NHK朝ドラ『虎に翼』早くも傑作の呼び声…ヒロイン伊藤沙莉を牽引する尾野真千子「唯一無二の語り」

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伊藤沙莉主演の連続テレビ小説『虎に翼』(NHK)が4月1日から始まり、第3週に突入。第2週の世帯平均視聴率は第1週に比べてさらにアップ。期待が高まるばかりか、朝ドラ・フリークの間では、早くも傑作の呼び声が高まっている。

今回の朝ドラは、日本初の女性弁護士で、後に裁判官を務めた三淵嘉子の人生をモデルにしたオリジナルストーリー。ヒロイン寅子(伊藤)と、その仲間たちが困難な時代に道なき道を切り開くリーガルエンターテインメントだ。

しかし今作になぜ、これほど期待が集まっているのか――。

理由はいくつかあるが、そのひとつに寅子の心の声を担う、尾野真千子の“語り”があるのではないか。

「まず目を引いたのは、晴れて明律大学女子部法科に入学した寅子の同級生をテロップとともに紹介していくくだり。“華族の桜川涼子(桜井ユキ)”から始まり、“弁護士の夫を持つ最年長の大庭梅子(平岩紙)”、“朝鮮から日本に住む兄を頼ってやってきた留学生・崔香淑(ハ・ヨンス)”と、語りが長くなってきたぞと思った途端に、“尻餅の寅子”で落とす。しかも『男装 山田よね(土居志央梨)』の語りに至っては、“なんとな〜く扱いにくい一派からも扱いにく〜く思われている”といった風に紹介するなど、遊び心もたっぷり。

かと思えば、第4話の兄(上川周作)と親友(森田望智)の結婚式で、その場を盛り上げるために寅子が自慢の美声を披露する。しかし心の中では、結婚への違和感を露わにしている寅子の心の内を、“なんで女だけニコニコこんなまわりの顔色うかがって生きなきゃいけないんだ?”と語ってみせる。人間の二面性を巧みに表現する尾野の語りには、驚くばかりです」(制作会社ディレクター)

この展開を観て、坂元裕二がオリジナル脚本を手掛け、それこそ伊藤沙莉がナレーションを務めたドラマ『大豆田とわ子と三人の元夫』(フジテレビ系)を思い出した。

「バツ3・子持ちの社長・とわ子(松たか子)が、3人の元夫(松田龍平、角田晃広、岡田将生)に振り回される“新感覚ロマンティック・コメディ”。登場人物に寄り添い、時にツッコミを入れ、心情を巧みに伝えるナレーションはまさに絶妙で、毎回ツイッターのトレンドワードに名を連ねていました。

『虎と翼』の脚本を手掛けるのは、吉田恵里香。彼女は、尊敬する脚本家のひとりに坂元裕二の名前をあげています。今作は坂元作品へのオマージュとも取れ、味わい深い語りとなりました」(前出・ディレクター)

朝ドラ史上、最高傑作ともいわれている『カーネーション』でヒロインを務めた尾野真千子。この作品でも“語り”を務め、腕前はすでに折り紙つきだ。

だが『虎に翼』で、伊藤沙莉とともに奏でるシンクロ率の高い掛け合いには、ある秘密がある。

「2人は映画『ブルーハーツが聴こえる』などでも共演。伊藤が20歳の頃から、カラオケやタコパを楽しむ間柄です。今回尾野が語りに決まった際、伊藤は『大好きな最高の先輩のお名前をお聞きし、極上の喜び』『語りや心の声がより近く、心強いものとなり、演じる上でもとても支えになっています』とコメントしています」(制作会社プロデューサー)

4月16日に放送された第12話では、寅子たち女子部による法廷劇が登場。男子学生から

「どうせ誰も弁護士なんてなれねぇよ」

という罵声が飛ぶと女子部の面々が猛抗議。よね(土居)が舞台を降り詰め寄る場面では

「よねさん? ダメダメダメ!」

と、寅子の心の声なのか、はたまた語りを入れる尾野真千子の声なのか。もはやわからなくなるシュールな展開には、思わず口あんぐり。

しかもラストシーンで、大声を張り上げ鬼の形相を浮かべる寅子の顔が映し出されると、尾野が慌てて

「舞台を降りたらダメ〜!!」

と絶叫しながら必死に止める。このヒロインと“語り”の掛け合いには、朝ドラの新たな可能性すら感じてしまう。

「制作統括を担当する尾崎裕和氏は、『“虎に翼”は声のドラマです。法廷に響く荘厳な判決の声、仲間たちのはしゃいだ笑い声、そして弱きものたちの声なき声。

そんな声のど真ん中にいていただく『語り』を尾野真千子さんにやっていただける。最初の収録、尾野さんの声を聞いて、この作品の成功を確信しました』と話しています」(前出・プロデューサー)

縦横無尽で唯一無二の尾野真千子の“語り”。そして、この語りを引き出す伊藤沙莉の鬼気迫る演技。2人のバトルが今作『虎と翼』を傑作と言わしめる理由のひとつであることは、まごうことなき事実である――。

文:島 右近(放送作家・映像プロデューサー)
バラエティ、報道、スポーツ番組など幅広いジャンルで番組制作に携わる。女子アナ、アイドル、テレビ業界系の書籍も企画出版、多数。ドキュメンタリー番組に携わるうちに歴史に興味を抱き、近年『家康は関ケ原で死んでいた』(竹書房新書)を上梓。電子書籍『異聞 徒然草』シリーズも出版