東急田園都市線の宮前平駅は、電鉄が開発した丘陵地帯の中にあり、周辺はアップダウンの激しい地形です。しかし駅名には「平」とあります。一見矛盾するようですが、なぜでしょうか。

かつての宮前村に属する

 東急田園都市線の宮前平駅は、神奈川県川崎市北部の宮前区に所在します。沿線一帯は丘陵地帯であり、宅地化は進んでいるものの起伏に富んだ地形です。
 
 駅は矢上川が流れる谷に位置し、北側・南側とも急坂です。プラットホームを見ても分かる通り、大部分は高架駅の様相ですが、渋谷方の北側は掘割になっています。たかが200mのあいだに、地形の変化を感じ取れるのです。このように全く平らではないのに、なぜ駅名は「宮前平」なのでしょうか。


宮前平駅を発車する東京メトロ半蔵門線の電車。駅は高架だが、南側から見ると築堤の上、北側から見るとは掘割の中を行くような格好だ。そして撮影場所の道路も矢上川へ向かって落ち込んでいる(2023年4月、大藤碩哉撮影)。

 駅名の由来を調べようと所在地の地名を確認したところ、ここは駅名が先でした。1966(昭和41)年4月に宮前平駅が開業し、その6年後に宮前平という住所が誕生しています。なお当時は高津区でした。

 では駅名はどう付いたのか――宮前区によれば「宮前+平」だそう。かつて置かれていた「宮前(みやさき)」村の区域に属し、かつ駅北側にあった字名が「大平(おおだいら)」だったことから、宮前平となりました。

なぜ電鉄は「平」を付けたかったのか

 大平は、現在の宮前平2丁目の一部に該当します。駅から見ると北側に位置し、先述の通り急坂です。なぜ“平”なのでしょうか。

『地名用語語源辞典』によると、地名の「平」は「なだらかな平地」「山頂または中腹の平らな場所」を指す言葉だとあり、テーブルのような“一面真っ平らな地形”だけではありません。例えば長野県上田市の菅平も、山の中に盆地が形成されています。


宮前平駅前から北西に上がる富士見坂。長く急で、登り切った先にかつての字名「大平」があった(2023年4月、大藤碩哉撮影)。

 大平も、矢上川の谷から登っていくと頂付近から平地が広がりますが、ここに現在、区役所や市民館、消防署などが集積しています。ちなみに「大」は接頭語で、「(山を登り眼前が)大きく開けた」からとされます。

 そして、宮前平が電鉄由来の地名であることも見逃せません。不動産開発と一体で街を形成していった私鉄にとって、その場所のイメージ向上は重要なポイントです。駅名には「谷」や「窪」よりも「台」や「丘」を付けたがりました。「平」も「台」に通ずることから、イメージ戦略としては理にかないます。

 ちなみに宮前平駅の隣、ひとつ渋谷寄りは宮崎台駅です。