女優・川上麻衣子さんの暮らしのエッセー。 一般社団法人「ねこと今日」の理事長を務め、愛猫家としても知られる川上さんが、猫のこと、50代の暮らしのこと、食のこと、出生地であり、その後も定期的に訪れるスウェーデンのこと(フィーカ:fikaはスウェーデン語でコーヒーブレイクのこと)などを写真と文章でつづります。第30回は、「猫島」について。5年ぶりに訪れた宮城県・田代島の“今”とそこで学んだ猫と人間の暮らしの未来とは…?

「猫が主役の島」宮城県・田代島での1匹の猫との出会い

猫との生活がまもなく40年となる私ですが、5匹を看取り現在は2匹の保護猫と暮らしています。どの猫たちも個性的で、これほどまでに猫によって性格が違うものかと感心するばかりです。7匹7様なのですから、まだまだ猫の魅力は計り知れません。

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じつはこの7匹とは別に深く私の心に印象を残した1匹の猫がいます。

それは今から5年前。旅番組のロケで訪れた宮城県石巻市田代島での出会いでした。2011年の震災から7年後の頃です。

●2018年に初めて訪れた田代島

「人口よりも猫が多い島」として注目され猫好きの観光客が訪れることで知られていた島でしたが、津波の被害に遭いました。私が初めて島を訪れた際には復興も進み、猫好きからの支援が力となったということを島の方に伺いました。

猫神社もあり、犬は島に入ることさえ許されないという猫が主役の島です。ほとんどの猫が、外猫として自由気ままに生きているように見えました。

●たくさんの猫の中でも特別なオーラの猫を発見

都会で出会う地域猫とは違い、昔ながらの「ノラ」という響きが似合う猫たちには、ひ弱な人間をあざ笑うなようたくましさがあります。島を取材し、撮影の合間のわずかな休み時間を過ごした場所で私が出会った猫は、その中にあっても特別に個性を放つ存在でした。

ほかの猫たちとの違いに気がついたのは、片脚を引きずりながら歩く独特の仕草にあったからかもしれません。

自撮り棒を片手に島を探索する私のあとを、気づくとずっとついてきてくれていました。ベンチに腰かけると、スッと側に寄り添い「写真を撮ろうか?」と自撮りモードで構えれば見事なポーズで応えてくれます。

東京に戻ってからも、その個性的な表情が忘れられない私は、この猫をモチーフに切り絵を制作し、後にWEB上に立ち上げた猫に特化した街「にゃなかタウン」のキャラクターとしました。

そのおかげで私の中では田代島のタッシーという呼び名でとても身近な存在となりました。

5年ぶりに田代島を再訪問。そこで感じたのは…

タッシーと出会ってから5年の月日を経て先日突然「田代島に行きませんか?」という話が持ち上がりました。震災後から田代島の猫たちをボランティアでの診察を続けているドイツ在住の日本人・獣医師クレス先生の田代島訪問に同行するというお誘いです。

いつの日かまた訪れたいとは思っていましたが、なかなかに遠い場所です。仙台から石巻へ。そして石巻からのフェリーは本数が限られています。東京でのスケジュールも立て込んでいたために、直前まで悩みましたが「タッシーに会いたい!」という想いに背中を押され、2度目の田代島訪問が実現となりました。

今回は島に初めて1泊することもあり、じっくりとクレス先生と島を歩いてこようと決めました。当日は天候にも恵まれ、ようやく夏の強い日差しも収まり秋の気配を感じる気持ちのよい風の中、5年ぶりに田代島に到着しました。

●以前にも増して島民の数が減っている…

前回は初めて見るたくさんの猫たちに圧倒され数時間の滞在だったために島の地理的なことも分かりませんでしたが、今回はなんとなく島の全体像も見えてきました。そして以前にも増して島民の数が減っていることが大きな気がかりとなりました。

クレス先生と島を歩いていても、島民とすれ違うことはほとんどありません。それでも子猫の数は多く、元気な集団もあれば猫風邪でつらそうな子もいます。そんな猫たちを見つけては先生が目薬や薬を与えていきます。

島に暮らす人たちが少なくなってしまう原因のひとつには、せっかく島に移り住んでくれた若い世代の家族でも、島には学校がなくなってしまったがために、出ていかざるを得ないという現状があります。

高齢化する島の人たちと猫たちとの暮らしは、さまざまな問題を抱えていることを5年ぶりの島で感じることとなりました。

●人が幸せでなければ猫を幸せにできない

私が一目惚れしたタッシーと出会った場所は「マンガアイランド」と呼ばれる宿泊施設がある場所でしたが、以前はたくさんの猫であふれていた風景は一変していて、建物だけは変わらずその場所にありましたが、猫を見つけることはできませんでした。

皆、生活の場所を変えてしまったようです。その日の夜、私たちは島にある数少ない民宿でクレス先生と猫の幸せを語り合いながら、結局はそれぞれの死生観へと話題は移行していきました。

人が幸せでなければ、猫を幸せにすることはできません。猫の看取りを考えるときには、自分はどう死にたいのか、という問題にたどり着きます。

●“タッシー”がつないでくれた縁を大切に生きたい

今回の旅ではタッシーとの再会はかなわず、外猫で5年を過ごす難しさを目の当たりにしましたが東京に戻り、SNSで田代島を検索していくと、懐かしいタッシーの写真を発見。

私がタッシーと名づけたその猫は、島では「きいちゃん」と呼ばれ愛されていたこと。そして今は虹の橋のたもとで過ごしていることを知ることができました。タッシーがつないでくれた田代島。年明けの寒さの厳しい季節に再び訪れるというクレス先生にまた同行したいなと考えています。