●裏番組同士でしのぎを削ってきた仲

日本テレビで『有吉の壁』『マツコ会議』などを立ち上げ、昨年末に退社してから『名アシスト有吉』(Netflix)、『愛のハイエナ』(ABEMA)、『横道ドラゴン』(DMM TV)といった配信コンテンツも手がけるWOKASHIの橋本和明氏と、フジテレビで『今夜はナゾトレ』『新しいカギ』などを制作し、現在は編成部で各種番組の企画を担当する木月洋介氏が、11月26日に東京大学駒場キャンパスの学園祭「駒場祭」で対談を行った。

ともに東大OBで、南原清隆の番組担当という縁から知り合い、かつては『ヒルナンデス!』と『笑っていいとも!』、『有吉ゼミ』と『痛快TVスカッとジャパン』と、同時間帯の番組でしのぎを削ってきた両氏。「テレビの未来はどっちだ」をテーマに、互いの番組への印象や裏話、テレビを巡る現状や今後の展望などを90分にわたり語り合った――。

橋本和明氏(左)と木月洋介氏

○“誰がやりたいことなのか”を大事にする日テレのDNA

まずは、互いに聞きいてみたいことをトーク。木月氏は、月曜20時台の『スカッとジャパン』を担当していた当時、19時台の『有吉ゼミ』が2時間SPを編成するときに脅威に感じていたといい、「『有吉ゼミ』ってどういう企画の番組なのか、実はよく分からなくないですか? そこが本当にすごいと思っていて。“ギャル曽根のチャレンジグルメと、坂上忍さんの家を買うと、ヒロミさんのDIYと、はなわ家の密着が一緒になる番組です”って企画書出して通ると思います? でも企画の一つ一つがちゃんと間口が広くて、いろんな方々にちゃんと刺さるエッセンスがちゃんとあって考えられていて、めちゃくちゃ大勢の方に見てもらえるんです。どういうふうに企画が通ったんですか?」と尋ねた。

これを受け、橋本氏は「まずゴールデンの番組は、1,200万人(視聴率10%)に見てもらうために、人間の普遍的な感情を狙い打たないと当たらない。だから、『坂上忍、家を買う。』だったらいい別荘に住んでみたいとか、ヒロミさんのリフォームだったら自分でタンスとか作って役立ったらうれしいとか、はなわ家の家族の絆とか、そういうものを描くっていうことが結構大事なんです。その中で、僕は人に興味があるんで、話聞いたときに“こんなことやってます”って言われると、それをどんどんやってほしくなるんですけど、ヒロミさんに最初会ったときに“家の風呂場のすのこを自分で直してる”と聞いて、“番組でリフォームとかやってみませんか?”と提案したら、どんどん本人が上達されていって、キャンプ場を作るまでになったんです」と経緯を説明。

木月氏が「そこで“すのこ”が面白い。企画になりそうだ、と見つけられるのが本当にすごいところだと思うんです」とポイントを解説すると、橋本氏は「タレントさんって自分が面白いことをやってるということが、意外と分かってないことがあるんですよね。それはみんなそうで、自分の優れているところを知るのって難しいじゃないですか」と補足し、木月氏は「それを客観的に見つけるというのがディレクター、プロデューサーの作業なので、そこがすごいなと思います」と感心する。

さらに、木月氏が「ただ情報を並べる番組って、本でもできると思うんです。テレビとして映像にするときに、いかに立体的にさせるかが大事なんですけど、その立体的にする手段が“人”の面白さですよね。ヒロミさんが熱量高く作ってるのが面白くて、その中でDIYの情報が入ってくる」と分析すると、橋本氏は「日テレってそういうのが多いんです『鉄腕DASH』もTOKIOさんがやってるというところからいろんな情報が付いてきて、DNAとして“誰がやりたいことなのか”というのを大事にすることがあると思います」と明かした。



○「水戸黄門の印籠が1時間の中で4回出ます」

橋本氏は「『スカッとジャパン』が始まったとき、正直“この番組どうやって当てるんだろう?”と思ったんです(笑)。“悪役が出てきて毎週スカッとします、って続くのかな?”とも思ったし、何で『スカッとジャパン』をやろうと思ったのか聞きたいです」と質問。

木月氏は「昔『ココリコミラクルタイプ』という番組を担当していて、俳優さんの演技で笑わせる番組をやりたいなと思っていたんです。そういうのをゴールデンで対応させるにはどうしたらいいかと考えたとき、『ピカルの定理』はゴールデンで長く続かなかった経験があるから、コントでゴールデンは難しいなと。要はオチを待ってくれない時代になったから、“必ず最後にスカッとします”と期待させる装置が最初にあれば化けないかな…?という仮説でした」と回想する。それに加え、「“『水戸黄門』の印籠が1時間の中で4回出ます”っていう企画書を出したら通ったんです」という。

また、学生時代に演劇をやっていた経験から、「悪役のほうが演じがいがあるんですけど、主人公に比べて日の目を見ることが少ないので、“あなたが主役でできるドラマがあります”と言うと、普通のバラエティだと敬遠される役者さんも出てくれるようになって、キャスティングも強くなりました」という副産物も。

橋本氏は『スカッとジャパン』というタイトルの秀逸さを指摘し、「YouTubeとかと一緒で、見る前に面白そうだと思ってもらわないと見てもらう土俵に立てないので、優れた企画だったんだなと思います」と、かつてのライバル番組に賛辞を送った。

●テレビから育つ作り手がどう活躍できる環境を作れるか



対談は、YouTubeをはじめネットメディアに脅威を感じるかというテーマにも。橋本氏は「テレビは正直言うと大変な状況だと思います。みんながネットを見始めて、このあいだ衝撃だったのが、70歳になる母親からLINEで“ROLANDのYouTubeにハマってる”って送られてきたんですよ(笑)。70の母親って人生において最後までテレビだけを見てる人だと思ってたので、結構僕にとってもショックだったんです。今後ニュースやスポーツといったライブコンテンツは残ると思うけど、バラエティとかドラマをいつまでテレビで見てもらえるのかというのが課題になっていくと思います」と厳しい現状を受け止める。

その一方で、「テレビ局を辞めて、NetflixとかAmazonプライムとかABEMAの人と話しても、結局出てくるのはテレビを作ってた元局員の人なんですよ。だから、日本はプロデューサーとかディレクターといったクリエイターが、テレビからしか出てこない構造になってる。人を育てるってコストをかけるということだし、余裕がないとできない。それが今はテレビにしかできていないので、テレビの未来はめちゃくちゃ明るいわけじゃないけど、暗いわけでもない。テレビから育つ作り手がどう活躍できる環境を作れるかが鍵ですね」といい、「だからテレビはコンテンツをどうやって越境させるか。つまり出し口をいっぱい捉えてコンテンツの価値を最大化させるという勝負に変わっていくのではないか」と展望した。

様々な出し口が生まれたことをポジティブに捉える木月氏は「“この企画は今までの地上波テレビの枠組みだと難しいけど、こういう稼ぎ方ができたら成立する”とか、そういうことが増えてるんです。『久保みねヒャダこじらせナイト』って深夜で10年やってるんですけど、今はイベントが主体でチケット収益を得て、それをフジテレビで流すことにより宣伝になって、結果的にイベントにお客さんが来るというサイクルが生まれているんですよ」と事例を紹介。

橋本氏は「どう電波を活用して新しいモデルを作っていくかというのは、めちゃくちゃ大事ですよね。僕も『BUTSUYOKU LAB.』っていう通販番組を日本テレビでやっていて、インフルエンサーがテレビと自分のアカウントで同じ商品を紹介するんですけど、それで商品が注目されて売れれば、新しいビジネスモデルになる。どうやってお金をかけないで番組を作るかということも、実は知恵を使えばやりようがいっぱいある。それはテレビが持っている演出力をどう広げていくかという話なので、これから境界がなくなっていくんじゃないかと思いますね」と先を見据えた。



○「お前、ブラジャーも着けれねぇのか!」

ほかにも、木月氏が演出を担当した『笑っていいとも!グランドフィナーレ』生放送中のヒリヒリする秘話、橋本氏が情報番組『ザ!情報ツウ』のADの頃、当時流行していた“海藻ブラジャー”(※海藻素材のブラジャー)を装着することをディレクターに命じられるも、うまく着けられずに「お前、ブラジャーも着けれねぇのか!」と怒られた話などを披露し、それぞれが最近注目した番組では、木月氏が『ドキュメント20min. ニッポン探訪 〜北信濃 神々が集う里で〜』(NHK、木村優希ディレクター)、橋本氏が『カワシマの穴』(日本テレビ、南斉岬ディレクター)を挙げた。

さらに、2人から見たキー局それぞれの特徴や、“テレビは昔のほうが本当に面白かったのか?論”からの編集技術の飛躍的な進化、『新しい学校』の「学校かくれんぼ」制作の裏側、『ヒロミ、キャンプ場を作る。』から『しゃべくり007』八王子会紹介に見る日テレのチームプレー力といった話題などが展開され、質疑応答では希望者全員に当てられないほどの盛会となった。