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原案を「NieR:Automata」のヨコオタロウが務めたオリジナルアニメ作品『カミエラビ』。その期待に違わぬダークな魅力を存分に発揮した世界観設定やストーリーが展開されている本作だが、劇伴を手がけたのはMONACAだ。アニメファンにとっては主にアイドル作品や日常系の作品で知られる音楽チームがこうしたダークな作品を手がけることに驚きがあるかもしれない。しかし一方で「NieR:」シリーズなどのゲーム作品ではこうした強みを持っていることでも知られている。そこで『カミエラビ』ではどのようなアプローチで楽曲作りにあたったのか、MONACA代表の岡部啓一、広川恵一、高橋邦幸、オリバー・グッド、井上馨太らに集まってもらい、それぞれの個性と本作におけるMONACA流の化学反応の生み出し方について話を聞いた。

INTERVIEW & TEXT BY 日詰明嘉

アニメ劇伴におけるMONACAの新境地を開拓



――MONACAさんはこれまでも『NieR:Automata』など、ヨコオタロウさんの作品で劇伴を手がけられてきましたが、今回『カミエラビ』という企画には最初にどんな印象を受けましたか?

岡部啓一 最初にお伺いしたときにはすでに、世界観やキャラクターデザイン、ストーリーは出来上がっていた状態でした。ヨコオさんの作品らしい、ちょっとダークなテイストでしたので、具体的にイメージしやすかったですね。それが実際に形になっていくに従って、脚本のじんさんのカラーも入っていき、今まで僕らが関わってたヨコオさんの作品とはまた一味違うものになりそうだなと感じました。

――音楽に対するオーダーはどんなものがありましたか?

岡部 今回、全体のカラーとしてはエレクトリックで、ちょっと攻めた感じにしたい、というお話がありました。それとともにキャラクターたちの心情描写はベーシックな劇伴らしいところもあり、この二軸で提案させていただきました。ベーシックな音楽作りの良さはもちろんありますが、「攻めたものを」と言われると、クリエイターとしての腕の見せどころだとモチベーションが高まりますね。MONACAはアニメのファンの方にとっては、アイドル作品の歌モノを多く手がけているので、そうした曲たちを弊社のカラーとして認識してくださっている方が多いと思うのですが、一方でゲームから知ってくださった方にとっては、先のヨコオタロウさんの作品の劇伴などでちょっとダークなイメージを持たれているようです。そんななか、今回の『カミエラビ』はアニメ企画でありつつ、普段はゲームで作っているような音楽にするプロジェクトで「尖ったものを作ってほしい」と言っていただけたので、普段と違う経験もできるだろうなと思いました。それぞれのカラーを合わせることで、独特の世界観ができるかなと想像しつつ、MONACAとしてどんな布陣で臨むかを考えていきました。

岡部啓一

――多くの劇伴制作の場合、個人の作家の方が担当をされますが、MONACAさんのように集団で制作される場合は、どのように割り振られていくのでしょうか?

岡部 MONACAでは先程も少しお話したように、歌モノも劇伴も制作します。音楽作りと一口にいっても、それぞれにポイントが結構違うので、作曲家はそのどちらかに専念する事が多いのですが、僕は両方ともやったほうがいいと思っていて。というのも、それぞれ異なるポイントを求められるので、それを経験することによって対比ができたり、音楽の特徴が浮き彫りになったりして、結果的に作家にとって良い勉強になるわけです。それに、従来的には得意だと思われていないようなことでも、試してみたら意外と面白いものができたみたいなことってあるんですよね。なので、MONACAでは歌モノ要素が強い作品でも、劇伴寄りの作家に担当させることもあります。今回の広川(恵一)はまさにそうですね。歌モノやアーティスト作品が得意だと思われていますが、今回の劇伴にそうしたテイストを入れられる良い機会だなと考え、声をかけました。帆足(圭吾/制作メンバーだが都合によりインタビュー不参加)と高橋(邦幸)は『ニーア』シリーズや『結城友奈』シリーズも一緒に作ったのですが、2人とも劇伴の制作経験も豊かなので、劇伴らしいテイストの曲を割り振っています。広川や、若手のオリバー(・グッド)と井上(馨太)にはちょっと攻めたエレクトリック寄りのものを割り振った感じですね。

――そのうえで、統一感はどのように図っているのでしょうか?

岡部 弊社には共有サーバーがありまして、各作家が作った曲を自由に聴くことができます。そこで「今回の作品はここまで尖らせていいんだな」と、塩梅を考えながら作っていきます。最初に経験値の高い広川や高橋の曲がアップされていたので、若手のオリバーと井上はその辺を聴いたうえで色々とイメージしながら作っていけるし、匙加減も測ることができたと思います。

――メインテーマは岡部さんが書かれていますが、これはこの作品の音楽の方向性を示すために最初に書かれた形でしょうか?

岡部 書いた順番としては僕はちょっと後出しくらいのタイミングだったんですよ。僕もみんなの曲を聴いたうえで、なるほどねと思いながら書いていきました。ただオーダーとして、テーマ曲のモチーフを使う曲も数多くあったので、メインテーマはアレンジしやすい曲に仕上げる必要がありました。メロやフレーズ感がしっかりないとバリエーションを作ることができなくて、アレンジしづらくなってしまいますから。なので、ほかの曲と比べて比較的わかりやすく、ポップ寄りの曲になったかなと思います。



――では、それぞれ皆さんがお得意な部分とご担当された楽曲についての解説を伺えればと思います。

岡部 じゃあ、MONACAでの古株から順に説明してもらいましょうか。

広川恵一 最初に「この作品は攻めた音楽で作りたい」という話をいただいたので、僕の場合はその担当として呼ばれたのかなと思いました。劇伴のメニュー表の担当のリストを見たときも「音楽として成立するギリギリの、ノイズやガラスの割れるような音を多用した感じ」(M44「絶望の先」)と書かれていて、やり甲斐を覚えました。これもデモの段階で「ちょっとやりすぎかな?」くらいの音源を出したのですが、それも好評をいただき「そこまで許されるんだ」と驚きましたね。

広川恵一

岡部 「攻めた曲を」と言われたときの匙加減って、本当に難しいんです。今回は実際に出したときにそのまま受け入れられた珍しいケースでした。

広川 そうですね。あとは、日常っぽい劇伴曲もあって、「日常系、穏やかに、感情フラットに アンビエント系にはしたくない」(M04「平和な生徒たち 学校の日常」)と書かれていました。一般的なアニメの場合、日常曲はフルートやピアノを使った朗らかな曲が定番なのですが、全体がシンセサウンドみたいな話もあったので、そこで大きく乖離が生まれないバランスで調整して、一癖・二癖持たせるように意識して作りました。

高橋邦幸 僕も最初にお話を頂いたときに「全体のサウンド感はちょっとノイジーでダークで、攻めてください」と言われました。ただ、広川さんや井上くんは普段から尖った音色や間の使い方がとても上手いので、僕も同じ方向性で攻めるのは多分たぶん上手くいかないなと思ったんです。というのも、普段の僕は比較的オーソドックスな曲であったり、空気のように一歩引いて存在して、感情を誘導する曲を作る役割が多いんです。だから、攻めるにしても別のアプローチでできないかなと思って、今回は何かで汚していく手法を採りました。

――「汚していく」とは?

高橋 例えば、プラック音1つでも、音程をわざと少し外したり、ブーンと揺らしてみたり、ピアノなどもあえてアンプで歪ませたりですね。本編最後のほうで出てくるM77「神の力(依怙)」という曲があるんですけど、これは無力感・絶望感・圧倒感がテーマだったんです。ただ、この作品は音楽が全体的にアグレッシブなせいで、今更ちょっと攻めたくらいでは圧倒感が出ないなと思って、もう思いっきり汚してみました。シンセのコードが内部でウネウネ動いていたり、弦も演奏者の方から「これはわざとですよね?」と確認されるほどぶつけてみたり(笑)。とにかく破綻しているとさえ言えるほど騒がしい音楽になって、大丈夫かな?と若干心配でしたが、みんなそれぞれの得意な方法で攻めていて、様々な音楽が集まった結果として、むしろ統一感が出たのではないかと思いました。

高橋邦幸

――高橋さんにとっても新しい扉を開かれたんですね。

高橋 そうですね。武器が増えたみたいな感じにはなりますね。最初に僕と広川さんで劇伴のデモを提出したのですが、メロウな曲、バトル曲、カミエラビのアプリを開いたときのタッチみたいな曲など、温度感の異なる曲をいくつか出したところ「全部格好いいです」と言われたので、これで曲の幅に当たりを付けられたのも良かったなと思います。

チームで音楽制作をすることで生まれる化学反応



――では続いて、オリバーさん、お願いします。

オリバー・グッド 参加させていただくときに、ほかの皆さんと被らないというか、私が何を持っていけるかを考えました。そこで、メロとか和声で感情を呼び起こすというよりも、この音色でどういう気持ちにさせるかどうかを中心に作っていくことにしたんです。僕は音数が少なめの曲を担当しているので、そのなかでこの感情を生かすにはどの音色がいいか。例えば、M18はガスマスクの能力曲なんですけど、そこには「爆発音が乗るような」とありましたので、アグレッシブなサウンドをリズミカルにして攻めつつ、音を引いていった感じですね。

オリバー・グッド

――少ない音数で作っていくのは難しい?

オリバー 難しさは多いときも少ないときも両方ともあると思うんですけど、これは新しいアプローチだなと。例えばピアノだけであればまた違う表現もあるでしょうけれども、こうした馴染みのない音で音数を少なくすると、不安感もあるし引っかかるとこあるんじゃないかなと。ほかの作家は和声で聴かせるなか、「これは本当に曲なのかな?」みたいな音で表現するのが自分の役割であるということを意識しました。

――井上さんはいかがでしたか?

井上馨太 僕も岡部さんから最初に「思い切り攻めていい」と言われたので、これはご褒美だなと思いました(笑)。自分はまだ経験も浅いので、強みというものはまだ自分でも把握しきれていないところはあるのですが、ホラー曲みたいな気持ち悪い曲がとても好きなので、この作品はそうした楽曲が揃っていたので楽しみながら作っていきました。M14の「ホノカ バトル 謝肉祭」は、ホラーテイストにEDMみたいな感じなのですが、ホノカがこの能力を使うときに、生肉をグシャッと潰すので、そういったアクションを要素として曲に入れたいなと思い、打ち込みっぽくない生々しい音もドラムに混ぜたり、笑い声を薄く入れ、SEとBGMの間みたいな感じにしてホラーテイストを出しています。先ほども岡部さんが話されたように、MONACAのアニメ劇伴では珍しいテイストなのですが、実は皆さんこういうのも得意だったので、その良さがとてもよく出てる劇伴だなと思います。

岡部 オリバーや井上が持っていた「広川さんって歌モノではこういう曲を作るよね」というイメージに対して、劇伴を手がけるとどうなるか、同じプロジェクトに携わることで、色々と学べることもあったと思います。

井上馨太

――井上さんとオリバーさんは先輩の皆さんの新たな側面であったり、発見したことは?

オリバー このメンバーでこういった劇伴を作ることはほとんどなかったので、ラフやデモの音源を聴いたときには、たしかに岡部さんがおっしゃるような「新しい引き出し」を発見した感じがありましたね。先輩たちのその一面をリスペクトしつつ、そのうえで自分をどう表現すればいいか、違う方向で考えてみようと考えを巡らせたことが大きな経験になりました。

井上 劇伴を作るときに、自分の担当ではない曲であっても、どういう曲にしようかとある程度考えたりするのですが、実際に担当の方の音源を聴くと「こういうアプローチもあったんだ」という気づきを覚えたりします。それがチームで作るうえでの意味だと思います。今回の『カミエラビ』はそれが特に強かったので、大きな学びを得ることができました。



――先輩の皆さんはいかがでしたか?若手の方たちの音源を聴いてのご感想であったり、チームとして今回取り組んでみてのご感想をいただければと思います。

高橋 アニメの劇伴では井上くんとオリバーくんと一緒に作ったのは今回が初めてだったんです。井上くんには以前から「尖った音使ってるなー」と感じていましたが、「攻める」というお題になったときに存分にそれを出してきました。オリバーくんは個人的にはストリングスの音の印象が強くて、やっぱり学んできた環境も大きく違うからなのか、良い感じの湿り気がある弦を書くなと思っていたので、今回一緒にできて改めて良いなーと感じました。

広川 年上チームからしても、下の代が作るものから刺激を受けることはもちろんあります。それも含めて、2023年に取り組んだプロジェクトとして後々になっても非常に印象深い作品になったと思いますね。現在はアニメ作品も、劇伴音楽も非常に数が多いなかで、「MONACAは一味違うものを出してくる」と思っていただけるような音楽を世に出せたという意味で、意義深い作品になったんじゃないかなと。

――最後に岡部さんからこの作品におけるMONACAサウンドとしての聴きどころを教えてください。

岡部 今までの話にも出てきましたが、アニメ作品でMONACAを知っていただいた方、逆にゲームの方で知っていただいている方にとって、今回の『カミエラビ』では、それぞれのカラーを出しながらも、どちらでもなく、かつ今までの作品よりも尖った強いサウンドになったと思います。これをきっかけに新しいMONACAの側面を見てもらえる良いきっかけになったと思いますし、これくらい大勢のメンバーで携われるプロジェクトも珍しいので、MONACAとしての幅の広さとそれぞれの尖ったサウンドの両方を楽しんでいただければと思います。

●作品情報

TVアニメ『カミエラビ』



<イントロダクション>

原案:ヨコオタロウ×脚本:じん×キャラクターデザイン:大久保篤×監督:瀬下寛之

稀代のクリエイター達による完全オリジナルTVアニメが登場!

大ヒットゲーム「NieR:Automata」のディレクターとして世界に絶望と感動を与え続けるヨコオタロウ。そのヨコオの驚くべき発想の数々に呼応したクリエイターが結集。これまで多くの少年少女たちを虜にしてきたじん(「カゲロウプロジェクト」)が脚本を手掛け、魂を。ヒット作を連発する漫画家大久保篤(「炎炎ノ消防隊」「ソウルイーター」)がキャラクターデザイナーとして肉体を。そして、ビジュアル表現の最先端を切り拓いてきた瀬下寛之(「シドニアの騎士」や「BLAME!」)がその生まれたてのカタマリに、圧倒的な生命力を与える。

2023年の終わりに「カミエラビ」が始動する。

<ストーリー>

「神様、世界は今日も健やかに狂っています。」

都内私立高校に通う高校一年生のゴローには、「望み」や「夢」もなければ「野望」もない。

世界は彼にとって「無関心」なものであり、同じ学校の同級生であるホノカに淡い憧れを抱きながら、親友のアキツと変わり映えのしない退屈な日常を過ごしていた。

そんなある日、ゴローのスマートフォンに奇妙な通知が届く。

「あなたは選ばれました。願いを吹き込んでください」

悪質なスパムだと思ったゴローは「憧れのホノカとエッチなことがしたい」とつぶやく。すると翌日ホノカに誘われ、人気のないゲーセンでズボンを降ろされて…。

「大願成就、おめでとうございや〜す!」

そこに突如現れた不思議な少女ラル。一連の出来事に混乱するゴローに、残酷な運命を告げる。

ゴローは「大いなる意志」に選ばれ、願いを叶えるため「神様」の座をかけて、他のカミサマ候補たちと最後の一人になるまで殺しあうのだと。

与えられた能力は「愚者の聖典」。自分自身に降りかかる「不幸」を代償に、世界の因果を捻じ曲げ、この世の理を自在に操る力。

真っ先にゴローを殺そうと現れた最初のカミサマ候補は、あろうことか憧れのホノカだった。

容赦なく襲い掛かってくるホノカに対して、ゴローがとった選択とは―?

かくして、秘密を抱えたカミサマ候補達によるフェティッシュ・バトルロワイヤルが開幕する――!

【スタッフ】

原案:ヨコオタロウ

監督:瀬下寛之

副監督:井手恵介/石間祐一/りょーちも

シリーズ構成・脚本:じん

キャラクターデザイン:大久保篤

アニメーションキャラクターデザイン:山中純子/もりやまゆうき

プロダクションデザイン:田中直哉/フェルディナンド・パトゥリ

造形監督/光画監督:片塰満則

モーショングラフィックデザイン:佐藤晋哉

神器デザイン:帆足タケヒコ

アニメーションディレクター:得丸尚人

CGスーパーバイザー:鮎川浩和/菅井 進/前田 哲生/永源一樹

美術監督:芳野満雄/松本吉勝/宍戸太一

音響監督:山口貴之

音楽:MONACA

オープニングテーマ:ELAIZA「スクラップ&ビルド」

エンディングテーマ:Alisa「Bleed My Heart」

アニメーション制作:UNEND

企画・プロデュース:スロウカーブ

【キャスト】

ゴロー:浦 和希

ホノカ:松本沙羅

アキツ:内田修一

チカ:阿部菜摘子

コウキ:梶原岳人

イヨ:楠木ともり

ミツコ:ファイルーズあい

タツヤ:新 祐樹

ラル:佐倉綾音

©カミエラビ製作委員会

関連リンク



MONACA 公式サイト

https://monaca.jp/

TVアニメ『カミエラビ』公式サイト

https://kamierabi.com/