軍艦が“瞬間移動” 乗員が発狂… 80年前の米軍極秘プロジェクトはやっぱり都市伝説なのか?
今から80年前の1943年にアメリカ海軍である極秘プロジェクト「フィラデルフィア実験」が行われたといわれます。このとき、就役したばかりの新鋭艦が瞬間移動したとか。一体どんな実験だったのか、その真偽を含めてひも解きます。
東京〜名古屋間に相当する距離を軍艦が瞬間移動!
第2次世界大戦中の1943年10月28日、アメリカ海軍は実物の軍艦と生身の兵隊を使って、フィラデルフィア海軍工廠で大規模な極秘実験を実施したと言われています。このとき、被験艦となった1隻の護衛駆逐艦が、約360km離れた別の場所に瞬時にして移動。しかしアメリカ海軍は、この事実をひた隠しにしたとか。この実験は、実施場所にちなんで「フィラデルフィア実験」などと呼ばれています。
しかし、これはフィクションです。それでもアメリカではこの話が “都市伝説”のように語り継がれてきました。
「フィラデルフィア実験」で用いられたとされる護衛駆逐艦「エルドリッジ」。写真はギリシャ海軍の駆逐艦「レオン」として再使用されているときのもの(画像:アメリカ海軍)。
一説によると、前出の「フィラデルフィア実験」なるものは、敵がレーダーを使っても捉えることのできない、今でいうステルス艦を生み出そうというプロジェクトの中で行われた実験だったと言われています。
使用されたのは72隻が建造されたキャノン級護衛駆逐艦の1隻、「エルドリッジ」。実験の方法は明確化されていませんが、このとき「エルドリッジ」は一瞬にして見えなくなり、直線距離で約360km離れたバージニア州のノーフォーク海軍基地へ瞬間移動。そして数分後に再びフィラデルフィアへ戻ってきたというのです。
この360kmという距離は日本に置き換えると東京〜名古屋間に相当します。キャノン級護衛駆逐艦の最大速力は21ノット(約39km/h)。つまりフィラデルフィアからノーフォークまで行こうとすると、単純計算で片道10時間近くかかることになります。しかし、「エルドリッジ」はごく短時間で往復したというのですから解せません。
しかも、この実験に参加した「エルドリッジ」の乗組員たちは、その後、精神的に異常をきたしたり、錯覚や身体の一部が意図せず半透明になったりするなどの後遺症に見舞われたと言われています。
しかし、アメリカ海軍はこの事実を全て封印。機密扱いにして関係者には口外しないよう箝口令を敷き、記録も抹消したとか。ただ、大戦後の1956年にある人物が、某超常現象研究家に事の顛末を記した書簡を送ったことで事件が公になったそうです。
このことにより、世間はアメリカ海軍に実験の詳細を公開するよう迫りますが、海軍は実験自体行っておらず、被害者も存在しないと発表。「フィラデルフィア実験」そのものを認めませんでした。
米海軍は2017年にも公式見解を発表
一見すると、「フィラデルフィア実験」はあまりにも奇想天外な出来事と言えるでしょう。しかし、アメリカ軍が行った極秘実験というところで、様々な憶測を呼び、またオカルト的要素も加味され、今に至るまでまことしやかに伝えられています。
なお、1996年には、海軍リサーチオフィスが改めて公式見解を出しており、そこでは「フィラデルフィア実験」にかんする都市伝説的な内容について、磁気機雷や磁気魚雷への対策としての消磁(鋼製船が自然と帯びる磁気を消す作業)実験や、高周波発電の実験など、実際に行われた実験に対する一部の人々が生んだ妄想が原因ではないかと説明しています。
さらに2017年には追加の情報も発表され、被験艦となった「エルドリッジ」は一度もフィラデルフィアに入港した記録がなく、しかも実験が行われた時期にはニューヨークにいたという詳細まで公表しています。
第2次世界大戦中の1944年に撮影された護衛駆逐艦「エルドリッジ」(画像:アメリカ海軍)。
アメリカ海軍の公式記録によると、護衛駆逐艦「エルドリッジ」は第2次世界大戦中の1943年7月25日にニュージャージー州ニューアークで進水、1か月後の8月27日に就役しています。当初、地中海方面へと向かう輸送船団の護衛に9回従事。その後、太平洋戦域に転属して大戦末期には沖縄方面で行動していたとのこと。
1945年8月に大戦が終結すると、翌年1946年6月17日に退役し、保管中の1951年に再整備されてギリシャ海軍に引き渡され、「レオン」に改名したうえで再就役。1992年に同海軍を除籍されています。
こうして見てみると、実際の「エルドリッジ」は就役からギリシャでの除籍まで約半世紀にわたって使われ続けた「名艦」であったと言えるでしょう。
SF界の巨匠が同時期に3人そろって勤務
ちなみに、「フィラデルフィア実験」にかんする裏話として、同実験が行われたとされた時期に、後にSF界の巨匠と称される3人の作家、『宇宙の戦士』で有名なロバート・A・ハインライン、『ファウンデーションシリーズ』で知られるアイザック・アシモフ、『闇よ落ちるなかれ』を代表作とするL.スプレイグ・ディ・キャンプが、揃ってフィラデルフィア海軍工廠で勤務していたそうです。
作家集団などは、時にエイプリル・フール的ジョークのために結託し、たとえば、架空のことをさも現実に起こったことのように「事実っぽく」口裏合わせ、つじつま合わせをして発表するということもあるとか。
そのため、すでに冒頭で記したとおり「フィラデルフィア実験」そのものはフィクションですが、もしかしたらこのフィクションの裏にも、「事実っぽく」口裏合わせをしてそれらしく世間にリリースするという、一流作家3人が仕組んだ壮大な「仕かけ」があったのかもしれません。