吉高由里子

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「好きな人がいるなら、いい歌をつくってあげるわ」─。

【写真】ハイボール飲んだ!? ドラマ打ち上げで笑顔はじける吉高由里子が眩しすぎる

 藤原道長に向かって、そう言葉をかけたのは紫式部。これは、1月7日にスタートしたNHK大河ドラマ光る君へ』の一場面だ。

『源氏物語』の作者である紫式部の半生を描くが、それを演じるのが初の大河主演を務める吉高由里子

「初回の平均視聴率は、これまでの大河ドラマ歴代最下位となる12・7%でした。しかし、NHKの配信サービスの視聴回数では、同局の全ドラマ中で過去最多を記録しています。その再生数は、前作の『どうする家康』の約2倍だとか。配信全盛の時代に突入し、リアルタイムで視聴する人が減少している証左といえるでしょう」(スポーツ紙記者)

等身大のままに演じられる吉高

 物語は、まだ始まったばかりだが、その内容はどうか。ドラマ評論家の木俣冬さんに話を聞くと、

「紫式部は『源氏物語』の作者であるということは知っているけれど、具体的にどんな人なのか?と聞かれると、よく知らないという人も多いはずです。その紫式部が、どういう経緯で物語を書くようになるのか、始まりの物語として興味深く見ています。恋愛面では、柄本佑さん演じる藤原道長と紫式部が生涯の“ソウルメイト”として、どう関係を深めていくのか楽しみですね。朝廷の政治でも、すでに人が殺害されるなどスリルのある事件が起きている。人間関係の“心の合戦”が、今後どんどん展開していくのだと期待しています」

 今作の大河では、合戦シーンがない代わりに人間模様が中心に描かれる。移り変わる人間の内面を表現するのは難しいはずだが、主演を務める吉高の演技はどうだろうか。

「吉高さん演じる紫式部が、目を左右に動かす表情をする場面では、今はどういう状況なのか、自分が何をするべきなのかを瞬時に悟る頭のいい女性だという雰囲気が非常によく出ています。吉高さんは、与えられた役を“いい子すぎず毒もある”等身大のままに演じることができる女優。藤原道長と紫式部の関係も、単純な恋ではなく、複雑な思いを抱える大人の恋愛として描かれるはず。吉高さんなら、そうした深い部分も濃密に演じてくれると思っています」(木俣さん)

蜷川幸雄作品での伝説エピソード

 国民的女優として活躍する吉高だが、その歩みは高校生のときにスカウトされてからスタートする。'08年に公開された映画『蛇にピアス』では、10代でヌード姿を披露して話題を呼んだ。

「『蛇にピアス』のオーディションでヒロインに選ばれた吉高さんは、蜷川幸雄監督に“カラダを見なくて大丈夫なんですか? 見てから決めてください”と言い放ち、裸になったというエピソードは伝説です。また、映画の撮影前には交通事故に遭い、顔半分の皮膚が剥がれるケガを負ったそう。降板かと思われましたが、ケガはたった1か月半ほどで完治したんですよ」(映画ライター)

 度胸もあれば、運にも恵まれた。連ドラへの出演も増えていき、女優として階段を駆け上がっていったが……。

「今でこそ愛嬌いっぱいに撮影現場を明るくしてくれるムードメーカーの吉高さんですが、『蛇にピアス』に出演した当時は、またちょっと違う印象でした。まだ駆け出しだったというのもあったのでしょうけど、余裕がないというか……。吉高さんが不遜な態度をとったため“事務所にクレームが入った”という話も聞きました」(ドラマ制作会社関係者、以下同)

 吉高は、雑誌インタビューで当時についてこう語っている。

《自分のセリフだけ覚えて現場で言って、家に帰っていた頃のほうが疲れました。長いなーとか、早く終わらないかなーとか。待ち時間とかも『なんだ? この時間』とか思ってて》

 機械的に、淡々と仕事をこなす日々だったが、出番のない“ヒマな時間”を潰すためのあることを吉高はひらめく。

「撮影スタッフの名前を覚えることでした。せっかく一緒に仕事をする仲間なのだから、名前を覚えて思い出をつくる努力を始めたそうですよ。以前に撮影で一緒だったカメラマンのことを覚えていて“久しぶり〜!”と声をかける姿を見たときは驚きました。しかも、そうやって覚えているのは、1人だけじゃないんです。緊張からか、壁をつくってしまう共演者ともすぐに打ち解けて笑顔にしてしまう。共演したある俳優は“吉高ちゃんに恋しちゃいそうだよ”なんて話していましたよ(笑)」

ネクラでネガティブな一面も

 まさに人たらしの吉高だが、こうした“気遣い”ができるのは、意外な性格が影響しているとの話も。

「大のお酒好きで、映画の製作発表の会見では“クズでーす”なんて衝撃発言をする奔放なイメージですが、実は結構ネクラというか、ネガティブ思考の持ち主と聞いています。“うまく演じられないんじゃないか……”と思って、撮影中に泣いたり、逃げ出したりすることもあったそう。けれど、さまざまな思いを巡らせるからこそ、周囲をよく見て、どう立ち振る舞えばいいか判断できるのだと思いますよ」(前出・映画ライター、以下同)

 意識改革の影響からか、国民的女優への道も開けた。

「'13年公開の映画『横道世之介』の演技が評価されて、'14年に放送された連続テレビ小説『花子とアン』の主演を務めることになるのです。しかし、この朝ドラ後、吉高さんは長期間の休養に入ることに。心身のバランスを崩したのか、画面に映る自分の姿を気持ち悪く感じるようになってしまったそう。事務所には“もう引退する”とまで話したそうですよ」

 心身への負担も大きい長期間にわたる国民的ドラマの撮影が、心を蝕んでいったのかもしれない。しかし、海外旅行などで羽を伸ばし、約2年間の休養を経て復帰を果たす。

「今は仕事の量を無理のないように調整しているようです。しかし、大河の撮影は朝ドラ以上の長丁場。注目度も高いだけあり、プレッシャーは半端ないはず。吉高さんも気合が入っているようで、撮影中は休日以外飲まない“禁酒宣言”をしているそうです。自分を追い込みすぎず、頑張ってもらいたいですね」

 過去の雑誌インタビューで、女優を続ける理由を問われ、

《来世で、自分が出てるDVDとかを観たいから》

 と回答していた吉高。

 紫式部の記した長編小説『源氏物語』は、執筆から1000年という時を経た今も多くの人を魅了し続けている。吉高も今回の大河ドラマで、時の洗礼に耐えうる演技を見せられるか─。

木俣 冬 フリーライター。ドラマ、映画、演劇などエンタメ作品に関するインタビューやルポルタージュなどを執筆。著書に『みんなの朝ドラ』(講談社現代新書)など。大河ドラマ『どうする家康』(NHK出版)のノベライズ作品なども手がける