USBビデオキャプチャーを使うと、iPadをさまざまな機器のサブディスプレーとして活用できる。写真はノートパソコンをつないだところ(筆者撮影)

iPadには、「Sidecar」と呼ばれる機能がある。これを使うと、iPadのディスプレーをMacのサブディスプレーとして活用できる。表示領域が広がり、出張先や出先で作業をする際に作業がしやすくなるが、残念ながら現時点では接続する端末はMacに限定されている。Windowsパソコンはもちろん、Nitendo Switchなどのポータブルゲーム機やデジカメの画面などを出力することはできない。

幅広い用途に利用できる規格に対応

この状況を変えたのが、9月に配信の始まったiPadOS 17。同バージョンから、USB Type-Cを備えるiPad ProやiPad Airなどの端末が、「UVC(USB Video Class)」と呼ばれる規格に対応した。これを利用すると、iPadに別のデバイスで出力した映像を映し出すことが可能になる。UVCはカメラなどの映像をパソコンと接続するための標準規格。標準ゆえに、iPad側に出力するデバイスはMacに限定されず、幅広い用途に利用できる。

また、Windowsパソコンであれば、UVCを使わずともiPadをサブディスプレー代わりに利用できるアプリが配信されている。パソコン、iPadの双方にアプリのインストールは必要になるが、UVCとは異なり、USBビデオキャプチャー機器なしで接続が可能。アプリによっては、Wi-Fi経由での利用にも対応している。このように、iPadをサブディスプレーにするための方法は多様化している。今回は、その方法や使い道を解説していきたい。

iPadOS 17がUVCに対応したことで、iPadの使い道がさらに広がった。パソコンやゲームなどを利用しているときにも、iPadをサブディスプレーとして活用できるからだ。大きく、高解像度で色域の広いディスプレーを搭載しているのにもかかわらず、それを寝かしておくのは宝の持ち腐れ。タブレットとして使うだけだと、出番も限られてくる。主役としてiPadを使うだけでなく、パソコンやゲーム機などのお供にもなるというわけだ。

iPadをサブディスプレーにするための条件

ただし、単純に出力元のデバイスとiPadをつないだだけだと、映像を受け取ることができない。この機能を利用するには、UVCビデオキャプチャーに対応した機器が必要になる。この機器を介することで、HDMIケーブル経由で受け取った信号をiPad側に表示できるようになる。また、当然ながらパソコンなりゲーム機なりが、HDMIによる映像の出力に対応していなければならない。

と言っても、UVCビデオキャプチャー機器自体はそこまで高額なものではない。ノーブランドの製品でよければ、Amazonで2000円台から販売されている。安価な機器だとやり取りできる映像の解像度やフレームレートなどに制約はあるが、手軽に利用し始めることが可能なのはメリットと言えるだろう。また、ノートパソコンの中には、大型のディスプレーに出力するため、HDMI端子やDisplay Portを備えたものも多い。Nitendo Switchのようなゲーム機は、当然ながらテレビでの表示を前提にしているため、ドックがHDMI出力に対応している。


HDMIから受け取った信号を変換し、USB Type-Cに入力するためのビデオキャプチャー機器。Amazonで約2000円だった(筆者撮影)

もう1つの条件が、UVCビデオキャプチャーに対応したアプリをインストールしておくこと。iPad内蔵のアプリではFaceTimeが映像の入力に対応しているが、FaceTimeはサブディスプレーとして使うためのものではないため、サードパーティのアプリをApp Storeでインストールしておくといい。「PadDisplay」や「Genki Studio」「Camo Studio」「CamX」など、さまざまなアプリが対応している。出力した映像を保存する必要があるかや、配信までしたいかなど、用途に合わせてアプリを選ぶといいだろう。

筆者は今回、PadDisplayをインストールし、パソコンとNintend SwitchをiPad Proに出力してみた。わずかに遅延があるため、応答速度を求められるゲームのプレイにはやや厳しいが、それ以外なら十分、実用的だった。ケーブルでつなげるだけで簡単にiPadがサブディスプレー化するため、外出先などで使う際に重宝しそうだ。

UVCは、iPadをサブディスプレーとして使うためだけにあるのではない。例えば、デジカメの映像を、iPad側に出力することも可能だ。標準でUVCの入力に対応したアプリがFaceTimeであることを踏まえると、むしろ、アップルとしてはこちらの使い方を想定しているような印象を受ける。デジカメをWebカメラのように使い、ビデオ会議などの映像として使えるというわけだ。

FaceTimeをiPadで利用する場合、通常だと、内側に搭載されたFace ID用のカメラで顔が撮影される。ただ、この画質がそこまで高くない。明るい場所で撮影するにはいいが、光量が足りない室内だと映像が粗くなってしまう。それもそのはず、もっとも高性能な12.9インチのiPad Pro(第6世代)でも、フロントカメラの画素数は1200万画素程度。外側カメラに比べるとレンズの径も小さい。センサーサイズやピクセルピッチなどが非公開なのも、あまり性能が高くないからだろう。

デジカメを外部カメラとして使ってみた

このようなときに、デジカメを外部カメラとして使えば、画質が向上する。レンズ交換式カメラのほうが、ハードウェアとしての性能は高く、やや暗めの場所でもノイズの少ない映像を捉えることができるからだ。接続するための機器は、先に挙げたUVCビデオキャプチャー機器と、デジカメから映像を出力するためのHDMIケーブルだけだ。筆者は今回、ソニーの「α6400」をiPad Proにつないで、映像を出力してみた。


ソニーのα6400を接続して、FaceTimeを立ち上げた。この状態だと、自動的にα6400で撮った映像がiPad上に表示される(筆者撮影)

Mac版のFaceTimeの場合、外部カメラ接続時にはどのカメラを使うかを選択できたが、iPad版はやや仕組みが異なり、UVC経由でα6400を接続したところ、自動で利用するカメラが切り替わった。ケーブルをつなげるだけでいい、というわけだ。明るめのレンズを装着したこともあり、映像はノイズが少なくキレイ。パキッとした解像感があるのもいい。

また、レンズ交換式カメラの場合、装着するレンズを変えれば、画角も変わる。より広い範囲を写したいときには広角レンズを、ある程度、画角を自由に調整したいときにはズームレンズをといった具合に、用途に合わせてレンズを選択できる。iPadの内蔵カメラも、「センタフレーム」を使えばある程度、画角を調整できるが、ここまでの自由度はない。現状だとFaceTimeのみで、「Zoom」や「Google Meet」ではカメラを切り替えられないのが残念だが、今後の対応に期待したい。

UVCビデオキャプチャーを使った外部ディスプレー化は、出力元の端末に特殊なアプリや設定が不要なため、幅広い組み合わせが実現する。一方で、パソコンとiPadをつなぎ、iPadをサブディスプレーとして使うなら、わざわざUVCビデオキャプチャー機器まで用意する必要もない。ごく普通のUSB Type-Cケーブルでつなぐだけで、iPadをサブディスプレーとして使うアプリがあるからだ。機材を選ばないという点では、導入がより容易になると言えるだろう。

機器より割安なアプリの導入もおすすめ

実際、筆者は以前からiPadをWindowsパソコンのサブディスプレーにできるアプリを使用しているが、海外出張時に、両方をつなぐUSB Type-Cケーブルを忘れてしまったことがあった。その際に、現地でケーブルだけを購入。両端がUSB Type-Cのケーブルは一般的に流通しているため、すぐに入手できた。これがUVCビデオキャプチャー機器だったら、おそらく探すのが困難だったはずだ。あったとしても、かなりの出費になっていた可能性がある。

このような場合に備える意味でも、Windowsパソコンをつなぐという用途であれば、UVCビデオキャプチャーなしで接続できるアプリを導入しておくことをお勧めしたい。筆者が使用しているのは、「Twomon SE」というアプリ。アプリは1500円するが、UVCビデオキャプチャー機器を購入することを考えれば、むしろ割安だ。iPadにはTwomon SEを、Windowsパソコン側には「EL Display Hub」というアプリをインストールする。後者はTwomon SEの開発元である DEVGURUのサイトで配信されている。


Twomon SEでデスクトップパソコンをiPadに出力した。デスクトップが拡張された形になり、使い勝手が大きく上がる(筆者撮影)

EL Display Hubは自動でWindowsに常駐する。パソコンとiPadをつないだら、後はiPadでTwomon SEのアプリを立ち上げるだけ。自動で接続され、iPad側のディスプレーにパソコンの画面が表示される。ただし、この状態だとパソコンと同じ画面がiPadに映っているだけで、マルチディスプレーとしては使えない。iPad側にもう1つのデスクトップを設定したいときには、パソコン側で出力方法を切り替える必要がある。

Windows 11の場合、パソコンのデスクトップを右クリックしたあと、「ディスプレー設定」を選択。「表示画面を複製する」となっているメニューをクリックして、「表示画面を拡張する」に切り替える。すると、iPad側にデスクトップが拡張された形になり、ウィンドウなどを別々に置くことが可能になる。ディスプレーを広々と使えるため、特にサイズの小さなノートパソコンを出張先で使用する際などに便利。モバイルディスプレーでも同様のことはできるが、iPadなら単体でも使えるため、1台2役の端末として活躍する。


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(石野 純也 : ケータイジャーナリスト)