世界国別対抗戦ペアSP後に笑顔を見せる三浦璃来と木原龍一

●経験が安定感を生み出す

 長かったシーズンの最後の戦い、世界国別対抗戦。そのフリーのミスを3連続ジャンプのみに抑えて滑りきった三浦璃来と木原龍一(木下グループ)はともに、安堵した表情を浮かべて視線を交わした。

 3月下旬の世界選手権で自己最高得点の222.16点で初優勝をしてから中2週の大会。他の多くの出場選手たちと同様、11日間10公演というハードなアイスショーに出演したふたりの、大会への準備不足は明らかだった。

 それでも、4月14日のショートプログラム(SP)は安定した力を見せた。最初のトリプルツイストは余裕のある演技でレベル3にして全ペア中最高の1.87点の加点をもらった。

 次の3回転トーループは着氷が少し乱れて加点は0.30点と伸びなかった。そのあとはスロー3回転ルッツを確実に決め、リフトやスピンなどの要素はすべてレベル4と実力を見せた。

 ともに笑顔でガッツポーズもしたふたりは、演技構成点もすべて9点台にして世界選手権の得点に0.25点だけおよばない80.47点とした。

 次に滑った世界選手権2位のアレクサ・クニエリム/ブランドン・フレイジャー組(アメリカ)がノーミスの滑りで自己ベストを大きく更新する82.25点を出し、三浦と木原はSP2位という結果だったが、木原は笑顔でこう話した。

「世界選手権のあとは難しい期間が続いていた。あまり調整ができないなかでしっかりノーミスの演技ができて、80点台を出せたことはよかったです」

 安定感の理由を「経験」だと木原は語る。

「今シーズンは(三浦)璃来ちゃんのケガから始まってしまい、シーズンインも遅くて練習時間もなかなかとれなかった。少ない時間のなかでもしっかり調整をして、というシーズンでした。

 それがあったから世界選手権のあとも準備期間が短かいなかうまく合わせられたのかなと思います」

 三浦は滑り納めとなったSP『You'll Never Walk Alone』についてこう話す。

「ショートはずっと練習をしていたけど、私がケガをしてからは(木原)龍一君がひとりで滑っているのをずっと見ていて、私がいられない悔しさをすごく感じていました。

 そのあとに一緒に滑るようになってから、うれしい気持ちがいっぱい生まれてきたプログラムです」

●シーズン締めで自己ベスト更新

 4月15日のフリー。アイスダンスと女子が終了した前日の時点では、日本チームの得点は韓国と並ぶ75点ながら、女子の1位が2回の韓国が2位、日本が3位という状況で迎えた。

 三浦と木原には、ペアで得点差をつけて最後の男子に託さなければいけないという役割もあった。

 木原は大会前、スケートのエッジが少し欠けていたが「研磨をするとリフトの感覚が変わるから」とそのままにした。

 だが、SPの時も木原は「世界選手権とは違って体の動きも変わっていたので、パフォーマンスに集中しなければいけないと思いながらもエッジのほうに気を遣ってしまった」と話していた。

 フリーはエッジの影響が出たのか、最初のトリプルツイストは少しキレのない動きになり、レベル3にはしたが加点は1.60点と少し下げるスタートになってしまった。

 3回転トーループ+2回転トーループ+ダブルアクセルを予定していたジャンプでは、三浦が最初のジャンプで2回転になってステップアウト。ダブルアクセルは跳んだが、認定されたのは最初の2回転のみで、0.63点減点されるミスとなった。

 三浦は「体の調子は悪くなかったので、タイミングのズレかなと思います」と振り返ったが、そのミスで気持ちを切らすことはなかった。

「世界選手権では3回転サルコウのパンクも、スロー3回転ループの転倒も気持ちが負けていた。その負けていた自分に今回は負けたくなかったので、絶対に跳ばなきゃと思っていました。それでいい感じに気持ちを切り替えられたと思います」

 次のリフトから立て直すと3回転サルコウも1.29点の加点のジャンプに。そのあとの要素も確実にこなし、終盤のスロー3回転ループもGOE(出来ばえ)評価でプラス3〜5が並んだ。そして、最後のリフトもレベル4にして演技を締め、安堵の表情を見せた。

 減点はトーループのミスだけという演技で、結果は世界選手権で出していた自己ベストを2.25点上回る143.69点だった。

 その得点について木原は、「3連続ジャンプが抜けた時点で、GOEのマイナス評価も含めて10点くらいの減点になると思っていたので、140点には届かないだろうなと思っていました。

 それでもシーズンベストを更新できたのは、今シーズン頑張ってきたトータルな評価だったのかなと思います」と評価する。

 国別対抗戦はもともと高得点が出る傾向のある大会だが、SPとフリーの合計は224.16点で自己最高を更新するもの。練習時間がほとんどとれなかったなかで十分に納得できる結果だった。

●まだまだ挑戦者

 だが最後に滑ったクニエリム/フレイジャー組も、3回転サルコウの転倒がありながらもさすがの滑りを見せた。

 昨年の世界選手権優勝時に出していた自己最高記録を3.66点更新する147.87点を出して三浦と木原を上回り、合計は世界歴代5位の230.12点。

 彼らも三浦と木原と同じように世界選手権後はスターズオンアイスに出演していたが、そのなかでの自己最高得点更新は、長い間競技を続けている彼らの経験値の高さを見せる結果であった。

 そんなライバルの存在をしっかり意識しているのか、木原は「自分たちはまだ世界チャンピオンだと思ってはいないんです」とも口にしていた。

「自分たちよりレベルが上のペアはいるので、まだ世界チャンピオンになれたという実感はないですね。今回もアメリカのペアがすごかったので、自分たちはまだまだだなという気持ちがすごく強くて。

『世界チャンピオンだから大丈夫だ』という自信はなかったけど、場数をこなしてきているので緊張感のコントロールの仕方はふたりともものすごく上手にできたかと思います」

 今シーズン、ロシア勢や中国のトップペアが参戦していなかったことも考えての発言だ。三浦と木原はシーズンオフに、昨季のケガで中断していた難度の高いリフトの習得を目指していく。

 三原は「やっぱり第3者から見るとスケーティングもあれっと思うくらいに合っていないところもあると思うので、そういうところも徹底的にやっていければと思います」と話す。

 木原が「今季はフリーで145点というのをひとつの目標にしてきたけど、今回は自己ベストを更新できたので、150点という新たな目標が現実的になってきました」と言う。

 グランプリシリーズ初戦から世界選手権まで5戦5勝と突っ走ってきたふたり。最後の大会でクニエリム/フレイジャーに強さを見せつけられたことで、来季はまた"挑戦者"の意識を持って臨む。

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