鉄道ファンを驚かせた、他社の中古車両を導入するという西武鉄道の発表。果たしてどこの会社の車両が西武鉄道に“輿入れ”するのか、車両の特性や寿命、各社の方針などを勘案し、予想してみました。

大手私鉄が他社から車両を購入?

 西武鉄道が2023年3月期以降、他社から車両を譲り受けるかもしれません。というのも2022年5月12日に発表した「中期経営計画における取組の進捗状況」の中に、新造車両に限らず、「環境負荷の少ない『サステナ車両の導入』を進め、省エネ化、固定費削減を前倒しで実現」との記載があるからです。


西武鉄道はどこの車両を譲り受けるのか(画像:写真AC)。

 同社は「サステナ車両」を「無塗装車体、VVVFインバーター制御車両等の他社からの譲受車両」と定義しています。大手私鉄の西武鉄道が他社からの中古車を導入するという発表は、鉄道ファンを中心に大きな話題を呼びましたが、いよいよその導入時期が近づいてきました。

 西武鉄道は戦後、旧401系電車や貨物用の電気機関車、西武山口線の蒸気機関車といった例を除き、原則として自社で車両を発注・新造してきたので、他社からの車両導入は同社の大きな方針転換といえるでしょう。鉄道ファンとしては、いったいどの車両が譲渡されるのかが気になります。今回は候補となりそうな車両を、その根拠とともに推測してみます。

他社から車両を購入するには

 西武鉄道は環境負荷の少ない車両を導入するとしているので、車体は塗装が不要なステンレスもしくはアルミの可能性が高そうです。省エネも考慮すると、省電力で走行できるVVVFインバーター制御の車両も候補に挙がり、旧来の塗装や制御方法を採用している2000系電車や4000系電車などを置き換えると考えられます。

 それ以外にも、他社からの譲渡を受ける場合は、「まとまった数を譲受できること」「廃車と譲渡の時期が一致すること」「自社線内を走行可能な大きさ・仕様であること」の3点も考慮に入れなくてはならないでしょう。

まとまった数を譲受できること


西武鉄道が貨物輸送を行っていた頃の電気機関車は、他社からの譲渡車両が多数運用されていた(2009年10月、児山 計撮影)。

 車両を他社から譲受する際に、自社で必要な車両数を確保できるかは重要です。例えば想定した運用に30両が必要な場合、形式Aを20両、形式Bを10両という形で譲り受けてしまうと、仕様の違いから保守部品が余計に必要となるほか、乗務員が機器の異なる車両を運転しなくてはならないなど、トータルコストがかかります。

廃車と譲渡の時期が一致すること

 各鉄道会社は事業計画に沿って車両の新造・廃車の方針を立てます。A社が新車を導入して旧来の20両を置き換える場合、譲受先のB社が30両必要だとしてもA社は21両以上の譲渡は当然できません。この場合B社は来年度以降のA社の事業計画を視野に入れ、導入計画を立てなくてはなりません。

自社線内を走行可能な大きさ・仕様であること

 鉄道車両はどれも似たような大きさに見えて、実は微妙に異なります。全長であれば短いものなら16m級の東京メトロ1000系電車(銀座線)、長いものなら近鉄や南海の通勤電車で20.7mという車両が存在します。

 また車体の最大幅も、例えば東急5000系電車(田園都市線など)であれば2800mm、E233系電車(JR東海道線など)であれば2950mmなどとなっており、当然ながら車体幅の広い車両は狭い幅の鉄道会社では運用できません。

 また、最近では車両ドアの位置もホームドアの設置により制約を受けます。同じ全長20m、片側4ドアの車両であれ、JR東日本のE233系と西武鉄道の30000系電車ではドア位置が異なります。こういった点も考慮しなくてはならないでしょう。

 以上の観点から、西武鉄道が導入し得る車両は具体的に何があるでしょうか。

「サステナ車両」となりうる車両3選+α

都営6300形電車

 都営三田線に1993(平成5)年から導入された車両です。6300形は製造時期に分けて走行装置が大きく3種類に分けられますが、2023年現在も残っているのはその中で3次型と呼ばれる車両。これらは機器類も比較的新しく、編成数も24編成とまとまった数があります。


都営6300形は車両数こそ多いものの、6500形の新造計画は現時点で未定なので、2023年度の譲渡は難しいか(2010年12月、児山 計撮影)。

 しかし、東京都交通局は現段階で新型6500形電車の追加投入計画を発表しておらず、6300形を今後置き換えるかどうかも未定です。そのため西武鉄道が望む譲渡時期に合わせられないのが懸念材料です。

東京臨海高速鉄道70-000形電車

 りんかい線用の70-000形電車は10両編成が8本あり、2011〜2018年度に機器の更新も完了しています。そして2024年に新型車両の導入が予定されており、譲渡のタイミングはよいといえるでしょう。

 先頭車の数が8編成分しかないのが懸念材料ですが、車体の寸法や性能は問題ないので、西武多摩川線や多摩湖線など、支線用であれば有力な候補となり得ます。

東急9000系電車

 東急電鉄は2022年1月に行った運賃改定申請に合わせて、大井町線へ新型車両を投入すると発表しています。同線には、置き換えの対象となるであろう9000系電車(5両編成)が15本あります。

 車両数は充分、置き換え時期も2023年度以降と西武鉄道の発表する時期に近く、譲受車両としては有力候補といえるでしょう。東急電鉄は東急テクノシステムという車両の改造を行うグループ企業を擁しており、譲渡の際のカスタマイズや機器のアフターサポートなどは充実しています。

 ただし9000系の制御器は初期のVVVFインバーターなので、もし譲渡するとしたら機器の更新は必須となりそうです。

 このほか、西武鉄道は2022年10月にJR東日本と「鉄道技術分野における連携」を発表しています。内容に「新しい技術を導入する際の仕様共通化」「設備導入のスピードアップや開発コストの低減に取り組む」などがあり、仮にJR東日本から西武鉄道に車両を譲渡するのであれば、新型E235系電車に置き換えが進む横須賀線のE217系電車なども候補に挙がるかもしれません。

 設備投資計画は今春中にも発表されるでしょうから、具体的な形式が何なのか、今から楽しみです。