東京・上一色中の西尾弘幸監督【写真:伊藤賢汰】

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2022年日本一の東京・上一色中…今夏の甲子園出場選手も輩出

 全国大会の常連で、2022年全日本軟式少年野球大会で初めて頂点を極めた、東京都江戸川区立上一色中学校。今夏の甲子園出場を果たした共栄学園高(東東京)で3人、専大松戸高(千葉)でも3人が同校出身の選手で、いずれも西尾弘幸監督が育て上げた。Full-Countでは、小・中学世代で日本一を成し遂げた12人の監督に取材。西尾監督が手塩にかけた選手は、中学以降も順調に成長を遂げている。

 かつて、全国大会決勝で奥川恭伸投手(石川県かほく市立宇ノ気中、現ヤクルト)と投げ合い敗れた横山陸人投手は、専大松戸高を経て2019年ドラフト4位でロッテ入り。深沢鳳介投手も中学全国3位。負けて号泣した悔しさをバネに、専大松戸高から2021年ドラフト5位でDeNA入りした。

 西尾監督は「日本一になる!」と一切言わないという。「勝つために頑張るのは当たり前。『野球は失敗する競技』だから、『勝ちたい!』という意識を指導者が前面に出すと、失敗が負けにつながる子どものプレッシャーになることもあります」。

 公立校である上一色中のグラウンドは狭いながらも、工夫して守備練習をやれば技術を伸ばすのが可能なことを証明している。とれる距離は最長でも42〜43メートル。キャッチボールで遠投はできないが、腕を振って「低くて強い球」を投げることを身につけさせる。大事なのは、子どもたちが「これをやればうまくなれる」ということを信じてやれる練習法や環境なのだ。

高校から先に生きてくることを「3年間で学んでほしい」

 西尾監督自身の野球経験は、中学までというのが驚きだ。全国の部活動の先生に勇気を与える。「逆に、経験値が浅いからこそできているということはあります。野球に関わる人と会ったり、実際に高校の練習を見て学んだりして吸収するのは、自分の刺激になる。それを子どもたちに押しつけないで、提案する」。コロナ禍前は土日に10時間練習をやっていたのが、集中してやれば4時間でできることを知った。自主性が育った。その「時短」の子たちが日本一になった。

 人材を育成する「西尾野球」とは何なのか。

「中学野球がゴールではない。その先で生きてくることを3年間で学んでほしいと言っています。全国優勝は素晴らしい結果ですが、あくまでも中学野球での大会結果です。レギュラーであっても控えであっても、3年間練習で身につけたことが必ず高校野球で生きるということを信じて、希望を持って野球と向かい合ってほしいです」

 中学生なので失敗があって当然。叱ることもある。しかし、感情的に怒ることはしなくなった。西尾監督は、25日から5夜連続で行われる「日本一の指導者サミット」に参加予定。そこでも、人材育成の「西尾野球」の一端を明かしてくれるはずだ。(石川大弥 / Hiroya Ishikawa)