いよいよ始まります!

「電気運搬船」で「海上送電」

 ベンチャー企業のパワーX(東京都港区)は2023年5月25日、コンテナ型の巨大な蓄電池を海上運搬する“電気運搬船”初号船の詳細設計を、愛媛で開催中の海事展「バリシップ」にて発表しました。2025年の完成を目指し、同社が本格的に「電気運搬事業」へ乗り出します。


パワーXがかねて発表していた電気運搬船「パワーアーク100」のコンセプトイメージ。今回、詳細設計が発表された(画像:Power X)。

 パワーエックスは、ZOZOの取締役兼COOを退任した伊藤正裕さんが2021年に設立した会社です。すでに岡山県で大型の蓄電池工場を建設していますが、かねて、コンテナ型の蓄電池を運ぶ電気運搬船「パワーアーク」シリーズのコンセプトを発表していました。

 今回、詳細設計が発表された初号船「X(船名)」は、船長140mで、船に搭載される96個のコンテナ型船舶用電池は合計241MWhもの容量になるといいます。これらに洋上風力や太陽光といった自然エネルギーによる電気をため込み、需要地まで運搬することを計画しています。

 同社によると、たとえば北海道には約930ギガワットという膨大な再生可能エネルギーのポテンシャルがあるものの、当地の電力需要が少なく、北海道から本州への送電能力が不足しているため、余剰の電力をどう活用するかが課題になっているといいます。2021年時点の北海道で利用されている再生可能エネルギーは4.8ギガワット、2050年には61.7ギガワットにまで増えると予測されても、その頃には北海道から本州への送電能力が7.2ギガワットまでしか増えない見込みだそうです。

 巨大なモバイルバッテリーともいえる舶用電池での「電気運搬」により、海底ケーブルにまつわる課題も解決し、これまでケーブルの敷設が困難だった地域でも風力発電所の設置などが可能になるといいます。

 蓄電池は安全性にリン酸鉄リチウムイオン (LFP)電池セルを使用し、6000サイクル以上の長寿命を実現するとのこと。今回の初号船は、そのコンテナ型蓄電池を100個運べる「パワーアーク100」という種類ですが、将来的にはパワーアーク1000、それ以上のサイズの船を作ることもできるといいます。

 パワーXは今後、2023年第3四半期中に電気運搬船を活用した海上送電事業を推進するための新会社「海上パワーグリッド株式会社(Ocean Power Grid Inc.)」を設立するとのこと。また今回、九州電力と横浜市港湾局と連携し、再生可能エネルギーを電気運搬船を用いて送電する実証実験について共同で検討するため、それぞれ覚書と連携協定書を締結したということです。2026年より、国内外で実証実験を予定しているといいます。