2023年上半期(1月〜6月)にプレジデントオンラインで配信した人気記事から、いま読み直したい「編集部セレクション」をお届けします――。(初公開日:2023年6月26日)
年をとっても良い人間関係を築くにはどうすればいいか。ハーバード大学医学大学院精神医学教授のロバート・ウォールディンガー氏とブリンマー大学心理学教授のマーク・シュルツ氏は「いくつになっても新たに友人をつくることはできる。我々の研究調査の中では、長年孤独に苛まれていた男性が80代で友人に恵まれるケースもあった」という――。

※本稿は、ロバート・ウォールディンガー、マーク・シュルツ『グッド・ライフ 幸せになるのに、遅すぎることはない』(&books/辰巳出版)の一部を再編集したものです。

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※写真はイメージです - 写真=iStock.com/BalanceFormcreative

■必要な友人の数は人それぞれで違う

友情は最も放置されやすい人間関係の一つだ。我々の研究の被験者の人生においても、男女を問わず、放置したせいで友情が悪化していくケースを繰り返し目にしてきた。友情は自由意志によって育まれる。だからこそすばらしいし、だからこそはかない。はかないものだからといって、大して価値がないわけではない。すでに手にしている友人関係を維持したり、新しい友人をつくっていくには、意志を伴う行動が必要だ、という意味だ。

筆者らが最もよく訊かれる質問の1つに「私に必要な友人の数は何人ですか? 5人? 10人? 1人?」という質問がある。

残念ながら、本人以外には答えられない質問だ! 必要な友人の数は、人それぞれ違う。親友が2人もいれば十分だという人もいれば、一緒にいろいろな活動を楽しみ、大人数で集まりたいから友人はたくさんほしい、という人もいる。ライフステージによって、求めるものも変わる。関心が共通する社会問題や活動を通じて、新しい友人や仲間と出会うこともある。自分にとって最適で充実感を得られる友人関係を見極めるには、自分を振り返る必要がある。

■友人関係は放っておいても維持されるものではない

だが、ここで自分の人生における友人という存在について、考えるべきことをいくつか挙げておきたい。

友人関係も、家族関係と同じ原因によって損なわれる。慢性的な対立、倦怠(けんたい)、好奇心の欠如、注意をきちんと向けない、といった問題だ。

まず、友人の言葉に耳を傾ける態度を身につけること。耳を傾けることには、話を聴く側と聴いてもらう側の両方に、同じくらいのメリットがある。耳を傾け、相手の人生経験を真摯(しんし)に受け止めることで、聴き手と話し手がそれぞれの殻を破り、「開かれて」いき、双方の人生が豊かになる。

誰にでも心に秘めた悩みはあるものだが、それが親しい人との会話を難しくすることがある。だが、努力してみてほしい。例えば、自分や家族の病気については、話題にしたくないものだし、話したくても友人の負担になるかもしれないと思って控えてしまうのが普通だ。だから、相手が病気のことに触れたときには、もっと詳しく聞かせてほしいという姿勢を示そう。するともっと深い友情への扉が開かれるかもしれない。

■いつも同じ話ばかりになってしまう相手との付き合い方

話を聴いてもらうことで、相手が自分を理解し、気遣い、見守ってくれているという感覚が得られる。友人に寄り添い、話を聴くだけで、自分自身も相手に見守られ、理解されていると感じるものだが、自分の話を聴いてもらう勇気も必要だ。

また、友人関係においては、話し手と聞き手の役割が固定化してしまうことがある。自分がどちらになりがちかを見極めて、バランスをとろう。双方向の関係が、いちばん強い友情になる。

次に、仲違いした友人との関係について考えてみること。友人との関係の中で傷つき、それが長く尾を引くことがある。だが、いつまでも仲違いし続ける必要はない。「私が悪かった」と素直に謝ったり、仲直りの機会──丁寧なメールを送る、昼食をごちそうすると提案する、誕生日に電話する──をつくったりするだけで、過去の傷を修復できることもある。人は友情よりも傷ついた自分の心を守ろうとすることがある。だが、わだかまりを手放せば、心の重荷から解放される。

最後に、友人付き合いのルーティンを見直すこと。最も頻繁に会う友人との付き合いはパターン化しやすく、いつも同じ話題ばかり話してしまう。だが、その友人からもっと聞き出したいことはないだろうか? 自分から話せることはもっと他にないだろうか? おそらくその友人について、その人の過去について、もっと知りたいことがあるはずだ。あるいは、2人で一緒に新しい活動や体験をしてみてもいいだろう。

■「今さら友達をつくろうとは思えない」という大人

そんな努力は自分にはとてもできない、と思った人もいるかもしれない。また、孤独感や寂しさを感じていても、自分のやり方は変えられないと思っているかもしれない。昔からなじんだやり方を変えるのは難しい。それに、内気だったり、群れることが嫌いだったりと、人付き合いが難しくなる心理的な壁は誰にでもある。今さら手遅れだと考えている人もいるはずだ。

だが、そう思っているのはあなただけではない。我々の研究の被験者にも、大人になると友人関係のあり方は変えられない、という考えを繰り返し口にする人はたくさんいた。孤独だと言ったあと、「人生はそういうものだから」とか「忙しくて友人付き合いの暇がなくて」といった発言が続く。質問票に書き込まれた回答からも、そんなあきらめの声が聞こえてくることがある。

アンドリュー・デアリングもそんな被験者の1人だった。心の底で、自分の人生は決して変わらないと思い込んでいた。多くの人のように──あなたもそうかもしれないが──もう手遅れだと決めつけていた。

■仕事にしか幸せを見出せなかった孤独な男性

アンドリュー・デアリングは、本研究の被験者の中でもとりわけ苦労の多い、孤独な半生を生きてきた。母子家庭で育ち、子どもの頃に引っ越しを繰り返したため、長い付き合いの友人ができなかった。

ロバート・ウォールディンガー、マーク・シュルツ『グッド・ライフ 幸せになるのに、遅すぎることはない』(&books/辰巳出版)

大人になってからもよい友人をつくるのに苦労した。34歳で結婚したが、妻はアンドリューの生活にあれこれと口を挟み、人付き合いを嫌った。妻は誰とも会いたがらず、夫が誰かに会うのも嫌がった。2人で外出することはなかったし、人が訪ねてくることもめったになかった。彼にとって、結婚生活は人生最大のストレスの一つだった。

幸せを感じられたのは、仕事だけだった。アンドリューは時計の修理職人だった。振り子時計や鳩時計を分解し、また動くようにする仕事は楽しかった。客は、古い時計にまつわる家族の思い出を語ってくれたし、客の家宝を蘇らせるのは幸せな仕事だった。

50代後半になった頃、質問票にあった引退予定を尋ねる質問に、彼はこんな回答を寄せた。「はっきりとはわかりません。8歳のときから働いてきました。仕事があるから生きてこられた。引退は人生の終わりのように思えます。だからずっと仕事を続けたい」

■「親友は1人もいない、趣味も何もない」

だが、成人後のアンドリューが、調査ではほぼ毎回、幸福感や人生の満足度のレベルは非常に低いと回答していたのも事実だ。45歳のときには、深く絶望して自殺を図った。20年経っても、生きることは苦しみだった。質問票の余白欄に「人生を終わらせようと思ったことがある」と書いてきたこともあった。

60代半ばの調査では、親友の存在やその親友の意味を尋ねる質問に対し、「親友は1人もいない」と短く回答していた。趣味についての質問には、「何もない。仕事に行く以外はずっと家にいる」と書いていた。

67歳のとき、視力の低下により精密な作業ができなくなった。引退するしかなかった。引退して間もなく、生まれて初めて心理療法家のもとを訪れた。自分はひとりぼっちだと感じていること、引退するしかなくてとても悲しかったことなどを話した。自殺願望があることも打ち明けた。

■思いつきで通い出したスポーツクラブでの出会い

心理療法家からは、離婚を考えたことはあるか、と訊かれた。離婚すれば妻を傷つけることになるから申し訳ない、と彼は考えていた。だが、この質問は彼の心を離れなかった。翌年、68歳のとき、籍は残したまま別居した。アパートで一人暮らしを始めた。

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息苦しい結婚生活からは解放されたが、孤独感はさらに強くなった。ふと思いついて、近所のスポーツクラブに入会した。気晴らしに運動しようと思ったのだ。毎日通ううちに、来る日も来る日も同じ顔ぶれがいることに気づいた。ある日、常連の1人に挨拶し、自己紹介してみた。

3カ月後にはクラブの常連の全員と知り合いになっていた。人生で最大数の友人ができた。毎日クラブに行くのが楽しみになり、何人かとはクラブの外でも会うようになった。友人のうち数人とは、古い映画が好きだという共通点があるとわかった。そこで、集まってお気に入りの作品の上映会をするようになった。

■毎日誰かに会って話すことで心が安らいだ

数年後、アンドリューは、孤独を感じることはあるかという質問に対し、「よくある」と答えた。やはり一人暮らしということもあったのだろう。しかし、現時点での人生がどのくらい理想に近いかを7段階評価で答える質問には、「理想に近い」を意味する「7」と回答していた。寂しさは消えなかったが、人生は以前よりはるかに充実しており、これ以上よくなるとは思えないほどだった。

それから8年後の2010年、アンドリューは同じ友人たちと親しく付き合い、人間関係の輪をさらに広げ、生き方を変えたことで心が安らいだと言っていた。外で人と会ったり、自宅に人を招いたりする頻度を尋ねる質問に、以前は「まったくない」と答えていた。ところが、80代では同じ質問に対し「毎日」と回答した。

■いくつになっても友人をつくることはできる

人生は千差万別だし、歳月とともに人も大きく変わっていく。だから、人生においてできることとできないことを一概に言うことはできない。ただ、最も孤立し、孤独を感じていた被験者の1人だったアンドリューは、救いを見出すことができた。生活のルーティンを変え、人とつながった。その過程で、自分には価値があると思える世界に足を踏み入れ、成長していった。

私たちは人とのつながりを渇望する世界に生きている。自分は流されるままに生きている、孤独だ、もう手遅れで何も変えられない、などと感じることもあるだろう。アンドリューもそうだった。変えられる時期はとうの昔に過ぎてしまったと思い込んでいた。だが、そうではなかった。遅すぎることはなかった。なぜなら、本当のところ、遅すぎることは決してないからだ。

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ロバート・ウォールディンガーハーバード大学医学大学院・精神医学教授
マサチューセッツ総合病院を拠点とするハーバード成人発達研究の現責任者であり、ライフスパン研究財団の共同創立者でもある。ハーバード大学で学士号取得後、ハーバード大学医学大学院で医学博士号を取得。臨床精神科医・精神分析医としても活動しつつ、ハーバード大学精神医学科心理療法プログラムの責任者を務める。
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マーク・シュルツブリンマー大学心理学教授
ハーバード成人発達研究の副責任者。ブリンマー大学のデータサイエンスプログラムの責任者であり、以前は心理学科の学科長を務め、臨床発達心理学博士課程の責任者でもあった。アマースト大学で学士号取得後、カリフォルニア大学バークレー校で臨床心理学の博士号を取得。ハーバード大学医学大学院で博士研究員として健康心理学および臨床心理学の研鑽を積んだ後、現在は臨床心理士としても活動している。
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(ハーバード大学医学大学院・精神医学教授 ロバート・ウォールディンガー、ブリンマー大学心理学教授 マーク・シュルツ)