ミニバン=「商用車でしょ」からの脱却? 欧州勢が競争激化 日本の“お家芸車種”へ挑む理由
日本で欧州ミニバンのラインアップが広がり、競争が激化しています。実際に人気も博していますが、元来、欧州でミニバンは「商用車」の延長です。日本のお家芸とも言えるミニバンへ、あえて挑むには、抜き差しならない理由があります。
ステランティスのミニバンは“3兄弟”に
フィアットの新型モデル「ドブロ」が、2023年5月11日より発売となりました。両側スライドドアを持つ箱型のミニバンで、2列シート5人乗りの「ドブロ」と、3列シート7人乗りの「ドブロ・マキシ」があり、価格は399〜429万円。この「ドブロ」は、同じステランティス・グループに属するプジョー「リフター」と、シトロエンの「ベルランゴ」の兄弟車となります。
左からフィアット「ドブロ」、シトロエン「ベルランゴ」、プジョー「リフター」。3兄弟車だ(画像:ステランティス)。
それらのライバルとなるのが、日本で高い人気を得ているルノー「カングー」です。また、同じ5月の16日はメルセデス・ベンツのドイツ本社が、この夏にミニバン「Vクラス」の新型モデル投入を発表しました。当然、この新型「Vクラス」も日本で発売されることでしょう。
これで、輸入車として日本では、フィアット、プジョー、シトロエン、ルノー、メルセデス・ベンツから、両側スライドドアを持つ箱型のミニバンが販売されることになりました。なかなかの充実度と言えます。
こうした輸入車ブランドがミニバンに力を入れるのは、やはり日本や中国、アセアンでの拡販を狙っているのが理由と言えるでしょう。
なぜなら、日本をはじめとしたアジア地域では、ミニバンの人気が高いからです。日本では、新車販売ランキング上位10位のうち、半数にあたる5モデル(「ルーミー」「シエンタ」「フリード」「ノア」「ヴォクシー」・日本自動車販売連合会調べ2022年乗用車ブランド通称名別順位より)が両側スライドドアの箱型のミニバンです。
日本ほどではありませんが、ミニバンは中国やアセアンでも人気が急上昇中。人口が3億人に迫る勢いで増え続けるインドネシアでも、ミニバンは昔からベストセラーという存在です。日本からの並行輸入である「アルファード/ヴェルファイア」が、インドネシアでは、欧州のプレミアムセダン並みの高値で売れていたこともありました。
7〜8年ほど前にインドネシアを取材したときは、高級デパートに日本から並行輸入された「アルファード/ヴェルファイア」が出入りしていることに驚きました。その後は正規販売されています。レクサスがその高級ラインにあたる新型ミニバン「LM」を投入しているのも、そうした人気を見込んでのものだったのです。
日本車の“聖域”に切り込め!
特に欧州メーカーは、日本メーカーと違ってアメリカ市場で苦戦しています。それだけ、中国やアジア市場は重要です。そこでミニバンが熱いというのであれば、力を入れるのは当然のこと。今回のメルセデス・ベンツの新型「Vクラス」の予告も、そうしたアジア重視の姿勢の表れでしょう。
とはいえ、欧米では、いまだにミニバンは「商用車」という意識が強いようです。実際のところ、「ドブロ」をはじめとするステランティスの3兄弟ミニバンも、ルノー「カングー」も、メルセデス・ベンツ「Vクラス」もすべてが商用車をベースとしています。
一方で、日本の場合は、ミニバンであっても商用車と乗用車は、まったく別のものとなっています。そのため、日本の乗用車のミニバンは、床が非常に薄く、そして低くなっているのが特徴です。その結果、日本の乗用ミニバンは、圧倒的な乗り降りしやすさを手に入れました。
また、シートをきれいに畳んで収納する、細かなカラクリは、日本のお家芸。この乗用車専用プラットフォームと、多彩なシートアレンジは、日本のミニバンならではの強力な優位性となります。この優位性を生かして、日本やアジア地域で高い人気を得ているというのが日本のミニバンの現状です。
ルノー新型「カングー」。日本向けにわざわざ黒の樹脂バンパー、観音開きリアドア仕様を用意している(画像:ルノー)。
もちろん、欧州勢も日本のミニバンに負けてはいられません。欧州ブランドならではの秀逸なデザインや優れた高速走行性能、そしてプレミアム感は、欧州ミニバンの魅力となります。ステランティスの3兄弟ミニバンや、ルノー「カングー」は、日本車にないデザインが強みとなっています。また、新しい「Vクラス」は、他の乗用モデルと同様にインフォテインメントシステムMBUXの最新版を採用するなど、よりモダンでラグジュアリーなモデルとなるようです。
こうした欧州ミニバンの努力によって、日本やアジア市場で先行する日本製ミニバンを、どれだけ追撃できるのか。新しい「Vクラス」は、どれだけ魅力を高めているのか。その出来に注目です。