なぜホンダは「オデッセイ」を復活させるのか…ミニバンを「ダサい」から「格好いい」に変えたブランドの伝説
■生産拠点の集約で消えてしまっていた「オデッセイ」
2023年4月、ホンダは上級ミニバン「オデッセイ」を今冬に復活させることを発表した。新たに販売されるオデッセイは、2022年に販売を終了した5代目をベースとした改良型モデルになる予定だ。
公式発表によれば、ホンダの先進運転支援システム「Honda SENSING」のアップデートに加え、コネクテッド機能や電気式ギアセレクター、スマホ用のワイヤレス充電器などを新装備として追加。さらに内外装のドレスアップと快適装備の強化を図った「BLACK EDITION」を新設定するという。基本的な構成は、これまで同様、ガソリン車とハイブリッド車の2本立てとなるようだ。
そもそも、なぜオデッセイはホンダのカーラインアップから消えたのだろうか。その背景には、経営改善の一環で行われた生産拠点の集約がある。その結果、ホンダの乗用車のラインアップが徐々に見直され、最終的にはシェアの少ない上級モデルの不在へとつながった。
オデッセイの後継として、ミニバン「ステップワゴン」の上級モデル「スパーダ プレミアムライン」を追加する対策がとられたが、全てのホンダ上級車ユーザーのニーズを受け止めるまでには至らなかった。その打開策として、急遽、オデッセイの再登板が決定したのである。
■販売不振のホンダを救った
奇しくもオデッセイは、ホンダの窮地を救うべく誕生した歴史がある。話は、1980年代まで遡る。
当時の日本では、レジャー市場が拡大していた。三菱「パジェロ」の大ヒットが象徴するように、ワゴンやSUVなど多目的に使えるRV(レクリエーション・ビークル)ブームが巻き起こっていた。
当時のホンダは自前のRVラインアップを持っておらず、販売不振へとつながっていく。バブル崩壊のダメージもあり、一時は他社との合併さえも噂されたほどだった。そんな状況からの起死回生の一撃として送り出されたのが、1994年10月に発売したホンダ初のミニバン「オデッセイ」だったのだ。
■ミニバンを敬遠していた層に刺さった
開発と生産コストが圧縮された厳しい状況下で、ホンダはミドルセダン「アコード」のプラットフォームをベースとしたミニバンを開発するしかなかった。だが、それがオデッセイの低床・低全高ミニバンという唯一無二の強みとなった。
当時のミニバンは、後輪駆動車が主流で、積載性を重視したワンボックスに近い作りだった。そのため、構造的に床面が高く、デザインも垢抜けていなかった。
一方、オデッセイは、低床・低全高のため、高い運動性能とスタイリッシュなデザインを手に入れた。セダン感覚の乗降性や走りは、ミニバンを敬遠していた層を取り込むことにつながった。
また前輪駆動としたことで、床面がフラットになり、低全高を感じさせない室内空間を実現し、運転席と後席の移動が可能なウォークスルー機能も備えていた。
この初代は、2代目にモデルチェンジするまでの5年間で国内の販売台数は43万3940台と大ヒット。ホンダの業績はV字回復する。ちなみに、この販売台数は、歴代オデッセイでトップの国内販売記録となっている。
ホンダは初代オデッセイのコンセプトを「クリエイティブ・ムーバー(生活創造車)」としていた。この大ヒットを皮切りに、次々とRV車を投入していく。
クリエイティブ・ムーバー第2弾として「シビック」のプラットフォームをベースとしたクロスオーバーSUV「CR-V」を発売。つづいて、専用開発のプラットフォームを用いたファミリーミニバン「ステップワゴン」を投入。いずれも大成功を収めた。
■従来のミニバンを覆した
その後のミニバン市場は、オデッセイに影響され低床ミニバンが主力に。オデッセイ自身はさらなる独自の進化を遂げた。
1999年に登場した2代目は、初代の魅力を受け継ぐキープコンセプトながら、新たな提案も行った。それが2001年に新設したスポーティーグレード「オデッセイ アブソルート」だ。
車高を落とした専用サスペンションと大径タイヤを装備することで、持ち前の低重心構造をより強化。カーブでの車体のロールを抑えた安定感ある走りを実現。まさに従来のミニバンの常識を覆す、新ジャンルのスポーツミニバンに仕上げた。その結果、子育てによりミニバンにしぶしぶ乗っていたクルマ好きを取り込んだのだ。
2003年登場の3代目では、新開発の低床プラットフォームにより一般的な機械式立体駐車場に収まる1550mmという全高と、ミニバンに求められる3列シートレイアウトの両立を実現。
スタイルもより流麗でスポーティーなものへと生まれ変わらせ、独自の強みであったスポーティーグレード「アブソルート」の走りも磨き上げた。持ち味の走りの良さだけでなく、都市部での使い勝手が高まったことで、オデッセイを指名買いするファンを増やした。
■時代は走りよりも豪華さを求めるように
絶好調だったオデッセイが苦境に立たされたのは、2008年に発売した4代目からだ。低全高ミニバンとして人気を博したこれまでのオデッセイの特徴を受け継ぎつつ、走りにも磨きをかけた。
だが、既にミニバンの低床化が常識となり、オデッセイが属する上級ミニバン市場ではトヨタの2代目「アルファード」(2008年発売)に代表される室内の高さと広さにゆとりがあり内外装も豪華なモデルが人気となっていた。
さらに、狭い場所でも安心してドアの開閉が出来るスライドドアのニーズが高まっていたが、オデッセイは未装備。徐々に窮地に立たされていった。
そこで2013年登場の5代目は、全高を高めつつさらなる低床化を図った。その結果、他モデルよりも室内高を拡大しつつも全高は抑えた。もちろん、オデッセイの強みである低重心も維持している。シリーズ初となる後席スライドドアの採用やハイブリッド車を用意することで、時代のニーズに応えようとした。
しかし、客が上級ミニバンに求めていたのは上質さや豪華さだった。ホンダ車らしい走りの良さを訴えるスポーティーなスタイルが逆に仇となり、販売は芳しくなかった。上級ミニバンはアルファードとヴェルファイアの2強時代に突入する。
■決して5代目が失敗したわけではない
ホンダも手をこまねいていたわけではない。
2020年11月に行ったマイナーチェンジでは、大胆なフロントマスクの変更を断行。それまでのオデッセイとは異なる重厚感ある顔付きとなった。
これがホンダファンから支持され、販売台数は急回復した。2019年が1万4614台、2020年が9715台だったのに対して、2021年は2万1148台まで巻き返しを図った。
それだけに、2021年12月の国内製造終了は関係者にとって無念だったに違いない。事実、国内販売が不調だった先代となる4代目が7万1184台だったのに対して、現行型である5代目は、販売開始から国内販売終了時点の合算で、17万8327台まで回復させている。
■最後までオデッセイらしさを守り抜く
実際に5代目オデッセイに乗ってみたことがある。以前よりミニバンらしいスタイルとなっているものの、低重心構造が生むハンドリングや走りの良さは健在であった。
確かに、アルファードなどの背の高いミニバンと比べれば室内高は低い。しかし、実際に数字を比べてみると、予想外の結果となった。
主要な上級ミニバンの全高を見てみると、アルファードが1950mm、エルグランドが1815mm、オデッセイが1695mmの順となる。
しかし室内高では、アルファードが1400mm、オデッセイが1325mm、エルグランドが1300mmと逆転するのだ。
つまり、外観から受ける印象で、室内高が低く感じられただけで、ミニバンとしては、十分な空間を確保できていたことが分かる。
オデッセイは度重なる低床化を図ることで、独自の武器である低床・低全高ミニバンの魅力を最後まで守り抜いたのだ。
■復活したオデッセイに求めること
今冬に復活する改良型オデッセイだが、生産工場は中国となることにも注目が集まる。これまでもホンダは、米国や英国、タイといったモデルの需要の高い地域から日本向けの乗用車を輸入していたケースがあり、特に珍しいことではない。
あまり知られていないが、最新輸入車でも、テスラ「モデル3」やボルボ「S90」、フランスのDS「DS 9」は、現在発売される日本向けモデルが中国製となっている。特筆すべきは、ボルボやDSの中国生産車は、ブランドのフラッグシップセダンであること。つまり、顧客を満足させる品質の高級車を生産できる体制がすでに中国で構築されているというわけだ。
オデッセイも中国ではホンダブランドのフラッグシップミニバンとなっており、日本にはない4人乗りのリムジン仕様が用意されているほどだ。
日本での再登場での成功を左右するのは、新たな価値を提供できるかという点に尽きる。初代の登場から20年を迎えたオデッセイが、復活を皮切りにホンダ独自の上級ミニバンの将来に期待を膨らませるものであって欲しいと願うばかりだ。
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大音 安弘(おおと・やすひろ)
自動車ライター
1980年埼玉県生まれ。クルマ好きが高じて、エンジニアから自動車雑誌編集者へ。その後、フリーランスになり、現在は自動車雑誌やウェブを中心に活動中。主な活動媒体に「GOONETマガジン」「ベストカーWEB」「webCG」「モーターファン.jp」「マイナビニュース」「日経クロストレンド」『GQ』「ゲーテWEB」など。歴代の愛車は、国産輸入車含め、ほとんどがMT車という大のMT好き。
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(自動車ライター 大音 安弘)