終着駅はかくして「群馬のブラジル」に 東武「西小泉駅」のナゾ 広大な空き地に廃線跡
東武小泉線の終着駅である西小泉駅は、ちょっと特殊です。地方の駅ながら日本語、英語、中国語、韓国語という定番の案内のほかに、ポルトガル語、スペイン語が追加され、6か国語表記なっているのです。
カナリヤ色の駅舎が目を引く
東武伊勢崎線の館林駅から分岐して西へ向かう東武小泉線。この終着駅である西小泉駅は、ちょっと特殊な駅になっています。
西小泉駅。ブラジル国旗の黄色と緑が使われている(斎藤雅道撮影)。
駅の案内を見ればすぐわかるのですが、日本語、英語、中国語、韓国語という定番の案内のほかに、ポルトガル語、スペイン語が追加され、6か国語表記なっています。さらに駅舎の天井などには、カナリヤ色とよばれる派手な黄色が使用されています。
なぜこの色なのか。それは、同駅がある群馬県邑楽郡大泉町が関係しています。
大泉町の人口は2022年時点で約4万1600人ですが、全体の19%にあたる7800人が、ブラジルやペルーを中心とした南米出身の外国人です。その多くは町内にあるスバルやパナソニックの工場で働いています。
なかでも最多を占めるのがブラジル人です。そのため、西小泉駅はブラジルを象徴する色であるカナリヤ色を採用し、ブラジルを代表する鳥「トゥカーノ」をイメージした駅シンボルサインで「日本のブラジル」をアピールしています。
2017年に現在の駅舎ができる以前は、東武のローカル駅としては一般的な、瓦屋根の平屋駅舎でした。東武鉄道によると、町内にブラジル料理店や雑貨店などが多数あることから、南米文化による活性化策を推進するために、こうしたデザインになったそうです。確かに駅を出るとブラジルの郷土料理のお店や雑貨屋のみならず、タトゥースタジオなども存在しており、ちょっとしたブラジル気分が味わえます。
日本のブラジル、もとの姿は
いまでこそ周辺の工場へはクルマ通勤の人が多いようで、2両編成のワンマン列車となっていますが、かつては4両編成でラッシュ時には乗り切れないほどの人が乗車していたとか。
同駅は太平洋戦争直前の1941年12月1日に開業しています。東小泉駅から延びていた貨物線の旅客化で開業し、一式戦闘機「隼」や零戦が搭載した「栄」エンジンで知られる中島飛行機の小泉製作所の玄関口でした。そのため、当時はかなり大きな駅だったそうで、駅正面の広大な空き地に当時をしのぶことができます。こうした駅周辺の中島飛行機の事業所が、現在のパナソニックやスバルの工場となっています。
また、当時は西小泉駅以南も貨物線が続いており、貨物駅である新小泉駅および仙石河岸駅が存在しました。その2駅は1976年に廃止され、線路跡は遊歩道「いずみ緑道」として整備されています。戦時中は、そこから利根川を越え、東武熊谷線(熊谷〜妻沼、1983年廃止)とつながる予定でしたが、利根川架橋は未成に終わっています。
いずみ緑道のベンチで休んでいる人やウォーキングをする人からは、日本語以外にも、ポルトガル語、スペイン語と思われる会話も聞こえました。