陸上自衛隊が毎年開催している「富士総合火力演習(総火演)」。初めて顔を見せる新装備がある一方、最後の参加になるものもあります。2023年は74式戦車でした。改めてどんな戦車だったのか振り返ります。

一般公開での実弾射撃は最後となった74式戦車

 静岡県にある東富士演習場において2023年5月27日(土)、「令和5年度富士総合火力演習」が開催されました。通称「総火演」とも呼ばれるこのイベントは、年に1回行われる陸上自衛隊最大の実弾射撃演習で、全国の部隊を集め盛大に実施されます。

 コロナ禍前までは、広報を目的に広く一般公開していましたが、自衛隊の活動範囲が広がるなか、防衛省・陸上自衛隊は部隊の人的資源を本来の目的である教育訓練に注力するため、今後の総火演は一般公開せずオンラインでのライブ配信に限定すると発表。今回はそれを踏まえたものとなっていました。


令和5年度富士総合火力演習で前方の目標に向けて射撃する74式戦車(武若雅哉撮影)。

 今年の総火演には多用途ヘリコプターUH-2が初登場するなどしましたが、筆者(武若雅哉:軍事フォトライター)が感じた一番の見どころは、一般公開最後となった陸上自衛隊3世代戦車の最後の共演でしょう。

 陸上自衛隊が2023年現在、現役として運用している戦車は「74式戦車」「90式戦車」「10式戦車」の3車種です。しかし、この中で“最年長者”といえる74式戦車が、制式化からちょうど50年の節目の年である2024年3月(2023年度末)をもって、全車退役する予定です。

 現時点で74式戦車を実戦配備している部隊は、北から第9戦車大隊(岩手県)、第10戦車大隊(滋賀県)、第13戦車中隊(岡山県)の3個部隊のみとなっています。これらの部隊が今年度末に一斉解散することから、それと同時に教育部隊である機甲教導連隊(静岡県)、武器学校(茨城県)の2個部隊/機関が保有する74式戦車も姿を消すことになります。

 74式戦車はトータルで873両が製造され、北は北海道から南は九州・大分まで配備されました。90式戦車が教育部隊を除くとほぼ北海道にしか配備されず、10式戦車も北海道の一部部隊と九州の部隊にしか配備されていないのに比べ、74式戦車は陸上自衛隊が編成していたほぼすべての戦車部隊で運用されています。言うなれば、全国の戦車部隊にくまなく配備された最後の戦車とも形容できるでしょう。

総火演ではお馴染みの稜線射撃も

 74式戦車は、90式戦車や10式戦車のように自動装てん装置を搭載しておらず、砲弾の装填は人力。しかも、コンピューター制御の部分が多くなく、機械制御と乗員の手によるアナログ制御がほとんどであるがゆえに、この2車と比べ整備性が良く、故障しても現場で修理しやすいというハナシも聞きます。

 加えて、陸上自衛隊の戦車乗りのなかで、初めて操縦した戦車が74式戦車であるという隊員が、いまだかなりの割合を占めているため、そういった面からも愛着ある隊員は多いといえるでしょう。


74式戦車の事実上の後継装備として大量調達が進められている16式機動戦闘車。両車の共演も今年が最後となった(武若雅哉撮影)。

 また、油気圧サスペンションで車体を前後左右に傾斜させられる機構は、駐屯地記念行事など各種イベントで披露すると、民間人に比較的好評を博すものでもあります。

 実際、今回の総火演でも74式戦車はこの油気圧サスペンションによる姿勢制御で、傾斜地から砲塔だけを敵方に出して射撃する「稜線射撃」という戦術を実施していました。

 射撃したのは後段演習のみでしたが、第10戦車大隊所属の74式戦車4両が、89式装甲戦闘車や16式機動戦闘車らとともにチームを組んで、90式戦車や10式戦車の進撃を火力支援するという状況が披露されました。

 74式戦車が総火演に姿を見せるのは今回がラストですが、2024年3月までは現役であり続けるます。つまり、動く姿、空砲を撃つ姿はそれまで見ることができるので、もし近くに陸上自衛隊の駐屯地があるなら、記念行事に出かけてみてください。ひょっとしたら、肉眼で動く74式戦車を見ることができるかもしれません。

 総火演が終わったとはいえ、74式戦車の勇姿を見るチャンスはまだあります。今のうちに、その元気な姿を目に焼き付けましょう。