by Marco Verch Professional Photographer

ベルギーの諜報(ちょうほう)機関である国家安全保障局(VSSE)が、スパイ活動の懸念により中国の大手IT企業・Alibabaの物流拠点を監視対象としていることがわかったと、イギリスの経済紙・Financial Timesが報じました。

Alibaba accused of ‘possible espionage’ at European hub | Financial Times

https://www.ft.com/content/256ee824-9710-49d2-a8bc-f173e3f74286



伝えられるところによると、VSSEの監視対象になっているのはベルギーの都市・リエージュの貨物空港にあるAlibabaの物流拠点であるとのこと。Alibabaは2018年に、EU第5位の貨物空港であるリエージュの空港に物流ハブを設置することについてベルギー政府と契約を締結していますが、VSSEは物流ハブで「Alibabaを含む中国企業によるスパイ活動もしくは干渉活動」が行われている可能性を念頭に調査を続けています。

VSSEが特に警戒しているのが、機密性の高い経済情報を扱うソフトウェアシステムの導入です。中国企業は、中国政府から要求に応じてデータを提出しなければならないと法律で義務づけられており、VSSEはFinancial Timesに「Alibabaの存在はVSSEにとって要注意です。中国政府には、中国企業が集めたデータを非商業的な目的で使用する動機と能力があります」と話しました。



ベルギーでは、重要インフラに対する外国の投資を審査する新法が2023年7月に施行されており、今後は安全保障の上で重要な社会基盤に対する海外資本の流れに厳しい監視の目が向けられることになります。

ベルギーの法務大臣であるヴィンセント・ヴァン・クイッケンボルネ氏は「Alibabaとの初期の交渉は前時代のものであり、無邪気な時代はもう変わっています」と述べて、物流ハブに関する契約を締結した当時とは状況が異なるとの認識を示しました。

リエージュにある拠点は、Alibaba傘下の物流企業であるCainiaoが運営するEU唯一の物流センターで、主にAliExpressを通じてヨーロッパの消費者に配達される商品を扱っています。そこでは、従業員が飛行機からの品物を積み下ろし、3万平方メートルの倉庫に運び込んでから各地に発送しており、Cainiaoは目下倉庫の面積を3倍の10万平方メートルに拡張する許可を申請中とのこと。

ベルギー議会などでは、物流ハブの建設前からスパイ活動に関する懸念が提起されており、今回のVSSEの発表は「物流ハブ開設後も根強い懸念が残っていることを示唆するもの」だと、Financial Timesは記しています。



一方のCainiaoは、「データのセキュリティとプライバシーの保護は、当社のビジネスにとって最も重要な関心事です。私たちはEU一般データ保護規則(GDPR)を含む全ての法律と規制を順守しています」と述べて、不正行為の疑いを否定しています。

Cainiaoの物流ハブでは、「世界電子商取引プラットフォーム(eWTP)」と呼ばれるAlibabaのシステムが導入されており、これで配達時間などを管理しています。Cainiaoによると、eWTPのデータはドイツにあるAlibaba Cloudのサーバーに保存されており、Cainiaoの業務に使われるものとのこと。

中国政府と中国企業の関係に詳しいブリュッセル自由大学の国際政治学者のジョナサン・ホルスラグ教授は、「主な懸念は、この物流ハブからのデータが、サプライチェーンや物流上の脆弱(ぜいじゃく)性のヒントになることです。中国当局は物流ハブに対し、現地の情勢を伝えたりEUの貿易や物流に関するデータを報告したりすることを期待しており、消費パターンの動向や物流構造に関する知識はサプライチェーンの支配をもくろむ中国にとって貴重なデータとなります」と話しました。