソナルショッピングサービスや、買い物客の嗜好に基づいたレコメンデーションを提供するオンラインエクスペリエンスが特徴だ。このプラットフォームは、限定コンテンツ、スタイルガイド、特別イベントなどでパーソナライゼーションを強化している。かたやドーバーストリートマーケット・パリは、顧客の独特なテイストを反映したアバンギャルドでラグジュアリーなファッションをキュレーションして提供。店舗では、オーダーメイドサービス、限定コラボレーション、独特な店内インスタレーションでショッピング体験を補完している。
なお、OpenAIの生みの親であるサム・アルトマン氏でさえも、「人々は近い将来、対面での体験を重視するようになるだろう」と語っている。
LN-CCのバイイングおよびクリエイティブディレクターであるリース・クリスプ氏は、「リテールの分野では、空間がこれまで以上に重要になっている」と語る。LN-CCの新店舗のデザインは、個性的なショッピング体験を提供することを目的としており、テーマ別の部屋でかなり厳選したブランドを紹介している。LN-CCのeコマースプラットフォームは、引き続きグローバルな若い消費者層にサービスを提供し、同社の品揃えを広く知らしめる役割を果たしている。
ラグジュアリー市場が進化し続けるなか、リストやLN-CCのようなパーソナライズされた体験を優先するプラットフォームやリテール業者が新たな基準を打ち立てている。「オンラインラグジュアリー市場の未来は、我々のような革新的なモデルにある」とアインホーン氏は述べる。
[原文:Fashion Briefing: AI, personalization and the fall of one-time leaders are transforming luxury e-commerce]
ZOFIA ZWIEGLINSKA(翻訳:Maya Kishida 編集:島田涼平)
