泉澤祐希、まわりが就活の時期に決意した「これで役者になろう」 一時休んでいた俳優業に向き合えた“1本のドラマ”
6歳から子役として活動後、中学高校の一時期休業し、大学進学後に本格的に復帰した泉澤祐希さん。
2014年に主演し、「ニューヨークフェスティバル2015」で金賞を受賞したNHKスペシャル特集『東京が戦場になった日』(NHK)で注目を集め、連続テレビ小説『ひよっこ』(NHK)、『刑事7人 Season9』(テレビ朝日系)、映画『サバイバルファミリー』(矢口史靖監督)、映画『マスカレード・ホテル』シリーズ(鈴木雅之監督)に出演。
現在Netflix『クレイジークルーズ』(瀧悠輔監督)が配信中。2024年1月19日(金)に映画『ゴールデンカムイ』(久保茂昭監督)が公開、1月23日(火)からドラマ『マルス-ゼロの革命-』(テレビ朝日系)の放映も始まる泉澤祐希さんにインタビュー。
◆子どもの頃から忍者に…
千葉県で生まれ育った泉澤さんは、子役として活動していた兄の影響で、5歳頃からテレビを中心に出演するようになり、2006年にドラマ『白夜行』(TBS系)で山田孝之さん演じる主人公の幼少時代を演じ、演技力を高く評価された。
――小さいときは、どんなお子さんでした?
「忍者の格好をして、一人で遊び回っていました。木登りしたり、手裏剣を投げたり…。刀や銃が好きだったので、じーちゃんに頼んでおもちゃ屋にエアガンを買いに行ったりしていました。そのおもちゃ屋にあるエアガンはほとんど網羅しましたね。友だちと特殊部隊ごっこをやったり、サバゲーをしたりして遊んでいました。スポーツは結構やってきたので、体を動かすのが好きでした」
――小さいとき、なりたいものは何でした?
「忍者です。忍者。ずっとそれは一貫して忍者です。忍者のコスチュームを買ってもらって、額当ても口の黒い覆いも刀も全部本当にやっていたんですよ。刀を携帯する用の袋みたいなのを親に作ってもらって、その中に刀を入れて持ち歩いていました。今でもやっぱり刀とか欲しいですもん(笑)」
――俳優さんだと忍者の役が来る可能性はあるのでは?
「それがないんです。ずっと言っているんですけどないんですよね。時代劇がめっきり減ったというのもあると思いますが、映画でチョロッと出てきたりとか、大河ドラマとかで出てきたりとかはあるんですけど、なかなか忍者メインの作品はないじゃないですか。出たいんですけどね。毎回取材のときにも言っているんですけど、なかなか忍者の役は来ないです(笑)」
――お芝居を始めたのはいくつだったのですか。
「6歳くらいだったと思います。最初は連続テレビ小説『すずらん』(NHK)ですかね。兄が子役をやっていて、直接のきっかけはちょっとよく覚えてないんですけど、一緒に現場に連れて行ってもらって、その流れで…みたいな感じだったと思います」
――最初に撮影したドラマの記憶はありますか?
「ないです。一番最初はないですね(笑)。ところどころ断片的には覚えているんですよ。たとえば、何かの撮影で猫を触ったときに猫アレルギーだということがわかったとか(笑)。目がパンパンになりながら撮影していたことなんかは、小さいながらも覚えているんですよね。そんな印象的なところでしか覚えていないです」
――中学、高校時代は休業されていたそうですね。
「はい。それは反抗期というか(笑)。もともとずっとこの仕事を続けようとは思ってなかったんです。中学生くらいになって、暗い役が続いていたのもあって、『あれっ?あまり楽しくないなあ』って思うようになって、そこからはもう全然やりたくなくなってしまって。中高では、しばらく学業を優先して遊びたいという感じでした」
※泉澤祐希プロフィル
1993年6月11日生まれ。千葉県出身。2009年、『よるのくちぶえ』(遠山智子監督)で映画初主演。2014年、『東京が戦場になった日』(NHK)でテレビドラマ初主演。連続テレビ小説『マッサン』(NHK)、『アンナチュラル』(TBS系)、『恋と友情のあいだで』(フジテレビ系)、『わたし、定時で帰ります。』(TBS系)、大河ドラマ『西郷どん』(NHK)、映画『君と100回目の恋』(月川翔監督)、映画『今日から俺は!!劇場版』(福田雄一監督)、映画『ウエディング・ハイ』(大九明子監督)、映画『サバカン SABAKAN』(金沢知樹監督)に出演。2024年1月19日(金)に映画『ゴールデンカムイ』の公開、1月23日(火)からドラマ『マルス-ゼロの革命-』の放映が控えている。
◆主演したドラマで意識が変化
2014年、泉澤さんは、NHKスペシャル特集『東京が戦場になった日』に主演。このドラマは、戦争末期、ほとんど訓練する間もなく、素手同然で東京大空襲の現場に送り込まれた若者たちが「年少消防官」として、ひたむきにいのちを救おうと壮絶な空襲火災と戦う姿を通して、戦争の悲劇を描いたもの。泉澤さんは、昭和20年当時17歳の年少消防官だった主人公・高木徳男役を演じた。
――休業していた俳優業を再び始めることになったのは?
「大学に入ってから、また少しずつ仕事をするようになっていたのですが、『東京が戦場になった日』というドラマのオーディションを受けて、主演をやらせていただいたときに、『やっぱり楽しいかもしれない』って思ったのが、一番大きいんじゃないかと思います」
――難しい役どころでしたね。ずっと戦争時代のことが記憶に残っていて、60数年後の現代、集合住宅の火事で取り残された母子を助け出そうとして命を落としてしまう。
「そうですね。なかなかつらい体験のお話ですけど、やりがいはすごくありました。あれが自分にとっては本当に久々の大きい現場だったので、主演としての責任感とか、仕事場にいる感覚というのをあらためて感じました。
あと、共演者の方々にもすごく恵まれたというか。今、それこそ事務所も一緒ですけど、長村航希という同世代の俳優と出会ったのがそのときですし、楽しかったというのはありますね」
――オーディションを受けたとき、受かる自信は?
「なかったです。オーディションでは全然受かるとは思ったことはなかったです。あれも落ちたかなと思っていたのですが、何か最終まで行って…という感じだったので」
――撮影はいかがでした?
「楽しかったです。もちろん役柄もそうですし、つらいなと思ったときもありましたけど、それよりは楽しいという思いが勝っていて、やっぱりそれが自分の中で大きかったので、『この仕事を続けようかな』っていうふうに思えたと思うんですよね。監督の伊勢田(雅也)さんにもすごくよくしていただいて、現場はとても良かったです」
――『東京が戦場になった日』の前にも映画『よるのくちぶえ』や映画『過ぐる日のやまねこ』(鶴岡慧子監督)に主演されていますね。
「はい。でも、そこまで主演の意識というのはなかったんですよね、多分。完全に、これで役者になろうと思ったのは、『東京が戦場になった日』で、それを境に自分の中で意識が変わると、色々変わりました。考え方とか取り組み方とか。
ちょうど周りはみんな就活の時期だったんですよ。みんなが何になろうかなとか言っている中で、自分は俳優という仕事を選んだのですが、不安はもちろんありました。やっていけるのかもわからなかったですが、そのときは、何か大丈夫だろうっていう、変な自信はありました。とにかく一生懸命やろうという風にしか思わなかったですね。それまではそうは思えなかったので、違うことをやろうと思っていたんです。それこそ洋服ですよ」
――今、洋服のブランドをやってらっしゃいますね。
「はい。『XLARGE』というストリートブランドのデザイナーをやっている土井翔太くんと一緒に<iD>というブランドを2020年からやっています。ずっとやりたかったので、俳優じゃなくても全然いいやみたいな風に思っていた時期もありました」
――繊細な心情表現が秀逸で俳優さんは天職という感じがしていましたが。
「あまり表情とかに出ないのかもしれないですね。妙な表情とか。逆にめちゃくちゃ大きい芝居をしてくださいって言われると、できないかもしれないです。ちょっとぎこちなくなってしまうというか。コメディーとかをやってみたいという憧れはあるんですけど」
――何でもできそうなイメージがありますけど。
「本当ですか。ありがとうございます。何でもできるようになりたいとは思っていますけど」
『東京が戦場になった日』は、ニューヨークフェスティバル金賞、第54回モンテカルロ・テレビ祭・モナコ赤十字賞、第34回照明家協会賞テレビ部門優秀賞も受賞して話題に。
◆朝ドラはみんなの気合が違う
2017年、泉澤さんは連続テレビ小説『ひよっこ』(NHK)に出演。このドラマは、東京五輪の1964年、茨城県の農村から集団就職で上京したヒロイン・谷田部みね子(有村架純)が工場の仕事仲間や幼なじみたち、東京で出会った人たちに支えられながら成長していく様を描いたもの。泉澤さんは、みね子の幼なじみの三男(みつお)を演じた。
――『ひよっこ』の三男くんも印象的でおもしろかったです。
「『ひよっこ』もたしかにそうですね。一つ少し広がったかなっていう実感があった作品ではあります」
――幼なじみの時子(佐久間由衣)のことが好きなのに、奉公先のお米屋さんの娘(伊藤沙莉)に好かれて。
「そうですね(笑)。三男は初めて台本を読んだときからずっと好きなキャラクターで、伊藤沙莉さんとの掛け合いも相手を信用しているからこそなんでも飛ばせるというか、三男という役のまま自由に演じることができておもしろかったです」
――朝ドラには4作品出てらっしゃいますが、朝ドラの撮影スタイルはいかがでした?
「結構長回しが多いので、ものすごく緊張はしますけど、やっぱりみんなの気合が違うというか。現場に、その意識が宿っているというのもおかしいですけど、一体感が半端じゃないんですよね。『このチームで長くやっていくぞ!』みたいな、その連帯感がやっぱり違うんじゃないかなって思います。
すごくやりやすいと言えばやりやすいんですけど、やりにくいとも言えます。長期的に携わる役だと良いんですけど、何回かしか出ないみたいなときって、なかなか難しいんです。
それこそ『マッサン』とかはそうだったんですけど、ものすごく緊張するんですよ。それでいて、そのときは重い役だったので、お腹(なか)が痛くなるような感覚でした。あのときは、本当に重い責任感をすごく感じました」
――『ひよっこ』は、結構コメディーの要素もあったので、街中で声をかけられたりするようになったのでは?
「そうですね。結構声をかけられるようになりました。今でも『みつお』って呼ばれることはかなり多いです。ネット上とかでも、いまだに『みつおだわ』みたいなのはよく見かけますね(笑)」
『ひよっこ』と同じ2017年には、映画『君と100回目の恋』、映画『サバイバルファミリー』も公開。さらにドラマ『アンナチュラル』、映画『マスカレード・ホテル』など話題作に出演が続く。次回はその撮影エピソードなども紹介。(津島令子)