●エンスージアストなNUCを解剖してみる

小型ベアボーンとして人気のIntel「NUC」シリーズに、GPUとしてArc A770Mを搭載するゲーマー、クリエイター向けのハイエンドモデル「NUC 12 Enthusiast Kit」(Serpent Canyon)が登場している。容量2.5リットルというコンパクトな本体で、どこまでゲームが楽しめるのか。パーツを組み込むための分解手順も含めて、細かくチェックしていきたい。

ベアボーンの「NUC 12 Enthusiast Kit」。実売価格は248,000円前後

NUC 12 Enthusiast Kitは、メモリ、M.2のSSD、OSを別途自分で用意して組み込む必要がある半完成キット、いわゆる“ベアボーン”と呼ばれるもの。CPUには、Intel第12世代のCore i7-12700Hを搭載。モバイル向けのCPUだが、パフォーマンス重視のPコアを6基、効率重視のEコアを8基を備え、合計14コア20スレッドを実現、TurboBoost時で最大4.7GHzで動作と高いスペックを誇る。

CPU-Zの情報。CPUには14コア20スレッドのCore i7-12700Hを搭載。Pコア6基、Eコア8基という構成だ

注目はGPUだ。Intelが20年以上ぶりに投入したディスクリートGPUとして2022年に大きな話題となった「Arc」シリーズ。リアルな光の反射を実現するレイトレーシングへの対応、機械学習を活用した高性能な描画負荷軽減技術(アップスケーラー)「XeSS」のサポート、高圧縮でも高画質を維持できるAV1コーデック対応のハードウェアエンコーダーを搭載など、さすが最新世代のGPUと言える機能を揃えている。そのArcのモバイル向けでは最上位となる「Arc A770M」を採用。ビデオメモリとしてGDDR6を16GBも搭載とモバイル向けとは思えない大容量なのがポイントと言える。デスクトップ版のArc A770はGeForce RTX 3060を上回る性能を見せており、モバイル版でも多くのゲームを遊べるのではと思うところ。後半では、複数のゲームでフレームレートを測定する。

GPU-Zの情報。Xe Coreは32基、XMXエンジンが512基、メモリバス幅が256bit、ビデオメモリがGDDR6 16GBとこのあたりはデスクトップ版A770と同じ。GPUクロックは1,650MHzとさすがにデスクトップ版の2,100MHzからは下がっている

対応するメモリはDDR4-3200のSODIMMで2枚まで搭載可能(最大32GB×2枚)。ストレージはPCI Express 4.0 x4対応のM.2スロットが2基、PCI Express 3.0 x4とSerial ATA両対応のM.2スロットが1基用意されている。搭載できるストレージはM.2 SSDに限定されるが、3枚搭載できるので大容量の環境も構築しやすい。このあたりはゲーマー向けらしい仕様と言えるだろう。

また、サイズは幅230mm、奥行き180mm、高さ60mmで容量2.5リットルと性能から考えると非常にコンパクトだ(Intel NUCシリーズとしては大きめだが)。

ここからはパーツの組み込み手順を紹介したいが、その前に開封をお目にかけたい。箱もカッコイイからだ。ただ、レビュー用のキットのようで、すでに流通がスタートしている製品版パッケージとは異なるよう。残念なところだ。

これがNUC 12 Enthusiast Kitのパッケージだ。ちょっとSFチックなのがよいところ

上からパッケージを左右に開くと本体がドーンと登場する。製品版はパッケージは普通に四角い箱を採用しているようだ

付属のスタンドで縦置きが可能

横置きも可能だが、縦置きのほうが設置スペースが少なく済み、エアフロー的にもよさそうだ

インタフェースは、正面にUSB 3.2 Gen 2(Type-A)×2、ヘッドセット端子、Thunderbolt 4、SDカードスロットを搭載。背面にはUSB 3.2 Gen 2(Type-A)×4、2.5Gの有線LAN、Thunderbolt 4、3.5mmスピーカー/光デジタルコンボジャック、HDMI出力、DisplayPort出力×2。このほかワイヤレス系としてWi-Fi 6とBluetooth 5.2をサポート。小型ながら充実している。

正面にUSB 3.2 Gen 2(Type-A)×2、ヘッドセット端子、Thunderbolt 4、SDカードスロット

背面にUSB 3.2 Gen 2(Type-A)×4、2.5Gの有線LAN、Thunderbolt 4、3.5mmスピーカー/光デジタルコンボジャック、HDMI出力、DisplayPort出力×2

ここからは実際にパーツを組み込むための手順を紹介していこう。天面のカバーを外すための六角レンチは標準付属しているが、内部へのアクセスには精密ドライバーが必要になる。あらかじめ用意しておきたい。



まずは付属の六角レンチで天面に6箇所ある六角ネジを外して天面のカバーを外す



天面カバーを外しただけでは金属製のカバーがあって内部にアクセスできない。数字が振ってあるネジを精密ドライバーで外す

ネジを外し、LED用のコネクタケーブルを気を付けながら金属製のカバーを外す

これで内部にアクセスが可能だ。試用機にはあらかじめメモリとM.2 SSDが搭載されていた。通常はユーザーが自分で取り付ける

金属製カバーの裏にはM.2 SSD冷却用の熱伝導シートがあらかじめ装着されている

ACアダプタは330Wと大出力ゆえにかなり巨大だ。性能を考えると仕方の無いところだが……

●ベンチソフトと実ゲームで見るArc A770Mの実力

さて、ここからは実際の性能をチェックしていこう。メモリはDDR4-3200の8GB×2枚で合計16GB、SSDはPCI Express 4.0 x4接続の製品を搭載している。OSはWindows 11(22H2)だ。まずは、基本性能ということでオフィス系のアプリやビデオ会議、Webブラウザ、画像や動画編集などさまざまな処理でPCの性能を測定する「PCMark 10」を試そう。

PCMark 10の結果

PCMark 10は、Web会議/Webブラウザ/アプリ起動の“Essentials”で4,100以上、表計算/文書作成の“Productivity”で4,500以上、写真や映像編集“Digital Content Creation”で3,450以上が快適度の目安となっているが、すべて大幅に上回っている。一般的な処理はもちろん、クリエイティブ用途でも使えるだけのパワーがあると言ってよいだろう。

CGレンダリングでCPUパワーをシンプルに測定するCINEBENCH R23も試しておこう。

CINEBENCH R23の結果

マルチコアで17,944、シングルコアで1,748というスコアはモバイル向けCPUとしては非常に高い部類だ。CPUパワーに不足を感じる場面はほとんどないだろう。

また、3D性能を測定する定番ベンチマーク「3DMark」からDirectX 11ベースのFire StrikeとDirectX 12ベースのTime Spy、レイトレーシング向けのPort Royalの結果も掲載しておく。

3DMark−Fire Strikeの結果

3DMark−Time Spyの結果

3DMark−Port Royalの結果

3DMarkの結果だけ見るとデスクトップ版のGeForce RTX 3060以上の性能があると言っても問題ないスコアだ。では実際のゲームはどこまで快適に遊べるのかチェックしていく。まずは人気FPSの「レインボーシックス シージ」と「オーバーウォッチ 2」を試そう。レインボーシックス シージはゲーム内のベンチマーク機能、オーバーウォッチ 2はBotマッチを実行した際のフレームレートを「CapFrameX」で測定している。

レインボーシックス シージ

オーバーウォッチ 2

レインボーシックス シージは4Kでも平均217fpsと余裕で快適に遊べるフレームレートを出している。軽めのゲームなら4Kでも十分遊べるのが分かる。オーバーウォッチ 2は、描画負荷を軽減するアップスケーラーのFSRに対応したタイトルなので、FSR適用時のフレームレートも計測した。FSRを使わなくてもWQHDで平均74.8fpsと十分快適に遊べるフレームレートが出ている。さすがに4Kになると快適なプレイの目安である60fpsを割り込むが、FSRを有効にすると平均92.9fpsまで大幅に向上できる。

次は、先述したアップスケーラーの「XeSS」に対応するゲームを試そう。XeSSはすでに20以上のゲームで対応しているが、今回はその中から「DEATH STRANDING DIRECTOR'S CUT」を選択した。マップの一定コースを移動した際のフレームレートを「CapFrameX」で測定している。

DEATH STRANDING DIRECTOR'S CUT

オーバーウォッチ 2と同じ傾向だ。XeSS未使用ではWQHDで平均91.4fps出ているが、4Kだと60fpsを割り込む。その点、XeSSをパフォーマンス設定にすれば4Kでも平均81.7fpsまで向上可能とその効果の高さがよく分かる結果だ。しかも、XeSSは機械学習を活用しており、FSRよりも高画質になるケースが多い。

最後はレイトレーシングに対応したゲームを実行したい。ここではPCゲームの中でも随一の描画負荷の高さを誇る「サイバーパンク2077」を選択した。このゲームに関しては、レイトレーシング無効、有効の両方を試した。ゲーム内のベンチマーク機能でフレームレートを計測している。

サイバーパンク2077

サイバーパンク2077 (レイトレーシング)

さすがに重いゲームだけあってレイトレーシングを使わない最高画質設定である「ウルトラ」でもフルHDで平均52.19fpsと60fpsに到達できていない。アップスケーラーのFSR 2.1をパフォーマンス設定にすることでやっと平均63.11fpsだ。まあ、超重量級ゲームを高画質で遊びたい場合はフルHDが限界と言ってよいだろう。レイトレーシングを有効にした最高画質設定の「レイトレーシング:ウルトラ」では、FSR 2.1を使ってもフルHDで平均45.99fpsと60fpsには届かない。平均60fpsを目指すなら、画質設定を1ランクか2ランク落とす必要になるだろう。

しかしながら、サイバーパンク2077は特別に重たいゲームなので、ここまでのテストから本機はデスクトップ向けのミドルレンジGPU並の性能を持っていると言ってよい結果を出している。

また、Arc A770MはAV1のハードウェアエンコードに対応しているのも特徴だ。AV1は容量が少なくて済む低ビットレートでも高画質なのが強みのコーデック。YouTubeなど配信サービスでの対応も予定されており、動画編集やゲームの配信をやっている人の中にはこれだけで購入したいというケースもあるだろう。NVIDIAのRTX 40シリーズでもAV1のハードウェアエンコードをサポートしているが、いかんせん搭載ビデオカードの価格が高価だからだ。すでに動画配信アプリの定番「OSB Studio」の最新バージョンでは、ArcでのAV1エンコードをサポートしている。

OBS Studioの最新バージョン(v29.0)ではArcのAV1ハードウェアエンコーダーをサポートしている

小型で高性能となれば放熱も気になるところ。ここでは、サイバーパンク2077(4K、画質“レイトレーシング:ウルトラ”)を10分間プレイしたときのCPUとGPU温度の推移をモニタリングアプリの「HWiNFO Pro」で追ってみた。CPU温度は「CPU Package」、GPU温度は「GPU Global Temperature」の値だ。

底面には2基のファンが搭載されている

CPUとGPU温度の推移

CPUは最大93度まで上昇しているが、平均では約82度と上がりすぎないようにうまくコントロールされている。GPUも同様で最大86度で平均では約82度だ。低い温度ではないが、CPUのサーマルスロットリング(高温時にクロックを下げる機能)のフラグもほぼ立っておらず、放熱はうまくできていると言ってよいだろう。また、動作音も静かではないが、個人的にはうるさいというほどではなく全然許容範囲だ。小型の高性能ベアボーンと考えると優秀なほうだろう。

とここまでが、NUC 12 Enthusiast Kitのテスト結果だ。Arcシリーズは2022年9月に発売されたばかりで、実力はどうなの? と思っている人も多いだろう。しかし、今回のテスト結果を見て分かる通り、デスクトップ版のミドルレンジGPU並の性能を発揮できている。メモリ、ストレージ、OSのないベアボーンで約25万円という価格にハードルはあるものの、小型&高性能を両立する存在として非常に貴重なのは間違いない。