消費者の消費習慣の変化に伴い、D2Cに注力しているアパレルブランドが問題にぶつかっている。

ファッションダウンブランドのカナダグース(Canada Goose)は3月、「効率と利益拡大の達成」に専念するため、全従業員の17%をレイオフすると発表した。このニュースが報じられたのは、大手スポーツ用品メーカーのナイキ(Nike)が広範なリストラの一環として1500人以上の人員を削減した1カ月後、またアパレルメーカーのリーバイス(Levi)が2年間にわたる「生産性向上のための取り組み」の下で従業員の約15%をレイオフすると発表した2カ月後のことだ。

D2C戦略に注力してきた3社



これら3社はいずれもこの数年、D2Cの売上を伸ばすために野心的な計画を発表してきた。2023年にカナダグースは、2028年までに売上の80%をD2Cが占めるようにしたいと発表した。2022年にリーバイスは、2027年までにeコマースの売上を3倍にするとした。ナイキは2021年までに、直営店とウェブサイトに重点を置いてより多くの利益が配分されるよう、小売パートナーの50%を切り捨てた。

各社の計画はいくつかの面においてはうまくいっており、どの企業もビジネスの大部分を占めるほどにD2Cを成長させることはできた。しかし同時に、金銭的余裕がない消費者が衣類や靴などの自由裁量商品への支出を控えていることで、卸売や全体的な需要に関する課題にも直面している。

解決策を見つけようと、カナダグース、ナイキ、リーバイスはいずれもこの3カ月間にレイオフを実施したり、コスト削減計画を発表したりしている。依然としてD2Cに注力しているブランドもあれば、卸売の再成長を試みているブランドもある。残る課題は、これらのブランドや競合他社たちが、チャネルのバランスをどれだけうまくとれるかだ。

ブランドは何を見ているか



シューズブランドのオールバーズ(Allbirds)やアイウェアブランドのワービーパーカー(Warby Parker)のような有名ブランドが上場したパンデミックの初期には、D2Cブランドの未来は明るく見えた。当時は、多くの消費者がウェブサイトやアプリなどのeコマースチャネルを通じてブランドから直接購入していた。しかし、インフレが進行し、金利が上昇するにしたがい、消費者は卸売も含むあらゆるお得なチャネルから購入するようになった。現在、eコマースの成長は比較的横ばいであるにもかかわらず、Amazon プライムデー(Amazon Prime Day)のような強力なプロモーションイベントは売上を更新し続けている。

この数カ月に報告されたカナダグース、リーバイス、ナイキ3社の四半期決算はまちまちだった。カナダグースの売上高は前年比6%増で、リーバイスは3%増だ。ナイキはほぼ横ばいだった。いずれもD2C売上は増加したが、卸売は別の話で、カナダグースとリーバイスはともに減少し、ナイキは増加した。

2023年2月、カナダグースはD2Cにフォーカスした5カ年戦略計画を発表し、初の最高デジタル責任者(CDO)を雇用して、店舗数の倍増に着手した。カナダグースは現在、D2Cが同社収益の5分の4を占めるという目標を達成している。2024年度第3四半期は、収益の約84%がD2Cチャネルによるもので、前年同期の78%から増加した。

それでもカナダグースのCEOを務めるダニ・リース氏は、3月末の規制当局への提出書類のなかで、同社は「地域、カテゴリー、チャネルの枠組みを超えて、次の成長を促進するという目的に合わせて」リソースを配置するために、チームを再編しているとコメントした。リース氏は今回のレイオフを「当社のビジネスを将来的に最高の位置に置くための正しい決断」と称している。

「効率と利益拡大の達成に注力しているが、一方で、ブランド、デザイン、最高クラスのオペレーションといった主要な取り組みに投資し、我々の象徴的な高性能ラグジュアリーブランドを全力で売り出して、長期的な成長を実現する」と同氏は付け加えた。

「D2Cからの脱却」を明言はしていないが……



カナダグースは最近の発表でD2Cの縮小には言及しなかったが、卸売に関して問題を抱えている。同社は百貨店チェーンのノードストローム(Nordstrom)やサックスフィフスアベニュー(Saks Fifth Avenue)などのパートナーを通じて販売しているが、前四半期の卸売売上は前年同期比で28%減少した。カナダグースは、このひとつとして「既存顧客からの注文の減少に起因する、計画に折り込み済みの見込み注文額の減少」にあるとしている。同社は決算発表のなかで、「先を見越して在庫を管理することで、卸売パートナーからの収益が増すことが予想される」と補足した。

カナダグースと同様に、リーバイスもD2Cからの脱却は示唆していない。実際、同社の2カ年成長計画では「D2Cファースト戦略」の加速が特に言及されている。リーバイスは最近、同社初の最高デジタル責任者を任命し、2027年までにD2Cが総収益の55%を占めるようになることをめざしている。前四半期は、D2Cが収益の42%を占め、前年同期の39%から増加した。

しかし、リーバイスも卸売の減速が見られており、事業全体に影響を及ぼしている。卸売の純収益は報告ベースで2%減少した。それでも同社は、D2Cを押し進めながら状況を好転させることができると、前向きの姿勢を崩さなかった。CEOのミシェル・ガス氏は1月に、「当社の卸売事業を安定させるための取り組みはうまくいっている」と発言した。「2024年の見通しとして、卸売事業は引き続き慎重に計画しているが、この重要なチャネルについては慎重ながらも楽観視している」。

一方、ナイキは卸売事業の成長に努めた結果、卸売売上が前年比で3%増加した。同社によると、レイオフは「将来の成長を促し、イノベーションを加速させ規模を拡大し、長期的な収益向上を推進する」ために12月に発表した20億ドル(約3030億円)の大規模なコスト削減プログラムの一環であるとのことだ。

8000店の実店舗、5つのグローバルコンセプト、4つのアプリを所有するナイキは、そのD2C戦略に亀裂が生じはじめている。前四半期、D2C全体の売上はわずかに増加したものの、ナイキブランドのデジタル売上は2015年以来初めて減少した。

そして昨年ナイキはD2Cファースト戦略の下で停止していた、スポーツ用品チェーンのフットロッカー(Foot Locker)、シューズ小売チェーンのDSW、百貨店チェーンのメイシーズ(Macy’s)との卸売関係を再開した。

ナイキのCEOを務めるジョン・ドナホー氏は3月、ナイキが卸売パートナーにさらに「傾注」する必要があると公に発表した。「ナイキが本来のポテンシャルを発揮していないことはわかっている。当社のD2C加速戦略は、成長と消費者との直接的なつながりを推進してきたが、いくつか重要な調整を実施する必要があることは明らかだ」。

バランスをとるための施策



企業によっては、D2Cに全力で取り組むことが理想的な動きとなる場合もある。流通、マーケティング、プロモーションを自社内で完結させつつ、すべての顧客データを所有し、管理できる。直営店舗にスタッフを配置し、自社のウェブトラフィックを把握することもできる。

店舗内管理ソリューションプロバイダーであるオプティマムリテイリング(Optimum Retailing)の共同創業者兼CEOを務めるサム・バイス氏は、リーバイスやカナダグースなど強固な意志を持ってD2Cを押し進めているブランドは、その戦略に徹底的に打ち込む必要があるという。「D2Cをやるのなら、D2Cだけをやるべきだ」と同氏は米モダンリテールに語った。「D2Cに専念せずにほかの場所でも商品を購入できるというのは、消費者としては少し不思議に思う。私は卸売戦略をまったく理解できない。そのブランドの価値を下げてしまうのではないか」。

コンサルティング会社のガートナー(Gartner)でシニアディレクターアナリストを務めるアント・デュフィン氏は、D2Cは力のあるブランドには間違いなく利益をもたらしていると米モダンリテールに語った。一方で、D2Cには限界があるかもしれないとも付け加えた。特に、消費者が百貨店やショッピングモールなどのほかのサードパーティから商品を購入したいと思っているときは、「ちょっとしたガラスの天井のようなものが存在する可能性がある」という。

「現在、D2Cに注力している多くのブランドがこれに気づきはじめ、『売れるのであれば、どこで売れたかは本当に重要なのだろうか? もちろん、収益性の観点でいえば明らかにD2Cのほうが優れているが、卸売パートナーを通じて売上を上げることができるのであれば、競合他社にその売上を奪われるよりましだ』と言いはじめているだろう。これにより、バランスのとれた良いブランドがどのようなものであるかというダイナミズムを変えたのだと思う。要は、総合的に見て成長しているかどうかだ」。

カナダグースなど多くのブランドは、D2Cの売上を伸ばす施策を進めている。しかし、ビジネスの何パーセントをD2C売上が占めるようにするかについて、高い目標を立てることは難しいかもしれないとダフィン氏は話す。ブランドは、顧客がどこでどのように自社商品と接触しているかを追跡し、「予想の再調整」をする必要があるという。

「高価格で、独占性が高く、場合によっては流通量が十分に多いブランドであれば、D2Cにまだ意味があると思う。しかしそこで問題になるのは、その進化の先にある課題とは何なのかということだ」と同氏は語った。「実際のところ、ブランドがどう考えるかだ。つまり、『仮の話として、当社ビジネスの70%をD2Cにしたい』と言ってはいるが、実際『良い』ように見えるのはビジネスの30%かもしれないということだ」。

[原文:Canada Goose, Levi & Nike hit snags in their quest to build bigger DTC businesses]

Julia Waldow(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:都築成果)
Image via Canada Goose