高速バス=「追っかけの足」なぜ? バンドやアイドルファンの熱い支持 安さだけでない理由
バンドやアイドルなどのコンサートへ行くため頻繁に遠征する“推し活”に高速バスを利用する人が、高速バス全体のなかで少なくない割合を占めているようです。スポーツ観戦などとも異なる“推し活”ならではの需要が存在します。
タモリ倶楽部で披露された「バンギャ」の驚くべき距離感覚
2023年3月31日に惜しまれつつ終了したテレビ朝日系「タモリ倶楽部」、その3月10日放送回のテーマは「バンギャはつらいよ」でした。バンギャとは“バンドの追っかけギャル”のこと。ヴィジュアル系バンドファンの一般女性数人が出演し、コンサートでファンが頭を激しく振り乱すヘドバン(ヘッドバンキング)に、タモリさんら出演者が挑戦するなどしました。
ウィラーエクスプレス(乗りものニュース編集部)。
バンギャの女性たちは各地のコンサートへ行きまくっているため、「関ヶ原から東は“関東”」「名古屋から仙台はもう“東京”」といった、ちょっとぶっ飛んだ距離感覚も披露され、SNSなどで話題になりましたが、実は、こうしたコンサートなどの頻繁な遠征をともなう“推し活”に、高速バスが使われている側面があります。
「ウィラーエクスプレス」を運行するウィラーが、大阪のタワーレコード梅田NU茶屋町店とコラボ。2023年4月4日よりWILLERバスターミナル大阪梅田にて、タワーレコードの同店舗で展示が終了したアイドルグループのポスターを限定で特別展示したり、グッズを販売したりします。そのプレスリリースにて、ウィラーは“推し活”の高速バス利用を数字で示しました。
「ライブやイベントなどの推し活の遠征に、予約サイト『WILLER TRAVEL』で予約して高速バスを利用する人は年間で約55万人おり、高速バス利用者の約3割を占めています」
しかも、そのうち約半数の方が直近1年間に4回以上利用しており、「年11回以上」という人も約14%を占めるのだとか。“推し活”での高速バス利用者がウィラーにとって、いかに上顧客であるかがわかります
“推し”がいるからこそ高速バス?
なぜ“推し活”で高速バスを利用する人が多いのか、ウィラーは次のように回答しました。
「“推し”のグッズ購入などに費用をかけるため、交通費はできるだけ抑えたいと考える方が多いです。なるべく多くのイベントに参加したいので、交通費を節約しておきたいという方もいらっしゃいます」
「夜行バスの場合、深夜に移動するため、公演の最後まで楽しめます。他の交通手段だと公演時間次第では途中で切り上げて帰らなければいけないこともあります。また早朝に目的地へ到着するので、グッズ購入のために早朝から並びたい人には、メリットとして感じていただいています」
新型コロナの影響で高速バスの利用者数は大きく減少しましたが、コンサートやイベントの制限緩和に伴い、回復しているとのこと。「わかりやすい特徴として、大規模会場でのコンサートのチケット当落結果が発表されると、それに合わせて、高速バスの予約も増える傾向」なのだそうです。
「WILLER TRAVEL」では、目的地からのコンサート会場別アクセス方法や宿泊プランを提示するほか、自社メディア「ウィラコレ」では「遠征民」なるタグを用意。コンサートの“遠征”で役立つ情報の紹介やオタク座談会、メルマガ連動のアンケート企画などを実施しています。「リアルな声を集め、今後も遠征される方の強い味方となるようなワクワクする企画を実施していければと考えております」(ウィラー)とのこと。
なお、このような“遠征民”の多くは女性と考えられることから、ウィラーに限らず高速バスでは、“女性安心”をうたった座席の設定や、到着前後でメイクや着替えができるラウンジの設置など、数々の女性向け施策を打ち出してきています。
高速バス「VIPライナー」利用者専用の「VIPラウンジ」。女性向け施策のひとつ(画像:平成エンタープライズ)。
国の「全国幹線旅客純流動調査」でも、高速バスは航空や鉄道といった他の交通機関と比べても女性の比率が高いという統計がありますが、ウィラーにおいては利用者の7割を女性が占めます。“女性の遠征民”にとって高速バスが強い味方になっている――このような構図が浮かび上がってくるのです。
安さだけじゃない 彼女らが高速バスを選ぶ理由
しかしながら、頻繁に遠征をするのは音楽以外にもあります。なぜ“推し活”女性の遠征に、高速バスが選ばれるのでしょうか。
たとえばサッカーチームのサポーター。試合の応援のため頻繁に遠征するというジュビロ磐田サポーターの30代男性に聞くと、「確かに高速バスも使いますけど、サポーターどうしでクルマを相乗りする人の方が多いんじゃないでしょうか」と話しました。
これに対し、1990年代からヴィジュアル系バンドのライブに足しげく通う40代女性は、まず会場の立地に着目。「街なかのライブハウスにクルマで行くというのは、あまり考えないかな。駐車場代かかるし。もちろん新幹線や飛行機メインで遠征している人もいるけど、空港などから会場へのアクセスを考えると、街なかに下ろしてくれる高速バスはラクだよね」と語ってくれました。
加えて、「そもそもファンどうしで連れ立って遠征する人は、それほど多くないんじゃないかな。集まったとしても現地集合で、会場までは一人で行くほうが多いと思う」とのこと。
大規模コンサートとなれば大都市からバスツアーが組まれることもありますが、ブレイク前のバンドやアイドルのコンサート会場は、もっぱら街なかの小さなライブハウスです。今日も高速バスを利用した遠征民が、コンサートを盛り立てているかもしれません。