2024年2月14日に、「ロシアが宇宙に核兵器を配備しようとしている」という疑惑が報道されました。ロシアによる宇宙への核兵器配備がもたらす影響について、カリフォルニア大学サンディエゴ校で安全保障について研究するスペンサー・ウォーレン氏が解説しています。

Is Russia looking to put nukes in space? Doing so would undermine global stability and ignite an anti-satellite arms race

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報道によると、ロシアは衛星兵器に対抗するために宇宙空間への核兵器配備計画を進めているとのこと。報道の翌日にはアメリカのジョン・カービー戦略広報担当調整官が「安全に対する差し迫った脅威はない」としつつ「ロシアが対衛星兵器の配備を進めている」という情報が存在することを認めました。一方でロシアのウラジーミル・プーチン大統領は2024年2月20日に「宇宙への核兵器配備には断固として反対している」と発言し、宇宙への核兵器配備計画の存在を否定しています。

ロシアは宇宙への核兵器および大量破壊兵器の配備を禁止する宇宙条約に批准しています。しかし、ウォーレン氏はロシアやアメリカなどの大国が新戦略兵器削減条約の履行を停止したり、中距離核戦力全廃条約を廃棄したりしてきたことを踏まえて、今後も宇宙への兵器配備を自粛するとは限らないと指摘しています。

宇宙へ核兵器を配備する場合、攻撃目標は「地球上の標的」か「軌道上の人工衛星」のいずれかとなります。宇宙から地球の標的に向かって核弾頭ミサイルを発射することには「レーダーで探知されやすい」「ミサイル防衛システムで迎撃されやすい」という欠点が存在しますが、抑止力としては大きな効果を発揮します。また、ウォーレン氏は「地球上の核発射システムや通信システムに対する先制攻撃」には宇宙からの攻撃が十分に役立つ可能性を指摘しています。



ウォーレン氏によると、宇宙に配備された核兵器の最も現実的な用途は「敵の軍事衛星やGPSなどの測距衛星の破壊」とのこと。軍事衛星を破壊するには核兵器を直撃させる必要はなく、対象の近くで爆発することで大量のガンマ線を照射するだけでも衛星を機能不全に陥らせることができます。

ロシアが宇宙空間に核兵器を1つでも配備すれば、「ロシアに対抗してアメリカが配備し、それに対抗して中国が配備し……」といったように他の国々も巻き込んだ軍拡競争が始まる可能性が十分にあります。また、ウォーレン氏は「攻撃用の兵器と防衛用の兵器を見分けることは困難であり、防衛用の兵器を攻撃に転用するこも可能」と指摘し、たとえ防衛目的の行動であっても宇宙への核兵器配備は軍拡競争を招きかねないと警鐘を鳴らしています。