偶然宿泊先で出会ったプエルトリコの地元記者エマニュエル・ゴンザレス氏【写真:宮内宏哉】

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決戦の地マイアミで出会ったプエルトリコ記者に直撃

 野球のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)日本代表は20日(日本時間21日)、メキシコとの準決勝に臨む。現地の米マイアミで取材する「THE ANSWER」の記者が、偶然宿泊先で出会ったプエルトリコの地元記者に直撃インタビュー。プエルトリコ野球とWBCへの思いに触れた。

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 日本の準決勝まであと2日に迫った18日(同19日)、マイアミのホテルで朝食のスクランブルエッグを頬張っていると「ヘイ、ジャパニーズメディア?」と声をかけられた。陽気でノリがいい大柄の男性だった。

 プエルトリコの帽子にパーカーでバッチリ決めたこの男性は、同国メディア「ラ・アカデミア・デポルティーバ」のインタビュアー、ライターとして活動するエマニュエル・ゴンザレス氏。「みんな髪を染めているからね!」と、派手な髪色のプエルトリコナインに合わせた銀髪も自慢してくれた。

 日本が準決勝で対戦する可能性もあったプエルトリコメディアの野球観に触れるチャンスと感じ、インタビューを申し出ると「何でも聞いてよ」と快諾してくれた。侍ジャパンの試合を生で見たことはないそうだが「日本の選手は全員、とても規律正しいと聞いています。敬意を持っているよ」と頷いた。

 具体的な選手名は「オオタニ、ダルビッシュ、過去にはイチロー・スズキ。イチローは私にとって史上最高のヒーローさ」「今年からレッドソックスでプレーする選手(吉田正尚)と……あとはカブスの選手(鈴木誠也)……彼は怪我で出場しないんだっけ?」と簡単に名前を挙げた。MLB勢には詳しいようだ。

プエルトリコ代表の根底にある「他国との違い」とは

 中南米らしい明るく陽気な雰囲気も特徴のプエルトリコ代表。その根底にはある「他国との違い」を感じているという。

「とても情熱を持って、笑顔いっぱいにプレーする。ドミニカ共和国の選手も似たようなところがある。国を代表することに誇りを持ちながら、野球を楽しんでいるんだ」

 終始明るかったゴンザレス氏のテンションがちょっと下がったのが、母国の準々決勝の話題。メキシコに4-5で逆転負けし、日本との準決勝に進めなかった。

「辛い敗戦、悲痛な敗戦だったけど、試合後半で非常にいい戦いをしたメキシコ代表を称えなくてはならないね」。敗因の一つに挙げたのが、守護神エドウィン・ディアスの離脱だ。

 15日(同16日)の1次ラウンド最終戦で、優勝候補ドミニカ共和国を下して予選突破。最終回を締めたのがディアスだったが、試合直後にできた歓喜の輪の中で右膝を負傷し、最後は車椅子で退場。お祭りムードが一変、沈痛な空気となった。右脚の膝蓋骨腱断裂で今季全休の見通しであると米メディアに報じられている。

「彼はブルペンの中心人物だった。ディアスの不在が全てを変えてしまったね。彼がいれば戦略も変わっていただろうし、失ったのは本当に、本当に悲しいことだった」

WBCは一大イベント、それでも大会運営に思うこと「その方がフェアだ」

 ディアスの故障後、米記者からは「MLBがWBC参加で恐れていたこと」などとMLBシーズン開幕前の怪我の影響を指摘する声が上がった。

「MLBのチームがそう思うのは当然だと思う。彼らはそのために選手に投資をしているのですから」とゴンザレス氏も同意するが、「しかし、私たちプエルトリコ人からすれば、WBCで島を代表して戦うというのは何よりも大きなこと。大きなエネルギーと情熱を持って戦っているんだ」とも語った。

 なぜ、プエルトリコではWBCが一大イベントなのか。答えはシンプル。「サッカーではFIFAが、バスケットボールではFIBAがワールドカップをやっており、それぞれ一番重要な大会になってる。野球については、それはWBCだよ」。ただ、現時点の大会運営に思うところもあるようだ。

「サッカーはFIFAが、バスケットボールはFIBAが大会を運営しているけれど、WBCを運営しているのはMLB。だから、MLBが第一、WBCは第二、という優先順位になってしまう。WBCは国際的な野球連盟が運営するべきだと、私は思っている」

 1次ラウンドではドミニカ、ベネズエラらと同組に入り「死の組」とも呼ばれた。プエルトリコは2位で勝ち上がったが「(組分けは)均衡がとれていなかったと思う。3国がそれぞれ別のプールに入っていたら、全チームその組を制していたかもしれない。WBCはFIBAのように抽選で決めるべき。そのほうがフェアだから。プエルトリコは火のようなプールに入れられてしまった」とも意見を語っていた。

 いずれにせよ「WBCはもっともっと重要な大会になると思っている」との期待は、多くの日本の野球ファンと同じ。「日本には死ぬまでには行かないとね!」と朝から茶目っ気たっぷりだったゴンザレス氏に長いフライトの疲れを癒してもらうと共に、野球で世界は繋がっているんだと実感したひと時だった。

(THE ANSWER編集部・宮内 宏哉 / Hiroya Miyauchi)