「富良野・美瑛トロッコ」乗ってみた! 息をのむ「客車列車の非日常体験」 富良野線″ノロノロ観光快速″が楽しい!
夏のラベンダーのシーズンに臨時運転される「富良野・美瑛ノロッコ号」が今年も運行開始されました。単なる「移動手段」ではなく、「乗っていること自体を楽しむ鉄道」はどんな魅力があるのでしょうか。
日常生活の鉄道移動では味わえない魅力
北海道屈指の観光地・富良野のハイシーズンである、ラベンダーの季節を迎えることになりました。JR北海道も受け入れ体制をととのえ、臨時列車「富良野・美瑛ノロッコ号」「フラノラベンダーエクスプレス」が6月10日に運行開始となりました。「ノロッコ号」は快速列車扱いで、運賃だけで乗車できます(一部指定席あり)。
今年も運行が始まった「富良野・美瑛ノロッコ号」(乗りものニュース編集部撮影)。
観光客が本格的に戻って来た2023年は、ただ例年通りのアクセス列車を走らせるだけでなく、「移動中の時間も旅の体験として楽しめる」ことに注力しています。ビュースポットでゆったり低速運転し観光案内を行う客車列車「ノロッコ号」はもちろん、特急「フラノラベンダーエクスプレス」でも、ラウンジ付きの特装車両を備えるほか車内販売「週末トレインマルシェ」も実施します。今回、この初日の行程に同行し、富良野の夏を一足先に感じてきました。
近代的な高架駅舎の旭川駅を出発したノロッコ号は、客車を機関車が後ろから押す形で、富良野線を一路南へ。特段の機器を詰んでいない客車だけあって、足取りは軽快です。車内はこれからの旅路に思いを馳せて、あちこちで会話が弾んでいます。しばらくすると車窓は緑に包まれ始め、最初の停車駅・美瑛駅に到着します。
そこから美馬牛、上富良野に至るまでは山岳区間。いつ終わるともわからない山奥深くの車窓が続き、車内も静かになっていきます。
上富良野からいよいよハイライトですが、車内の雰囲気は大盛り上がりというよりも、すでに富良野の世界に浸りきっていて、しみじみと楽しんでいる様子でした。美瑛の山越えの時間を経て、気分が「日常→非日常」へすっかりスイッチされたようです。非日常はふだんの生活で体験できない不思議な感覚で、本能的に身構えて対峙することになります。そのドキドキ感こそ旅の醍醐味で、富良野線はなかなかニクい車窓の移り変わりをしてくれるな、と感じました。
ラベンダーのシーズン、6〜7月は天気が特に移り気な季節でもあります。今回乗った初日は、旭川駅を曇り空で出発。美瑛に着くころには雲の切れ間に青空がのぞき、日差しが車内に入ってきました。上富良野で風と雨が吹き込んできたかと思えば、中富良野からは一転して晴れ。進行方向左側に見える十勝岳も、徐々に雲が抜けていき稜線があらわになっていきます。
終点・富良野の空は鮮やかな青と夏雲、ホームと客車列車は陽光を浴びてまぶしいほどです。ホームに降り立った乗客は列車を取り囲むようにして思い思いに写真を撮っていました。
鉄道好き目線でも楽しい!?
中富良野の手前で、毎年シーズン中だけ出現する臨時駅「ラベンダー畑駅」に停車。観光地としても有名なラベンダー農園、ファーム富田の最寄り駅で、ノロッコ号から大量の乗客が下りていきました。1999(平成11)年に初めて設置され、単管と板張りで作られた簡素な駅ながら、列車が停車するたびに束の間の大にぎわいとなります。
ノロッコ号は最初の1号が旭川発(10時)で、富良野〜美瑛間を休みなく3往復したのち、最後の6号で旭川へ戻っていきます(17時46分着)。ローカル線の非電化区間はディーゼル気動車が客を乗せて走るのが一般的ですが、かつては機関車に引かれた客車が日常客を運ぶ風景もありました。ノロッコ号はそこで活躍した「ローカル客車」50系が改造されています。ふと乗務室の扇風機を見ると、そこには国鉄のマークが残っていました。
ちなみに今回は初日の一番列車ということで、各駅で地域の人々が盛大にお出迎え。美瑛ではホームに和太鼓の重奏が鳴り響き、上富良野では子どもたちが手をふり、中富良野ではホームになだれ込んだ住民達から窓越しにラベンダーの束が手渡されていきました。富良野では折り返し始発駅として、旗を振って盛大な見送りが行われました。
ところでマニアックな目線で恐縮ですが、富良野盆地の雄大な自然が広がるハイライトといえる区間の上富良野?富良野間には、西中・鹿討・学田という駅があります。いずれも観光拠点とは無縁の地域住民用の駅で、知名度はゼロ、ノロッコ号も通過します。
この3駅は、北海道以外ではおよそ見ない「まるで朝礼台」という、1両分あるか無いかの簡素を極めたホームが、だだっ広い空間にぽつんと置かれているだけ。しかしこうした「朝礼台ホーム」な駅は、近年廃止に次ぐ廃止で、急速に数を減らしてしまい、今や絶滅危惧種になっています。注意しないと1秒ほどで視界を過ぎてしまう、観光客からは顧みられない駅。無人駅という単語だけでは言い表せない、ローカル鉄道の究極系とも言える風景がありました。