東京圏1都3県のJR東日本駅における乗車人数は、この30年間でどのように変化したでしょうか。今回は1989年度と2021年度を比較。特に大幅増加した駅は、周辺の街づくり効果が絶大な影響を与えていました。

順位を落とした渋谷駅、なぜ?

 駅の利用者数は日々変化しています。特に数十年単位で見ると、大きく増加した駅、減少した駅が顕著になります。増減の要因としては、新路線が開通してそのターミナルになったケースのほか、駅付近にニュータウンができたり、大規模再開発が行われたりするケースも挙げられます。
 
 今回は、都内とその周辺(神奈川、埼玉、千葉の各県内)のJR東日本の駅について、約30年前の1989年度と2021年度とを比較して、乗車人数(1日平均)の順位の変動を見ていくことにします。


首都圏の電車(画像:写真AC)。

 この30年間、1位であり続けているのが新宿駅です。さらにいえば1966(昭和41)年度以来1位です。ちなみに前年、1965(昭和40)年度の1位は池袋駅でした。

 近年のベスト5を見ると、3位以下が波乱含みで、「横浜駅と品川駅の躍進」「渋谷駅の下降」と、この3駅が目を引きます。

 横浜駅は1989年度の5位から3位にアップ。品川駅は9位から6位(2016〜2019年度は5位)にアップしました。品川駅に関していえば、1990年代前半まで貨物ヤードだった港南口(東口)一帯が超高層ビル街として再開発されたこと、2003(平成15)年に東海道新幹線の駅が開業したことなどが要因でしょう。

 一方、渋谷駅は2013(平成25)年3月の東急東横線と地下鉄副都心線の直通運転開始により、乗り換え客が他駅にシフトしたことで、3位から5位へと転落(2016〜2019年度は6位)してしまいました。

 このほか大幅に順位を上げた駅として、22位から11位へアップの秋葉原駅、29位から13位へアップの立川駅などが目立ちます。

大規模再開発で躍進した大崎駅

 そうしたなか、94位から20位へと驚異的にランクアップした駅があります。1989年度の3万6091人から2021年度には10万3733人へと増加した駅です。

 それは山手線の大崎駅。さらにいえば、コロナ禍前の2019年度の乗車人数は17万7095人にまで達していました。1989年度に比べて約14万1000人も増えたわけです。この要因は何でしょうか。


山手線の大崎駅。駅周辺は大崎副都心とも呼ばれる(2023年5月、内田宗治撮影)。

 駅周辺の30年を見てみます。1980年代の西口には、駅前に明電舎の工場が立地していました。明電舎は、いわゆる重電8社に名を連ねる大企業です。1913(大正2)年に大崎工場を開設しています。筆者(内田宗治:フリーライター)は1980年代前半まで近くに住んでいたので、大崎駅構内から明電舎工場へと貨車の引き込み線が敷かれていたのを印象深く覚えています。ただ、西口には商店街のようなものはなく、工場の脇の道を抜けると住宅地が広がるといった環境でした。

 現在は明電舎工場の跡地に、2007(平成19)年に竣工したThink Park Towerをはじめ、NBF大崎ビル(旧称ソニーシティ大崎)など高層ビルが林立し、かつての光景からは想像もつかない変貌を遂げています。1980年代当時から地元でも、「便利な山手線駅前に工場が広がっているなんてもったいない」とよくいわれていましたが、そうした不合理が解消された形です。

 前後しますが、2002(平成14)年には東京臨海高速鉄道りんかい線の天王洲アイル〜大崎間が開業し、臨海地区と渋谷・新宿方面が乗り換えなしで行けるように。通勤に便利な地としてタワーマンションの建設が進んだことも、乗車人数の増大に拍車をかけました。

京葉線には大躍進駅が2つも

 ところで、大崎駅を上回る上昇幅でランクアップした駅があります。157位から76位へと、上げた順位数ではトップに。それは東京ディズニーリゾートの最寄り駅、京葉線の舞浜駅です。

 同園のオープンは1983(昭和58)年。舞浜駅はその5年後に開業していますが、京葉線の東京〜新木場間の開業が1990(平成2)年なので、1989年の時点では東京駅からは直接行けず、都心からは地下鉄有楽町線と京葉線を乗り継ぐ必要がありました。

 舞浜駅の乗車人数と東京ディズニーランド(2019年度以降のデータはディズニーシーなども含む)入園者の年間数字を見てみましょう。

・1989年度:舞浜駅716万人、入園者1475万人
・2019年度:舞浜駅2877万人、入園者2901万人
・2021年度:舞浜駅1709万人、入園者1205万人

 このデータから、舞浜駅を利用して東京ディズニーランドなどへ出かけた人が増えたこと、また入園目的以外、すなわち付近の宅地開発や浦安鉄鋼団地の整備などにより、通勤などで舞浜駅利用者が増えたことがうかがえます。


JR舞浜駅(2021年4月、乗りものニュース編集部撮影)。

 このほか順位を上げた駅ランキングを見ると、京葉線、武蔵野線、横浜線といった都心部からかなり離れた駅が並んでいるのが特徴的です。いずれも1990年代以降にニュータウンや駅前大規模開発などが行われた最寄り駅です。

 また番外として、京葉線の海浜幕張駅を挙げておきます。1989年度の7150人(200位以下)から4万3896人(84位)へと激増した駅です。6倍以上に増加しており、その倍率はトップクラス。1990年代以降に開発が進んだ幕張新都心の玄関口で、幕張メッセや千葉マリンスタジアムの最寄り駅でもあります。

 このように、利用数の変化により、街の特徴の変遷が分かるケースが多くあります。