都内の自宅の一室をスタジオとして使い、YouTubeの番組配信をおこなっているピストン西沢(写真・長谷川 新)

 J-WAVEの人気ラジオ番組『GROOVE LINE』が終了して半年になる2023年3月、番組ナビゲーターのピストン西沢が、ラジオの平日帯番組に復帰することが明らかになった。2月10日、自らのYouTubeチャンネル「ピスチャンネル」で発表した。

 新番組のタイトルは未発表だが、月曜から金曜の午後5時〜6時、インターネットラジオ局「Heart FM」で番組を持つという。同局は、3月22日に名古屋で開局する、新しいラジオ局だ。全国のコミュニティFMの番組を配信している「リスラジ(ListenRadio)」のサイトやアプリから、パソコンやスマホで全国、どこからでも無料で聞くことができる。

 Heart FMは、名古屋のラジオ局「ZIP‐FM」のナビゲーターだったジェイムス・ヘイブンスが立ち上げた。彼から連絡を受けたピストンは、「電話とネット会議で話しただけで、まだ会ったことはないんだけど、俺に似てるから一緒にやれるかなと。大変そうだけど面白そうだし、音楽やりたかったし、渡りに舟。夕方の疲れた時間にみんなとバカ話するのが好きですから、5時から6時まで一時間やらせてね、ということで話がつきました」と語った。

 現在、ピストンはYouTube配信をしているが、著作権の関係から音楽をかけることができない。3月からのラジオ番組では音楽を使用し、DJもできることになった。

 ラジオ番組の配信は、都内の自宅1階にあるスタジオからおこなう。現在、ピストンはここで平日の午後4時から、「ピスチャンネル」でライブ番組『ラジTUBE』を配信しているのだ。スタジオは、ガレージの奥にある3畳ほどの小部屋。壁に吸音材が貼られた、手作り感たっぷりのスタジオだ。

「教祖」のように視聴者に向けてポーズを決めるピストン(写真・長谷川 新)

「はい、始まりました、『ラジTUBE』。みなさん、こんばんは。いま、ネット版の『FLASH』が取材に来てます。トラブルを起こさないと『FLASH』には出られないと思ってたんですけど、出られるみたいです。あ、KCが投げ銭1600円くれましたよー!」

『GROOVE LINE』が終了して5カ月、ピストンのトークは健在だった。しゃべりながら、続々と届くメールやチャットを2台のパソコンでチェックし、効果音を入れ、電話をかけ、背景画像を取り替えるなど、飽きさせない。ラジオと違ってスタッフはいないので、すべてひとりでやらなくてはならないが、それがとても楽しそうなのだ。

「僕はラジオディレクター出身なので、全部ひとりでできるんですよ。ラジオをやめて、行き先がないからYouTubeをやってる、と思う人もいるかもしれないけど、僕はタダでは転びません。放送ではできなかったことをやってます。ラジオ以上に面白いこともできるんです」

 そのひとつが、視聴者との距離の近さだ。チャットに書き込んだ5秒後には、ピストンからツッコミが入り、メッセージもどんどん読まれる。ライブ配信の約60分を、みんなで走り抜けるような熱気が生まれている。

「ラジオはSNSの原型みたいなもの。生活の中で、楽しかったり悲しかったりすることを投稿して、番組で読まれて、それをみんなで受けとめて、一緒になって喜んだり、悲しんだりする。距離の近いコミュニケーションが、ラジオではいちばん大事だと思ってるんですよ」

 番組に寄せられるメッセージテーマは「金持ちに教えてあげること」「私に関係のないニュース」などさまざまで、「野球道」「パンイチ家族」など、『GROOVE LINE』で聞き覚えのあるラジオネームが、こちらでも活躍している。日々の濃いやりとりで鍛えられるのか、ネタの質が上がっているそうだ。

「こういうテーマをぶん投げたら、何が返ってくるんだろうというのがおもしろくて。ラジオをやめたときは、もうリスナーとのやり取りもなくなるのかな、と思ってたんだけど、いまは自分の生活の中でも張りになっているというか、やった甲斐がありましたね」

 もうひとつのラジオとの違いは、話す内容の自由度が上がったことだ。スポンサーや放送局に気兼ねなく、商品名や企業名を出せるし、政治経済、音楽業界、自動車業界についても、より突っ込んだ話ができる。「狭かった道幅が広がった」ように感じるという。

3畳程のスタジオにパソコンが2台。映像の設定からリスナーへの電話など、この空間ですべてがおこなわれる

 逆に、ラジオと同じスタイルを続けている部分もある。

「僕がラジオで気をつけていたのは、世の中の情報に疎くならないこと。ラジオは画像を撮ってくる必要のない、速効性のあるメディアだから、誰がどうした、というニュースを1秒でも早く伝えたい。ネットの情報は出どころを明らかにして、未確認情報の場合はそう言います」

 現在のチャンネル登録数は約4.7万。毎日、数百人がライブ配信を視聴する。この日はアンケート「クリネックスとスコッティは舐めたらどっちがうまいか(結果はクリネックス61%、スコッティ38%)」「銀座三越の入口のライオン像にまたがって写真を撮った人いませんか?」などのほか、視聴者に電話をかけて途中でブチっと切るという、ラジオ時代からのお約束の技も見せ、大盛り上がりのうちに終了した。

「ピスチャンネル」では、このライブ配信のほかに『大きいクルマ自慢』『世界初 MY24 新型GT-R NISMOをアクセル全開』など、自動車関係の動画も人気を集めている。さすがにプロの語りは群を抜いて聞きやすく、クルマの解説も分かりやすい。

「そこは、差をつけたいところですよね。僕はしゃべりも運転も、修行してここまで来てますから。お金をたくさん使って、何十年も自動車レースをやって、派手なドリフトのように、見ている人が喜ぶ運転を練習して、運転しながら解説できるようにしてきたんです」

『GROOVE LINE』は終了したものの、J-WAVEでは『Drive to the Future』が現在も放送中だ。また、投資、自動車関連の仕事も多く、相変わらず忙しい。自動車関係のイベントでは、企画書を作成していくつものクライアントにプレゼンし、見積書、実施プラン、報告書、請求書の作成までひとりでこなす。

「それでも自分のやりたいこと、楽しいことを追求していきたいんですよ。かっこいいことをかっこよくやるんじゃなくてね」

 3月にHeart FMのラジオ番組が始まっても、この『ラジTUBE』は続ける。平日午後4時から『ラジTUBE』、5時からラジオという「2階建て」だ。ラジオの配信もひとりでやりたいと話すピストン。半年間、封じられていた「音楽」を手にして、どんなふうに暴れてくれるのか?