上越新幹線で8月に実施した荷物輸送(記者撮影)

運ぶのは人ではなくモノ――。新幹線を活用して荷物輸送を行う例がJR各社の間で増えてきた。とりわけ力が入っているのがJR東日本で、8月31日には上越新幹線の臨時列車(E7系12両編成)が新潟と東京の車両基地間を往復し、約800箱の荷物を運んだ。「はこビュン」と呼ばれる新幹線荷物輸送を活用した多量輸送の試みである。

はこビュンは通常、列車の空きスペースとなっている車内販売準備室に最大40箱を積み込んでいる。客室には通常どおり旅客が乗る。つまり1つの列車が旅客と荷物の両方を運ぶわけだ。

「荷物専用」の列車を運転

この2カ月半前の6月16日には、東北新幹線で約600箱の荷物を運ぶ試みが行われている。このときは新青森発9時37分、大宮着12時30分の臨時列車「はやぶさ72号」(E5系10両編成)の6〜8号車3両を使用して実施された。荷物の数が多いことから荷物の搭載場所として客室が使われることになった。

荷物の中身は鮮魚、スイーツ、清酒、生け花、電子部品など。盛岡新幹線車両センター青森派出所(青森市)で積み込み、大宮駅で荷物を下ろした。このときは1〜5号車は旅客用の車両であり、いわゆる貨客混載である。

これに対して、今回は客を乗せない荷物専用の臨時列車として実施された。荷物の中身は上りが鮮魚、青果、菓子、酒類、生花、精密機器部品など約700箱。下りが医療用医薬品、雑貨など約100箱の計800箱程度だ。

6月の試みでは旅客がいたため大宮駅で荷物の積み卸しが行われた。しかし今回は運ぶのが荷物だけのため、新潟側、東京側とも駅ではなく車両センターで荷物の積み卸しが行われることとなった。駅ホームでの作業に比べ、スペースと時間を十分に確保できるという利点がある。

新潟新幹線車両センターを午前中に出発した列車は昼頃に東京新幹線車両センターに姿を見せた。7〜10号車の計4両に荷物が搭載されているというが、外から見る車両の窓はブラインドが下ろされ、荷物が客室内でどのように積まれているかを見ることはできない。列車が到着するとスタッフたちが青果(茶豆)と生花(ひまわり)が入った箱を車内から次々と降ろし、台車に載せていった。

既存の機材を活用して輸送

一定数の箱を載せ終わると、スタッフは荷物をテープでぐるぐる巻きにした。積み重ねた荷物が運搬中に台車から崩れ落ちないようにするための処置だ。その後、スタッフはこの台車を押してデッキを移動し、さらに箱をフォークリフトに載せ替えて階下の荷さばき場へ運び、待ち構えていたトラックに積み込んでいった。


台車に載せた荷物をシートでぐるぐる巻いて崩れないようにする作業(記者撮影)


荷物を載せた台車を移動(記者撮影)


荷物を台車からフォークリフトに積み替える(記者撮影)

一連の作業はスムーズに進み、特段のアクシデントは起きなかったようだ。ここが車両基地内であるという点を除けば、どこの倉庫や物流センターなどでも普通に見られる作業風景だが、現場スタッフに交じって、JR東日本の首脳陣も傍らで作業風景を凝視していたのが印象的だった。


階下の荷さばき場で荷物をトラックに積み込む作業(記者撮影)

今回の試みの様子は担当者にはどう映ったか。JR東日本マーケティング本部くらしづくり・地方創生部門事業推進ユニットで列車荷物輸送を担当する堤口貴子マネージャーは、「貨客混載の制約がないケースにトライできた。荷物だけに集中できたのはよかった」と述べた。また、荷物をテープでぐるぐる巻きにしたことからもわかるとおり、「当社には荷物を運ぶ専用の設備がないので、あり合わせの設備でトライしてみた。車両センターにあるフォークリフトなど、既存の機材を活用するのが今回のテーマだった」と説明した。


列車荷物輸送を担当するJR東日本の堤口貴子マネージャー(記者撮影)

一方で、荷物の積み卸しや運搬などにも多くの人手がかかっているように感じられた。JR東日本でも省力化は課題の一つだが、人手を機械に置き換えるには多額の設備投資が必要になる。それに見合うだけの事業規模になるかどうかがカギとなりそうだ。

北陸から東北へ「載せ替え」も検証

JR東日本は新幹線の速達性を生かし、盛岡、新潟などから新幹線で新鮮な海産物を東京まで運ぶという試みを何度も行っている。例えば2019年6月には、盛岡駅から東京駅、新潟駅から東京駅への新幹線を使った海産物輸送の実証実験が行われた。

当初はスポット的な取り組みだったが、2021年4月からは子会社のジェイアール東日本物流の事業として格上げした。当時、JR東日本の担当者は「将来は荷物輸送専用列車の開発も視野に入れている」と話していたが、少しずつ実現に近づいているといえる。


2019年に行った新幹線による海産物輸送の実証実験=2019年6月(撮影:尾形文繁)

JR東日本の深澤祐二社長は、新幹線の荷物輸送について「さまざまなパターンを試している」と話す。「これまでずっと車内販売準備室に荷物を載せてやってきて、固定のお客様もかなりついてきたが、もっとたくさん運びたいというニーズもある。荷物が増えると前後のオペレーションも含めて具体的にどこまでできるかを、今年度中に何回か試してみる」。

6月16日には東北新幹線で貨客混載、8月31日には上越新幹線で荷物専用の列車が運行した。そして、9月28日には北陸新幹線で荷物専用の列車が運行する。長野から東京まで1、2、7〜9号車の5両を活用、東京新幹線車両センターで長野から到着した荷物の一部を東北新幹線に載せ替えて仙台に運ぶという載せ替え輸送に伴うオペレーションも検証する。また、AGV(無人搬送車)も活用し、人手不足を考慮した省力化も図りたいとしている。

目標は「2024年度以降の多量輸送の事業化」。深澤社長は、「座席と座席の間に入れるカートを造ってそれでかなりのものが運べるので、当面はそれでやっていく」と言うが、将来、さらに需要が増えてきたら座席を取り除いた荷物専用の車両を導入するようなことも考えたいという。

JR貨物はどう見ている?

では、荷物輸送の大先輩であるJR貨物にとって、JR東日本の動きはどう映るのか。JR貨物としては、「旅客会社が現在運んでいるのは軽量の荷物に限られている」として、JR貨物とはすみ分けができていると考えている。また、JR東日本が新幹線を使ったスピーディーな輸送を売り物にしているということは、在来線の貨物列車で輸送するJR貨物と価格面でもすみ分けが図られるはずだ。

一方で、物流業界には残業規制でトラック運転手不足が懸念される「2024年問題」が迫っている。JR貨物はこれをビジネスチャンスと捉えているが、JR東日本の「新幹線荷物輸送」にも追い風となりそうだ。

もし荷物専用の新幹線列車が頻繁に運行するようになったら、JR貨物も傍観してはいられないだろう。同社の2030年を見据えた長期経営計画「長期ビジョン2030」には総合物流事業の推進という目標達成のために新幹線のインフラを有効活用するといった説明がされており、長期的視点では新幹線に関心を持っていることがうかがえる。どのような形で実現されるにせよ、新幹線荷物輸送の本格化に向け舵を切る時期が迫っていることは間違いなさそうだ。


「鉄道最前線」の記事はツイッターでも配信中!最新情報から最近の話題に関連した記事まで紹介します。フォローはこちらから

(大坂 直樹 : 東洋経済 記者)