感動を呼ぶ斬新な懐石料理! 日本料理界に飛び級で現れた期待の大型新人が描く展望に迫る

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日本の料理界の次代を担う若きシェフたち。食の世界に精通する本田直之さんが聞き手となって、彼らの料理にかける思いやチャレンジを語ってもらう連載。第7回は銀座にある懐石料理店「有涯(ウガイ)」のシェフ藤井亮悟さん。弱冠24歳という若さながら、完成度の高い独創的な懐石料理に魅了されるフーディーが続出。進化が止まらない才能に注目です。

本田直之グルメ密談―新時代のシェフたちが語る美食の未来図

食べロググルメ著名人として活躍し、グルメ情報に精通している本田直之さんが注目している「若手シェフ」にインタビューする連載。本田さん自身が店へ赴き、若手シェフの思いや展望を掘り下げていく。連載7回目は銀座「有涯(ウガイ)」の藤井亮悟シェフ。伝統と革新を融合させた懐石料理を若き感性で創出する新進気鋭の若手シェフが描く未来の展望とは?

料理のためならどんな努力も惜しまない若き才能

左:藤井亮悟さん、右:本田直之さん

本田:今までインタビューを受けたこと、あんまりないよね。

藤井:こんなにちゃんとした形式は初めてです。うまくしゃべれるかどうか。

本田:大丈夫。よろしくお願いします。詳しい経歴を教えて。

藤井:料理を始めたのは15歳からです。父がもともと日本料理の料理人で、小さい頃から身近に“食”がありました。とにかく勉強が苦手で、高校へ行くよりは料理をしたいと思い、料理人になろうと決めました。最初は大阪のホテルにある和食レストランで修業を始め、その後、京都や大阪の料理店、何軒かでバイトをしていました。

本田:東京に出てきたのは?

藤井:17、18歳ぐらいの時です。修業を始めた店の大将に一度は東京を見た方がいいと言われて、和食レストランを紹介してもらったのがきっかけです。東京で働いた後、箱根の旅館に併設されている料亭で3、4年ほど住み込みで修業をさせていただきました。

本田:その後が「有涯」?

藤井:その前に神楽坂で会員制のお店を持たせていただきました。それから、今のオーナーに声を掛けていただいて、「有涯」をオープンしたのは2022年12月です。

本田:その時は何歳?

藤井:オープンした時は23歳です。

本田:すごい! 和食は寿司に比べると修業期間が長いよね。どうやって乗り越えたの?

藤井:極端ですけど、休まず寝ずに修業しました。10代の頃は、本当に一日も休んだ記憶がないぐらいです。東京にいる時は、朝、築地の鮮魚店に行って魚をおろして、それから店に行って仕込みに入るみたいな生活をずっとやっていました。全ての時間を勉強に費やしましたね。専門学校に行ってないので知識も技術もなく、できないことが多くて、卵を割ることすらできなかった。父に頼んで大根のかつらむきやだし巻きなどを教えてもらうこともありました。できないことが少しずつできるようになっていくのが楽しかったですね。

本田:料理人を目指す前から、何か料理に関することをやっていた?

藤井:父と一緒に魚をおろすなどはやったことがあります。子どもなので身がボロボロになりました。その時は楽しいというより、無理やりという感じで。15歳から修業を始めるまではちゃんと取り組んでいたわけではありません。

本田:お父さんが本格的に料理しているのを、子どもの時に体験しているのは強いよね。

藤井:味覚は鍛えられました。

本田:特に料理人は、子どもの時に味覚を鍛えているのは強いよね。勉強が苦手で料理人になろうと思ったと言ったけど、料理も結局、勉強だよね。すごく勉強したんじゃないの?

藤井:料理を通してなら勉強も頑張れました。箱根では自分のポジションの仕事が終われば、残りの時間は自由に過ごせたんです。だから、早く終わらせて、買ってきたお茶菓子や洋菓子の本の1ページ目からお菓子を作っていました。読んで勉強するというよりは作れるようになりたくて、載っているお菓子を全部作って制覇しました。

本田:料理の基礎ができたのは箱根?

藤井:技術的な面では箱根が一番大きかったですね。

本田:どういうポジションで働いていたの?

藤井:最初は八寸場。その後、板場と煮方を兼任させてもらいました。店に入ったばかりの頃は10代で、厨房には20代前半や後半、30代前半の先輩たちがいましたが、飛び越して、やらせてもらっていました。

本田:何でそこまでできるようになったわけ? アピールしまくった?

藤井:しまくりましたね。先輩たちに噛みつきまくりました。僕の方ができるよって。干されそうになったくらいです。でも、大将が僕を買ってくれていて。「だったらやってみろ」というスタンスでやらせていただきました。

本田:やらせてもらったら、結果は出さないとね。魚をさばく練習は築地で?

藤井:東京で働いていたレストランの系列店です。そこでは、ほとんど水洗いや売り込みばかりしていました。閉店後、売れない小魚をトロ箱で1,000円くらいで買って、家で全部をおろして、毎日、練習していました。

本田:わざわざそういう店を選んだのは、魚の扱いに詳しくなりたいから?

藤井:「かつらむきやだし巻きは上手だけど、君、魚、何もおろせないよね」と店で言われて。魚をおろせなかったら、そもそも板ができない。板ができないんだったら、煮方もやらせられないと言われたのがすごいショックでした。だったら魚をおろせるようになりますと言って、働かせていただきました。

本田:自分が足りないところを見つけて、スピードをかけて補っていく。いろんな人を見ていて思うのは、考えて修業する人と、言われたからやっているだけの人とでは劇的に差がつく。和食の修業は通常10年ぐらいかかるけど、店で学ぶだけでは足りないことを必死で補っていけば飛び級できる。それをやったということだね。

藤井:とにかく早くお店を持ちたかったので。

本田:だいぶ早いけどね。

試作はしない、頭の中で完成させる自分色の料理

「有涯」看板。銀座のビルの地下。隠れ家のような趣がある

本田:自分で全部やるようになったのは箱根の後?

藤井:神楽坂の店からですね。お品書きは修業を始めた時から毎月分書いていたんです。ストックはあったので、それをうまく店に合わせながらメニュー作りをしました。

本田:全部自分でメニューを作るとなると、なかなか難しいでしょ?

藤井:神楽坂の時は、一緒に働いてくれる料理人さんが多くて、しかも、皆さん、30、40代の方ばかりでした。お品書きやレシピ作りよりも、人に伝えることが苦手で。自分の思っていることや、こういうふうにして欲しいとうまく伝えることができなくて。それで「有涯」は小さい店にしてもらって、極力、最初から最後まで一人でできるようにしています。

本田:一人でやるのは大変じゃない?

藤井:僕は誰かと一緒にやる方が大変。

本田:向き不向きが早めにわかるのも大事だね。無理して人を雇ってトラブルになって、やりたくなくなっちゃうのもつらいかな。最初から6席ぐらいでできれば、ベストはベスト。昔は、こういう小さな店ってあんまり成り立たなかった。今は、カウンター席で高価格の店が成り立つようになったから、一人が向いている人は、人を雇わないで店ができるようになった。でも、一人だと休めないでしょ?

藤井:休みの日には仕込みをしたり、店で使う米も御殿場で育てているので、週1でその作業をしたりしています。

本田:それもなかなか大変だね。

藤井:でも、米作りは料理とは全然、違うので楽しいです。

店舗内観。カウンター6席、個室4名

本田:料理を作る時のアイデアはどうしているの? 本を見ながらお菓子を勉強したって言っていたけど、料理も同じように? 修業先で教えてもらった料理もあるかも知れないけど、それだけじゃ全然足りないでしょ。

藤井:ここでは修業先の親父さんに教えてもらった料理はやらないでおこうというのが僕の中にあります。親父さんが来た時に、真似したって思われるのがそもそも嫌なのと、せっかく「有涯」に来ていただいたなら、自分色の料理を食べていただきたいと思っていて。

本田:クリエーションはどうしている?

藤井:おいしくなればいいなと。これとこれを合わせたらとか、こういうふうな食感にしたら面白いかなという感じで考えています。

本田:アイデアを得るためにいろいろなところに食べに行ったりしない? 何も見ないで自分で考えるの?

藤井:先輩たちのお店に通わせていただくのは、どちらかというと空間の勉強のためです。僕が弱いところは、店としてどういう空間を作っていけるかだと思うので。料理に関しては、ほとんどパッと思いついたものを作っています。他の店と被ったり、真似をしたりしたと思われるのがすごく嫌なんです。そうは言っても、だしの引き方のように真似しているところは多分あるとは思います。けれど、クリエイティブな部分に関しては、自分が考え出したものをやりたいと思っています。

本田:それって大変じゃない? パッと思いついても全く合わないこともあるじゃない。すごく試作する?

藤井:料理の試作はしないんです。

本田:え?

藤井:今まで1回もしたことなくて。基本的にこれを作りたいというのが自分の中で決まっているので、それを変えることはそうそうありません。そこまでクリエイティブじゃなくて、結構シンプルなんです。例えば、焼きナスのアイスクリームだと、暑い時期に冷たい焼きなすを出したいな、というところからアイスクリームにしたら面白いだろうな、みたいな考えで料理は作っています。なので、試作はそんなにしません。

「のどぐろの柚子幽庵焼き」。シグネチャーメニュー。のどぐろの下に敷かれているのは、焦がした玉ねぎと和三盆のキャラメルソース。柚子幽庵で酸味を持たせたのどぐろに、香ばしく甘いソースを合わせている

本田:でき上がって「あれ?」みたいなのはないの?

藤井:お客様にお出しする時に調整します。

本田:最後に味見して?

藤井:はい。そこで整えていく。逆に試作すると駄目になっちゃうと思うんですよ。わかんなくなってきちゃうから。何が良かったかも忘れてしまう。

本田:頭の中で完成しているわけ?

藤井:自分の中で想像して、それを料理にすればいいという感覚でやっています。

本田:コースのメニューを作る時も頭の中で考えて?

藤井:最後の料理、お茶菓子から考えるようにしています。そこで次に来る季節を感じる“はしりもの”を使う。今だと、ふきのとうを出しています。ふきのとうは、これからどんどん苦みが出てきておいしくなってくる。その予感を込めて最後のお茶菓子にふきのとうを持っていきたいなと。その次に考えるのが先付け。先付だと“なごりもの”。今の時期だったらフグの白子など冬の“なごりもの”を使います。コースの中で四季を感じていただけるような構成にしています。

本田:あとは仕入れを頑張る。

藤井:とにかく、おいしい食材を仕入れて、その食材をより良くする、おいしさを損なわないようにすることを心掛けています。

本田:ウエケンさん(豊洲市場、水産仲卸業者)から仕入れているそうだけど、良い仕入れ先はどうやって見つけているの? 今までのコネクションとかあまりないでしょ?

藤井:たまたま行った寿司店で紹介してもらいました。魚がすごくおいしくて、大将に業者はどこなんですかって聞いたら、紹介してくれたんです。存在はもともと知っていたんですけど、一見さんはお断りでしたから。そこからすごく良くしていただいて、食材もいろんなものを使わせてもらっています。有名店で働いたことがなく、横のつながりがないので、いろんな人に助けてもらいながら、少しずつ業者や生産者とつながっているという状況です。

本田:ほかの食材は? 野菜はどうしている?

藤井:野菜は、静岡や千葉に友達や知っている生産者が多くて、そこから入れています。良い仕入れ先は、常に探していますね。

本田:良いところから仕入れられるようになると、もっと仕事がやりやすくなる。

目指すのは和食、最年少でのミシュランの星の獲得

本田:料理人のつながりは結構あるの?

藤井:全然なくて。でも、最近、料理人さんたちにお店に来ていただけるようになりました。なるべく来ていただいたシェフのお店には伺うようにしています。

本田:今、好きなお店はどういうところ?

藤井:最近行ったところだと、赤坂見附に移転した「薪鳥新神戸」。焼き鳥がすごく好きなわけではなかったんですけど、食べたらめちゃくちゃうまいと素直に思いました。それと、シェフが一人でやっていて、そんなに話さない。完全に振り切っていて、ずっと背を向けて鶏を焼いている。

本田:移転して席が増えたからね。以前は説明もしていた。

藤井:そうなんですね。逆に、僕には焼き手だけをやっているのが斬新で、すごくハマりました。ほかには近所になりますが「銀座 しのはら」。料理ももちろんですが、大将を含めてお弟子さんたちが醸し出す空気感がすごい。僕たちも勉強させていただきたいと思っているところです。

本田:カウンタービジネスだから、ああいうエンターテイメント性が必要。「しのはら」出身の料理人が別府にオープンした「日本料理 別府 廣門(ひろかど)」という店があって、彼もまだ若いけどプレゼンテーションがすごい。1回、見るといいよ。カウンターって対面なわけだから、トークもだし、店主の醸し出す雰囲気も必要。ずっと黙って料理しているなら、カウンターでなくてもいいじゃん。客も緊張しちゃうわけですよ。「しのはら」や「廣門」は、もちろん料理もおいしく食べてもらいたいけど、楽しんでもらおうという気持ちがものすごく強い。

藤井:大がかりな演出は人数がいないと無理ですが、一人でもできるお客様の喜ばせ方はあると思います。トークとかを勉強して「しのはら」みたいな楽しいお店にしたいですね。

本田:それはできそう? よく言うのが、和食もそうだけど、寿司店から独立する時には料理と同じように話す技術も大事。それが苦手な人がカウンター店をやると、ぐちゃぐちゃになっちゃう。和食なんか特に裏にしかいないから、トークのトレーニングとかしていない。お客さんと話さないでしょ。もともと話すのが得意な子はすごく有利だけど、そこでつまずいちゃう人もいる。「有涯」の前に神楽坂の店をやっておいて良かったよね。

藤井:神楽坂の店でも、最初は、料理を作るのに必死でほとんどお客様と話せていませんでした。でも、その経験があったので、「有涯」では多少話せるようになったかなと思います。まだまだ自分の中に引き出しも少ないので、料理だけじゃなくていろんなジャンルを勉強していきたいですね。

本田:料理以外の知識を得ようと何かしてる?

藤井:子どもの時から中学まではサッカーをやっていました。あとは将棋ですね。父に教えてもらって、小さい頃からずっとやっていました。箱根の時は、将棋の相手をしたのがきっかけで大将に気に入られて、いろんな仕事を任せてもらえました。

本田:それは面白いね。スティーブ・ジョブズが「Connecting the dots」、日本語だと「点と点をつなげる」ということを言っている。どういう意味かというと、全然つながりそうにない点と点がいっぱいあって、でも、ある時、それが全部つながって、一気に伸びるみたいな。将棋も料理には何の関係もなさそうだけど、それがつながったからね。もしかしたら将棋をやってなかったら、今ごろ、料理は全然できてないかもしれない。

藤井:その可能性あったかもしれません。

本田:これから、どうしていきたい?

藤井:「しのはら」のように、来ておいしいだけじゃなくて、楽しかったなとか、そういう日常から離れた感覚になっていただける店にしたいなと思います。僕個人として料理業界に入ってきてずっと目標にしていることは、ミシュランの星を取ることです。

本田:どうやったら取れると思う?

藤井:料理を頑張って、おいしいものを作り続けていく。作りながら空気感や空間について学んで、「有涯」ならでは、「有涯」だったらと思ってもらえるお店にしたいと思います。

本田:今、24歳だっけ? 和食で星を持っている20代っていないと思う。だとしたら面白い、チャンスじゃん。それを言いまくっていた方がいい。誰かが何か助けてくれることがあるかも知れないけど、言わないとわからない。将来はどうしたい? 将来と言っても、24歳だからだいぶ先の話だけど。

藤井:あまり長期的な目標を考えたことはなくて、何十年後のビジョンはないですね。どこかでやりたいとか、どういう場所に行きたいとかもなくて。今はまだできないことだらけなので、そういったことをできるようになりたいと思っています。

本田:「有涯」にまだ来たことない人に、こういう店なんですと伝えるとしたら?

藤井:僕と同い年の女将がやっている店というのもあってチームがすごく若い。そのことでフレッシュさ、他にはない空気感が出せているかなと思っています。ただ、それだけに頼りたくない。しっかり実力をつけて、これだけおいしくて、サービスも良いのにまだ若いよね、若いけどすごいと言ってもらえるようにしたいですね。

本田:料理としてはどう?

藤井:意識しているのは、奇をてらい過ぎず自分色を出すこと。毎月、料理を食べていただければ、「有涯」の料理はこういう料理だねと思っていただけるものになっていると思います。四季を通して“これが「有涯」の料理”ということを伝えていきたいですね。

本田:なるほど。今日はありがとうございます。

藤井:ありがとうございます。


<店舗情報>
◆銀座 有涯
住所 : 東京都中央区銀座1-4-6 紅雀ビル B1F
TEL : 050-3138-5797

撮影:長尾真志
取材:本田直之、食べログマガジン
文:小田中雅子

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