5度の指名漏れで社長に「すみません」 背水で掴んだ“歓喜の瞬間”でまさかの事態
西武、巨人でプレーした高木勇人は高校、社会人で計5度の指名漏れを経験
2019年限りで西武を戦力外となった高木勇人投手は今季、独立のルートインBCリーグ・神奈川フューチャードリームス(FD)で選手兼任コーチを務めた。2014年ドラフト3位で巨人に入団し、NPBでは通算5年間で計77試合に登板して16勝23敗、防御率3.90。プロの舞台にたどり着くまでには、5度の指名漏れがあった。
高木がプロの門をたたいたのは、25歳のときだった。三重・海星高から進んだ社会人野球・三菱重工名古屋に7年間在籍したことを考えれば、いかに“遅咲き”であったかがわかる。高校3年時にプロ志望届を提出するも吉報は届かず、社会人でも4度指名なしを経験した。当時を思い出して笑う。
「社会人では候補と言われていて、ドラフト当日は会見場に社長とか来てくれていたので『なんかすみません』みたいな。でもマイナスな考えはなかったです。『今年行けなかったから、来年は違うことをしよう』と。悔しいとか思っても、人が選ぶことだから仕方ないじゃないですか」
そうして自分を高め続けた。都市対抗野球大会にも6度出場して大舞台も経験した。それでも毎年“ドラフト候補”止まりだった。プロ球団が興味のある選手に対して送る「調査書」は毎年届いていた。基本データのほかに、自分の長所や短所などを書いて球団に送り返すものだ。
ようやくの指名もまさかの事態「あのアナウンス、聞いていないんです」
指名漏れを重ねるうちに、高木は自身の長所が分からなくなった。だから「誰とでも仲良くなれますって書きました。それくらいしかなかったので。それが関係あったかは分かりませんが、そうしたらその年、ジャイアンツに選んでもらいました。でも今も仲のいい人たちは多いですよ」。独特の“ほんわかオーラ”で大真面目に話す。ちなみに、短所は「『トマトが嫌い』って書いたと思います」だそうだから驚きだ。
そうして2014年秋のドラフト会議で、ついに指名を受けた。しかしここでもまさかの事態が起きる。ウェーバー方式で3位指名を受ける直前のこと。「全球団の2位が終わった直後くらいに、停電みたいな感じで部屋のパソコンとかの電源が全部切れてしまった。監督とかみんな『えっ?』ってなっているときに、記者の方から『呼ばれました』って言われて。待ちに待ったあのアナウンス、聞いていないんです」。
そんなこんなで入ったプロの世界で、新人だった2015年に9勝(10敗)をマークしてオールスターにも出場した。人的補償により2018年から西武に所属し、2019年限りで戦力外に。NPB生活は計5年と決して長いとは言えないが、自分らしい道のりで夢を現実のものとした。
34歳を迎えたが「求められる以上は投げ続けたい」と独立リーグで右腕を振り、今年からは兼任コーチの肩書きもついた。一回り以上離れた若手とも「同級生くらいの感じで接してくれるので、かなり仲がいいです」と話す姿を見ると、あの時書いた「長所」が間違っていなかったことが分かる。「あんまり『うわー』とか思わない性格なので、ずっとめっちゃ楽しいです」。一見マイナスに思えるようなことも、常に前向きに受け止められる。だから今も、高木の周囲には笑顔の花が咲いている。(町田利衣 / Rie Machida)