『翔んで埼玉 〜琵琶湖より愛をこめて〜』桔梗魁役の杏と麻実麗役のGACKT
 - 写真:高野広美

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 魔夜峰央の漫画を実写映画化した『翔んで埼玉』(2019)の続編『翔んで埼玉 〜琵琶湖より愛をこめて〜』が、いよいよスクリーンに登場。“壮大な茶番劇”としてまさかの大ヒットを果たした前作から、GACKTが麻実麗役を続投、さらに杏が物語の鍵を握る“滋賀のオスカル”と呼ばれる桔梗魁として参戦し、スケールや笑い、湧き上がる妙な感動までパワーアップした1作として完成している。劇中で麗しい姿を披露したGACKTと杏が、本シリーズにおける“地方ディスり”の魅力や、海外に飛び出して深まった“郷土愛”について語った。(取材・文:成田おり枝)

リスクしかない!?『翔んで埼玉』続編

Q:続編では、関西を中心とした天下分け目の“東西ディスり対決”が描かれます。前作が大ヒットしたこともあり、続編に飛び込むうえでプレッシャーなどはありましたか?

GACKT:お話をいただいた時に「リスクしかないので、やめましょう」と一度お断りしまして。「(壇ノ浦百美役の二階堂)ふみちゃんは何て言っているの?」と聞いたら、やっぱり「やめましょう」と言っていると(笑)。前作もリスクが高いところからのスタートでしたが、運良くヒットすることができた。「次にまた奇跡は起きないよ」とも言いましたし、関西の人を敵に回したら大変。最終的には「今回、出演が予定されているキャストです」とプレゼンされて、それを見てまた、こんな人たちを巻き込んじゃダメでしょう! と。杏ちゃんまで巻き込んでしまい、本当に申し訳ないです。「なんてことをしてくれたんだ」とそんな気持ちでいっぱいです。本当によく引き受けてくれました。

杏:そんな、そんな(笑)。私はもともと前作や漫画は知っていたので、「続編に出られるんだ!」という感動がありました。個性豊かなキャラクターたちと異なる個性をどのように出そうかということを考えて撮影に挑みました。撮影現場では、「麻実麗がいる! 本物だ」と魔夜先生の世界観を再現されている様子に興奮しました。また武内(英樹)監督とは月9ドラマ(2015年放送の「デート 〜恋とはどんなものかしら〜」)でずっとご一緒させていただいて、またいつかご一緒したいと願っていました。まさかそれが『翔んで埼玉』だとは思いませんでしたが(笑)、お声がけいただいてとてもうれしかったです。

Q:杏さんは、“滋賀のオスカル”と呼ばれる桔梗魁役として、初めての男性役に挑戦されています。凜々しく麗しいキャラクターとなりましたが、演じる上で大事にしたのはどのようなことでしょうか。

杏:“滋賀のオスカル”ということで、私はもともと滋賀に関わりがなかったので「滋賀の方々が受け入れてくれるかな」という不安はありました。男性役としては、大股で歩くなど、立ち居振る舞いについても、意識して演じています。あとは何より、声ですね。低いトーンで演じることを心がけていたので、桔梗魁を演じた後はしばらく低い声が治らず、渋い感じになっていました。桔梗魁の後遺症です(笑)。

GACKT:杏ちゃんは背も高いし、とても画力(えぢから)が強い。本作では、麻実麗と桔梗魁が手を取って一緒に逃げるシーンもじっくりと描かれているので、麗と桔梗のバランスという意味でも、耽美的な世界を表現するという意味でも、非常に相応しい方に演じていただけたと。

「くだらない」が最大の褒め言葉

Q:埼玉を中心に関東をディスった前作に続き、本作では関西ディスりも炸裂します。本シリーズにおける“地方ディスり”が、なぜこんなにも面白いのか。その理由について感じたことがあれば教えてください。

杏:“地方ディスり”は、愛や知識がないとできないものだと思うんです。本シリーズではその土台がしっかりと作られているからこそ、面白いものになっているのかなと。撮影では、たとえば滋賀解放戦線の決起集会のシーンで、おかしなセリフを言いながら、みんなで涙を浮かべて抱き合ったりしていると、これぞ“翔んで埼玉ワールド”だなと思ったりして。

Q:特別な経験をされたのですね。

杏:特別な経験でしかないですね(笑)。またセットや衣装も、とても豪華で驚きました。桔梗は原作にはいないので、ゼロから作っていくキャラクターとなりましたが、襟やケープなど南蛮渡来の商人のようでもあり、さらに私から「かつて近江の地を争った武将の家紋を入れたい」とお願いしてみたり、黒いズボンも実はよく見るとレースの刺繍が施されていたりと、細かいところまでたくさんのメッセージやこだわりが込められています。作り込まれた世界観の中で、「これは何なんだ」と思うようなことを真剣にやるからこそ面白いものができあがるし、だからこそ皆さんに支持されているんだと感じています。

GACKT:この映画では、ディスりというよりも、郷土への愛が深いゆえに起きる出来事を描いています。それぞれが郷土のいいところも悪いところも含めて、認識して、愛している。人間は劣等感と優越感の狭間で生きているものなので、その愛が自虐にもつながったりする。県民同士の対決を俯瞰するという構造で描いた作品ですが、作っている本人たちは、めちゃくちゃバカバカしいことをものすごく真剣にやっています。だからこそ面白いのだろうし、観てくださる方々に「くだらないな」と笑っていただけることが、この映画の最大の褒め言葉。こういった映画を笑って観られたら、みんなもっとハッピーな気持ちで日々を過ごせるんじゃないですか?

Q:確かに自虐的な要素を笑い飛ばそうとする本シリーズには、受け手の懐の深さも感じます。

GACKT:今の世の中、「そんなにぶつかることなのかな」と思うことが多い。実は笑って話し合ったりもできるはずのことでも、なぜかぶつかってしまう。それはとてもさみしいことですよ。SNSの発達によって、顔が見えない状態でやり取りすることが増えたこともあるのかもしれません。あまり綺麗事をいうのは好きではないですが、お互いにその問題の根本を理解しようとすれば、もっと愛のある形で表現できたり、笑って話し合えることがたくさんあるんじゃないですか?

海外に飛び出して深まった郷土愛

Q:GACKTさんはマレーシア、杏さんはフランスと、お二人は現在海外を拠点に生活されています。海外で生活してみて、郷土愛がさらに深まったことはありますか?

GACKT:ボクは住みやすい場所を探して世界中をまわっていて、その中で見つけたのがマレーシアでした。海外に住んでからは、“日本人としての誇り”というものがさらに強くなりました。やはり自分を通して「日本人ってこうだよね」と判断されることもあるので、日本人として恥ずかしくない立ち居振る舞い、生き方をしたいなと。海外では「日本人はイエスしか言わない」と評されることもありますが、ボクは「ノー」と拒絶しないように折衷案を見つける努力をしているのが日本人の本質であると信じたいです。ただこれだけの国際社会になってきて、「自分の意見を言えない」というのは一方で問題があります。そうやって国際社会における日本ということに思いを巡らせることも増えたので、海外に住んで初めて気づくこともたくさんあるものだと感じています。

杏:久しぶりに帰ってくると、「日本は便利だな」「ご飯もおいしいな」と気づくこともたくさんあります。またGACKTさんがおっしゃったように「自分が何者であるか」というのは、海外にいる方が自覚することが多いですね。特にフランスは、日本を大好きな人が多いので、「あなた日本人でしょう? あれは知っている?」と日本の映画監督や芸術家について聞かれることもあって。もっと自分たちのことを勉強しなければ、もっと日本のことを説明できるようになりたい、しっかりと意見を持たないといけないなと痛感します。

Q:YouTubeでもいろいろな企画にトライされていて、杏さんが海外での生活を楽しんでいる様子が伝わってきます。

杏:私は30代半ばになって初めて、生まれた街を離れて生活を始めました。いつか経験してみたいなとずっと思っていたので、すごく刺激的ですし、ワクワクしています。きっとこれからいろいろな壁が立ちはだかることもあると思いますが、このワクワクを大事に、楽しんで生活していけたらうれしいです。

映画『翔んで埼玉 〜琵琶湖より愛をこめて〜』は11月23日より全国公開

<GACKT>
ヘアメイク:タナベコウタ/スタイリスト:Rockey
<杏>
ヘアメイク:笹本恭平(ilumini)/スタイリスト:中井綾子(crepe)