遠藤航は「one of only No.6」 現地記者が見た“リアル評”…先発奪還へ秘めるポテンシャルと成長の鍵「今後の活躍次第で…」【現地発】
リバプールの遠藤の序盤戦について地元紙記者に直撃
「FOOTBALL ZONE」では、「欧州日本人・序盤戦通信簿」と題しヨーロッパの侍たちに焦点を当てた特集を展開。
なかでも今回は、今季ひときわ大きな注目を集める遠藤航にフォーカスする。リバプールへの“電撃移籍”から早くも1か月半が経つが、当初の期待とは裏腹にリーグ戦ではベンチスタートの試合が続く。一方、9月末のカラバオカップ(リーグカップ)では初アシストを記録するなど際立った活躍を披露。遠藤のここまではどう評価されるべきで、今後は何が必要か――。リバプール地元紙「リバプール・エコー」でレッズ番を務めるポール・ゴッスト記者に話を訊いた。(取材・文=森昌利)
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――カラバオカップ(レスター・シティ戦/3-1)で遠藤がようやく彼らしいプレーを見せましたね。
「この試合でユルゲン・クロップ監督の評価も大きく変わったと思う。数人の控え選手が先発昇格を目指していい印象を与えたいと奮起して臨んだ試合だった。もちろんワタルもその1人。クロップがなぜ遠藤をリバプールに連れて来たかと言えば、守備のマインドがある典型的なナンバー6の選手であるからだ。今のリバプールの中盤にはいないタイプ。そして昨夜は中盤で相手選手の壁となり、ボールを奪う高い技術があるところも見せて、守備的MFとして“使える”印象を与えた。近年のナンバー6の傾向からすると、決して大きい選手ではないが、タックルが強く上手い」
――リーグ戦の先発はニューカッスル戦だけ。カップ戦要員の立ち位置だったと思うが、カラバオ杯の活躍で状況は変わる?
「変わると思う。守備に加え、注目すべきはソボスライのゴールをアシストしたパス。あのプレーで証明したように、相手のラインを切り裂くようなパスセンスもある。前につける攻撃的なパスは非常にエキサイティングだ。リバプールファンの視点からも、守備的MFがああいったパスを出せるというのは非常に喜ばしい。あの活躍で一気に株を上げたことは間違いない」
――試合後に遠藤が、あのパス能力は自身にとって「一番の良さ」と語っていた。
「実際、1対1の強さが強調されていたので、あのパス能力には驚かされた。前半は20〜30メートル級のサイドチェンジパスを何本か決めていたし、後半はFWに直接つける危険な縦パスを通した。ああいうプレーをアピールできたのは本当に大きい」
順応が求められる“環境”と“プレースタイル”
――クロップ監督は遠藤に対し「慣れる必要がある」と言っていた。何に慣れる必要が?
「まず、チームが今夏に大きく変わったことを忘れてはならない。特に中盤は主将の(ジョーダン・)ヘンダーソンをはじめ、ファビーニョ、(ジェームズ・)ミルナー、(ナビ・)ケイタ、(アレックス・)オックスレイド=チェンバレンと5人もの選手が抜けた。そこに遠藤をはじめ、(アレクシス・)マック・アリスター、(ドミニク・)ソボスライ、(ライアン・)フラーフェンベルフと4人の選手が新加入した。
たしかに(ハーヴェイ・)エリオットと(カーティス・)ジョーンズという生え抜き2人がいるが、彼らはまだ若くレギュラーに定着しているわけではない。つまり中盤を丸ごと入れ替えた状況だ。これは新加入した4選手全員にとって難しさがある状況だと思う。新しいチームの新しいシステムでプレーするうえ、周囲も新加入。ワタルがまず慣れなくてはいけないのはそうした環境ではないか。しかし最初に主張した通り、彼は今のリバプールで唯一と言っていい典型的なナンバー6。クロップがチームに馴染んだと判断すれば必ず使ってくると思う」
――ただリバプールがいくらビッグクラブとはいえ、ずっと控えが続く状況は遠藤にとっていいわけがない。レギュラー奪回の芽はあるのか?
「例えばヘンダーソンにしろファビーニョにしろ、リバプールの中盤で守備の負担を背負った選手がレギュラーに定着するまでには、多少なりとも時間がかかった事実がある。高速のテンポでアグレッシブにプレーしながら、守備に特化するのは困難だ。それに移籍にはピッチ外の環境変化もある。ワタルには家族もいるし、色々なことに慣れなければならないはずだ。そうした移籍に伴う全ての変化に慣れながら、今の遠藤はとにかく、1試合1試合を大切にして、いいプレーを積み重る必要がある」
――守備的MFを英語では「ホールディング・ミッドフィルダー」と呼ぶ。つまり、ボールをしっかりキープして、試合をコントロールする役目がある。一方で、今のリバプールは非常にアグレッシブなサッカーをしていて、ボールを奪えばすぐに前につける。遠藤はこういうスタイルにも慣れなくてはならない?
「結局、リバプールはマンチェスター・シティではない。90分間にわたりボールを支配して優位に戦うというスタイルではないんだ。特に今季は、先制点を許す展開が多いこともあってか、ボールを持てばすかさず攻撃に転ずるサッカーをする傾向は強い。前へ前へとパスを供給して、速攻で(モハメド・)サラー、もしくは(ダルウィン・)ヌニェスにつなげてゴールを狙う。こうしたリバプールのスタイルはかなり特異で、ワタルにとっても未知の経験だと思う。
加入当初は、こうしたテンポについていけない印象もあった。また、プレミアの中盤にはブンデスよりも時間とスペースがない。そうした状況下にありながら、リバプールのプレースピードは一段と速い。ただ、レスター戦のプレーを見る限り、遠藤はかなりの速度でリバプールのスタイル慣れていっているように思える。とにかく、まだイングランドに来て5週間。これからもっともっと良くなると期待している」
――ニューカッスル戦後、遠藤はイングランドのプレースピードには「驚かなかった」と言ったが、縦パスを連発して攻守の切り替えがものすごく速いサッカーには戸惑いを感じていたようだった。
「ワタルにとってニューカッスル戦は本当に生憎だったと言うしかない試合だった。30分も経たないうちにファン・ダイクが退場になった。しかも前半、ホームのニューカッスルが押し込んで、中盤の底に位置するワタルにとって非常に難しい展開になった。まあ明らかな不利があった試合で存在感を出せなかったニューカッスル戦のことは忘れて、今後の試合でいい印象を与えることに専念すべきだろう。レスター戦のようなパフォーマンスを積み重ねていくことが大切だ」
遠藤は「プレシーズン不在の不利を跳ね返している」
――レスター戦後、遠藤の立ち位置はクロップ監督の“有力なオプション”になったと?
「その通り。それにもう一言付け加えると、ワタルは“ユニークなオプション”となる。何度も言うけど、ほかに同型の選手がいないからね。最近のリーグ戦ではマック・アリスターがナンバー6のポジションでやっているけど、あそこは彼本来のポジションではないと思う。ワタルは『one of only No.6』(チームで唯一の守備的MF)。この状況は彼にとって非常に有利だ。しかし現状の中盤はまだ横並びの状態と言っていいだろう。それぞれの選手が今後の活躍次第でリバプールの中盤を固めていくはずだ」
――先ほどの話にもあった通り、リバプールのプレースタイルは特殊。選手にとってはかなりきついし、ほかに例がない。遠藤はこうしたチームに8月中旬に加入した。プレシーズンを過ごせなかった事実はかなり不利に働いているのでは?
「リバプールはチェルシーとの開幕戦でナンバー6の不在が明確になって、(モイセス・)カイセド、(ロメオ・)ラヴィアの獲得に失敗。そこから現実的に獲得可能な選手を探してワタルに白羽の矢を立てたわけだ。この応急処置的な移籍の経緯を見ると、ワタルがプレシーズンをリバプールで過ごせなかったのは仕方がない。もちろんプレシーズンから参加していれば、違うスタートが切れただろう。しかしそれは言ってもどうにもならないこと。それにレスター戦でワタルがすでにリバプールのサッカーにはまってきていることは明らか。プレシーズン不在の不利を跳ね返している」
――開幕戦こそ中盤はかなりチグハグで苦しんだ印象だったが、その後の試合は逆転勝ちを繰り返し、チームに日々強さが加わっているように思える。今季のリバプールにはどのくらいの期待を懸けている?
「エキサイティングなシーズンにはなりそうだ。しかし、その先にどんな栄光があるのかと言えば、それは誰にも分からない(笑)。シーズン序盤戦はまだ新チームの可能性とその脆さが共存した状態。ただし、今後に大きな進歩もありそうだ。1点を先行されながら2点、3点と奪い返して逆転勝ちを続けている。凄まじい攻撃性と運動量で相手を凌駕するようなサッカーをしている。とにかくゴールを奪えているというのは大きな可能性につながる。多くの新加入選手がいて不確定要素もたくさんあるが、エキサイティングと呼ぶに相応しい状況を生んでいると思う」
――そうした状況のなかで、遠藤も躍進したいところ。レスター戦で90分フル出場を果たしたところを見ると、尻上がりにプレーを良化させた印象を受けた。いいアピールになったのは間違いないはず。
「本当にその通り。特にワタルの後半のパフォーマンスには感心させられた。リバプールでフル出場するには95〜100分間にわたって動き回れるフィットネスが必要だが、ワタルにはその体力が備わっている。あのタフさを見せることができたのもパフォーマンスのキーポイントだった。あの体力に加えて、中盤の守りと攻撃の起点となるパスセンスは今のリバプールにとって本当に欠けているもの。レスター戦がいい転機となり、今後ワタルが活躍を続けることを期待したい」(森 昌利 / Masatoshi Mori)