DeNAのトレバー・バウアー【写真:荒川祐史】

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目を引いた投球術…バウアーの初登板は「さすがの一言」

 声出し応援が解禁されてから初めて迎えた大型連休は、後半こそ雨天順延となる試合もあったが、各球場とも大盛況となった。その中でも横浜スタジアム史上最多観客数を更新するほどの注目を集めたのが、3日広島戦が舞台となったDeNAトレバー・バウアー投手の来日初登板だった。

 レッズ時代の2020年にサイ・ヤング賞を受賞した右腕は今季、DeNAと電撃契約を交わして来日。親日家でもある32歳右腕は、レッズ時代の同僚マット・デビッドソンにソロ弾を許したが、7回7安打9奪三振1失点で来日初登板初勝利を手に入れた。

 メジャー通算83勝を誇るバウアーの投球に「1年ブランクがあるのに、さすが。頭がいい投手。ここからどこまで状態が上がるのか楽しみ」と話すのは、メジャーでも活躍した野球評論家の井口資仁氏。9日巨人戦で予定される2度目の先発の前に、その凄さについて分析した。

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 3日広島戦での投球は、さすが、の一言でした。これまでもメジャーから鳴り物入りで日本へやってきた投手は数多くいますが、真っ直ぐが速い、変化球が凄い、と言われながらも、どこかに脆さがありました。が、初登板を見る限り、試合の途中で瞬時に投球内容を切り替えたり、ギアを上げて剛速球を投げたり、色々な投球術を持った投手。やはり間違いなく、サイ・ヤング賞を獲るだけの理由はあります。

 何が彼を別格な存在にするのか。まずは、基本となるコントロールの良さが違う。スピードが速い投手、持ち球が多い投手は数あれど、さらにコントロールを兼ね揃えた投手となるとなかなかいません。広島戦では序盤、真っ直ぐ系を軸としながら途中からは変化球を多投。7回には2死二、三塁のピンチを迎えながら、松山(竜平)を相手に思い通りに制球し、完璧に抑えてみせました。このあたりが超一流たる所以でしょう。

バウアーの投球は「ダルビッシュと重なる部分がありますね」

 自身のYouTubeでも積極的に発信していますが、投球に関してかなり研究熱心なタイプのようです。広島戦はレッズ時代の同僚だった秋山(翔吾)やデビッドソンこそいましたが、ほとんどが初対戦の打者。その中でも、打たれたら次の打席は攻め方を変えるなど、自分で考えながら試合を組み立てられる投手。それを楽しんでいるようにも見えました。多彩な投球術も含め、どこかダルビッシュ(有)と重なる部分がありますね。

 捕手を務めた伊藤(光)のサインに対し、首を振る場面が多く見られましたが、これは日米球界の違いも大きく関係しているでしょう。日本では捕手主導でサインを出すことが大半ですが、メジャーでは投手主導。そこはかつてマリナーズでプレーした城島(健司)が苦労した部分でもあります。メジャーでは自分の成績の責任は自分で負うものという考え方が強く、投手は自分の投げたい球、納得のいく球で勝負したい。組んで日も浅いので、これから首を振る回数も減っていくでしょう。

 バウアー自身は「中3日でも中4日でも投げる」と言っているようですが、1年間のブランクがあることを考えると現実的ではありません。体力面も考慮して、中5日、中6日での起用になるはずです。現在首位に立つDeNAが目指すのはリーグ優勝であり、日本一。となれば、最後までローテを守ってくれる方が大事ですから、無理をさせることはないでしょう。基本的に調整は本人任せでしょうが、メジャーで実績のある斎藤隆コーチの存在も心強いはず。バウアー自身、色々と話がしやすい環境が整っているようです。

 かつてはキャリア最晩年のメジャー選手が日本でプレーすることが主流でしたが、近年は状況が変わり、若い選手が日本での活躍を足掛かりにメジャーへ“逆輸入”される機会を狙っています。メジャー復帰後に活躍した元広島のコルビー・ルイス、元巨人のマイルズ・マイコラスらの存在は大きいですが、何よりもWBC優勝などを通じて、日本野球のレベルの高さを世界が認めている証拠でもあると思います。

バウアーや鷹オスナは日本の選手にとって「最高の手本」

 ロッテの監督だった昨季、2019年にアストロズでセーブ王となったロベルト・オスナ(現ソフトバンク)が加入しました。メジャー155セーブの実績を持った現役バリバリの投手。でも、彼は決しておごることなく、常に日本の野球に対してリスペクトを示してくれました。

 自分で考えながら練習・調整を進めることはもちろんですが、彼ほどチームの輪を強く意識する選手を見たことはありません。チームの練習メニューを全てこなした後で自分の練習をし、野手が打撃練習中は外野をひたすら走ったり球拾いをしたり。外国人選手は特別扱いされがちですが、飛行機での移動も全てチームと同じ便に乗り、みんなと同じチームスーツを着ていました。

 起用に関しても「チームが勝つためにいるのだから、連投であれ、どの場面で何イニング投げるかであれ、全部ボス(=監督)の決定に従う」と話し、空き時間には自らコミュニケーションをとって、若手選手と一緒にビデオを見ながらクセの直し方を教えたり、練習方法や考え方についても教えてくれたので、我々は非常に助かりました。

 やはり、日本のレベルの高さが認められているからこそ、バウアーやオスナは韓国や台湾ではなく、日本でプレーしている。サイ・ヤング賞投手やセーブ王のプレーを間近で見られているのだから、投手も打者も日本の選手たちはそこから学び、吸収しなければいけない。彼らが野球と向き合う姿勢は本当に真摯なので、一緒にやっている選手たちは「こういう選手だから素晴らしい成績を残せているんだ」と体感していると思います。彼らは「いい手本」ではなく「最高の手本」ですから。

 バウアーは次回、9日巨人戦での先発が予定されているようです。今度はどんな投球術を見せてくれるのか、楽しみにしておきましょう。(佐藤直子 / Naoko Sato)