近年は植物ベースの食事が地球環境にいいことを示す研究結果が多数報告されており、まるで本物の肉のような植物由来の人工肉も登場しているため、レストランやスーパーで「植物由来」のメニューを見つけることも多いはず。しかし、7000人以上を対象にした実験からは、肉や乳製品の代替となる食品に「ヴィーガン」「植物由来」とラベル付けしてしまうと、人はその食品を選ばない可能性が高まることが判明しました。

Don't say “vegan” or “plant-based”: Food without meat and dairy is more likely to be chosen when labeled as “healthy” and “sustainable” - ScienceDirect

https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0272494423002657



One Simple Trick Could Make More People Eat Vegan Food : ScienceAlert

https://www.sciencealert.com/one-simple-trick-could-make-more-people-eat-vegan-food

南カリフォルニア大学の心理学者であるパトリシア・スレボダ氏が率いる研究チームは、「より多くの人が植物性食品を選択するにはどうすればいいのか?」を調べるため、7300人以上の被験者を募集してオンラインでの実験を行いました。

実験では被験者に対して、「肉や乳製品を含む食品詰め合わせギフト」と「肉や乳製品を含まない食品詰め合わせギフト」を提示し、被験者がどちらのギフトを選ぶのかを調査しました。「肉や乳製品を含まない食品詰め合わせギフト」には「ヴィーガン」「植物由来」「健康的」「持続可能」「健康的かつ持続可能」の5種類のラベルが無作為に付けられており、提示されたラベル付けに応じて被験者は5つのチームに分けられています。なお、被験者らは自分が提示されたもの以外のラベルがあることを知らされなかったとのこと。



実験の結果、ラベル付けの条件に関係なく「肉や乳製品を含む食品詰め合わせギフト」が一番人気でしたが、「肉や乳製品を含まない食品詰め合わせギフト」が選ばれる割合は、ギフトに付けられたラベルによって変動しました。

最も人気がなかったのは「ヴィーガン」で、割り当てられた被験者のうちわずか20%の人しか選びませんでした。次に人気がなかったのは「植物由来」であり、選んだ人は27%にとどまりました。一方でラベルが「健康的」だった場合は42%、「持続可能」だと43%、「健康的かつ持続可能」だった場合は44%の被験者が選択したと報告されており、ラベル付けによって植物由来の食品を選ぶ割合が2倍以上も増えたことが示されました。

研究チームは、「このラベリング効果は社会人口統計学的なグループ全体で一貫していましたが、『赤身肉を好んで食べる』という人において最も強くみられました」と述べています。



今回の調査はオンラインで行われたため、オンラインショッピングにおける傾向のみを反映している可能性があります。しかし、この結果は広いコミュニティでみられる「ヴィーガンへの文化的拒否感」を反映したものだとのこと。科学系メディアのScience Alertは、「インターネット上には『アンチ・ヴィーガン』を掲げる団体が出現しており、ヴィーガンへの偏見は非常に強力です。ヴィーガンの人は、薬物使用障害の人と同程度の否定的な感情を引き起こします」と述べています。

しかし、複数の研究では肉をよく食べる人も、ヴィーガンの背後にある健康・環境・倫理自体は支持していることが示されています。また、植物ベースの食事が血圧の低下や糖尿病リスクの減少に関連するなど、さまざまな健康的利点があることも事実です。

一部の心理学者らは、「植物ベースの食事が健康や環境にいいことを理解しており、動物を傷つけることに抵抗感があるが、肉を食べるのは好き」という矛盾が、認知的不協和を引き起こしているのではないかと指摘しています。ヴィーガンという存在はこの矛盾に気づかせてくる不快な存在であるため、人々はヴィーガンに強い拒否感を抱いてしまう可能性があるそうです。

こうした反ヴィーガンのバイアスを軽減する方法としては、「一切肉を食べない厳格なヴィーガニズム」ではなく、「動物性食品の消費量は減らすが無理はせず、食べたい時は肉を食べる」といった緩やかなフレキシタリアニズムを推奨する」ことが提案されています。肉の消費量を少し減らすだけでもメリットがある上に、より達成しやすく持続可能性も高いとのこと。

今回の研究結果も、肉や乳製品を含まない食事を「ヴィーガン」といった言葉で推奨するのではなく、「健康的」「持続可能性がある」といった表現にした方が人々の抵抗感を減らせることを示唆しています。スレボダ氏らは、「ラベル付けは、健康的で持続可能な食品の選択を促進するために、低コストで行える施策です」と結論付けました。