24時間営業の復活を予定している、すかいらーく。一見何気ない変更に思えますが、「チェーンストアが抱える、本質的な問題が見え隠れしている」と、チェーンストア研究家の谷頭和希さんは指摘します(撮影:中尾謙介)

2022年1月5日、ファミリーレストラン大手「ガスト」などを手掛けるすかいらーくホールディングスが、24時間営業の復活を検討している、というニュースが流れた。「ガスト」だけでなく、「ジョナサン」や中華料理の「バーミヤン」なども対象で、今後詳細を詰めていくという。

編集部を通じて広報にコンタクトを取ったところ、「報道の内容は事実。深夜帯の飲食ニーズが回復するなか、夜遅くに食事ができる場所がほとんどない。そういった場所を提供するのは、全国に店舗を展開する企業としての使命と考えた。第1弾は2月中旬から3月頃を想定している。24時間営業になる店舗数は調整中で、決定次第リリースを出す予定」とのことだった。

なお、必ずしも24時間営業か従来通りの営業時間かという話ではなく、店舗のある地域の顧客動向に合わせて、営業時間を柔軟に決めていくようだ。

もともと同社は2年前の2020年に、働き方改革の流れやコロナ禍による影響によって、24時間営業を撤廃する政策を打ち出し、24時間営業が当たり前だと思われていたファミリーレストラン業界で大きな話題を集めた存在だ。そのような歴史があったうえでの今回の報道であるが、筆者はこの「24時間営業復活の検討」からは、現在のチェーンストアをめぐる、ある「本質的な課題」が見え隠れしていると感じた。

どういうことか。ここ数年の出来事や、ファミレスチェーンの深夜営業をめぐる歴史を踏まえつつ、紐解いていこう。

「24時間営業完全撤廃」の裏側

そもそも、ガストの24時間営業の撤廃は、それ以前から問題になっていたチェーンストアでの労働環境の改善が大きな目的としてあった。

例を挙げるまでもなく、24時間営業の場合、誰かしらが常に働いていなければならない。コンビニエンスストアでも問題になるように、アルバイトでシフトが賄えない場合、そこに入るのは店長をはじめとする社員であり、社員に大きな負担がかかることも問題となっていた。このような事情を鑑みての24時間営業の撤廃であったため、当時はガストの決断に対して賞賛の声も多く寄せられた。

しかし、その一方で、24時間営業の店が減少することによって不便さを覚えるユーザーも少なからずいたようだ。コロナ禍での外出自粛要請の際に問題になったように、エッセンシャルワーカーや夜職の人々にとっては、食事を取る場所がなくなってしまったということでもあるからだ。

また、「場所がなくなった」ということでいえば、労働者側も同じだ。昼に授業がある学生などにとっては、夜の時間帯こそ働くことができる時間帯でもあっただろうが、そうした就業機会が失われてしまった側面もある。実際、マイナビキャリア・リサーチLabが実施した2021年2月26日〜3月2日に実施した「大学生のアルバイト実態調査」によれば、大学生が現在アルバイトをしている割合は62.9%で、前年と比較して8.9ポイント減少。多くの学生が、アルバイトをしたくてもできない状態になっていることがうかがえる。

コロナ禍で飲食店そのものが営業を自粛していたこともあるだろうが、ファミレスなどが深夜営業を行わなかったことも、こうした就業機会の減少につながったのではないか。

このように、「24時間営業完全撤廃」には、プラスの側面と同様に、マイナスの側面もあったことをまず指摘しておかなければならない。

浮き彫りになった「完全」撤廃の問題点

しかし、このように2つの側面が生まれてしまった原因は、非常に単純なことだと筆者は考えている。つまり、「24時間営業の完全撤廃」の「完全」という部分だ。2020年、運営元であるすかいらーくは、当時24時間営業を行っていた店舗のすべてで、24時間営業を取りやめた。この「完全」撤廃こそが問題を生んだのである。

そもそも、ガストのように全国に店舗があるチェーンストアの場合、それが立地する街や地域の特性によって、そこを使うユーザー層は大きく変わる。若者や単身者が多い都市部であれば夜に一人で外食をするユーザーが多いだろうから、24時間営業の撤廃は大きな影響を生む可能性が高い。逆に住宅街や郊外などファミリー層が多い地域では、必ずしも24時間営業をする必要はないだろう。

つまり、それぞれのガストが立地する地域の特性によって、24時間営業が必要な場所とそうでない場所があるということである。もっといえば、それぞれの地域の特性に応じて、ある場所では、9時から21時まで、他の場所では6時から24時まで、そしてまた別の場所では24時間営業、とそれぞれの地域に合わせた営業時間が考えられるのだ。ライフスタイルが多様化した現代社会においては、全店で画一的に営業時間の変更を行うこと自体が難しいのである。

そして、この点は今回のガストの「24時間営業復活」において留意されている。ガストは24時間営業の復活の検討段階で、全店同時に24時間営業を復活させるのではなく、それぞれの立地する場所に応じた営業時間の設定するという、いわば「個店主義」ともいえる発想をもとにした対応を行うとしている。

ガスト24時間営業復活」に隠された本質的な課題

さて、ここまでを前提として、最初に私が述べた「ガスト24時間営業復活に隠された、本質的な問題」について取り上げよう。それは、チェーンストアにおける「画一主義」と「個店主義」の対立である。

先ほども述べたように、ガストが今回検討していると発表した「各地域に合わせた営業時間の変更」という「個店主義」を、果たして「画一主義」が浸透したファミリーレストラン業態で行えるか否か、ということだ。

そもそもガストの業態であるファミリーレストランの業態は、ガストの前身ともいえる「すかいらーく」が登場した1970年代に遡る。当時、「すかいらーく」が世間を驚かせたのは、基本的には日本全国どこでも同じ味とサービスが提供されたからである。これは、セントラルキッチンを作って同じ味をそれぞれの支店に提供する仕組みや、徹底的に画一化されたマニュアルの存在によって為せる業であった。

こうした「画一化」の背景にあったのは、チェーンストア理論を提唱し、日本におけるチェーンストア業態を理論的に指導した渥美俊一氏の存在が大きい。渥美氏は日本をアメリカなどに並ぶ豊かな国にするためには、すべての物やサービスが同じように提供され、日本全国、どこでも同じようなレベルで同じレベルのサービスが提供される「画一主義」の必要性を強く説いた。

渥美氏はチェーンストア理論の研究会である「ペガサスクラブ」を主宰し、そこにはダイエー(現在はイオングループの傘下)の創業者・中内功氏や、イトーヨーカ堂やセブン-イレブン・ジャパンの設立者・伊藤雅俊氏などが参加していた。いわば日本のチェーンストアほとんどすべてが、渥美氏のこの理論に影響を受け、日本のチェーンストアの基本的な考え方がここから広まったと言ってよい。

したがって、この「画一主義」は、「個店主義」の対極として広く日本で考えられてきた理論である。いわば、この考え方が染み付いている。

2020年にすかいらーくグループが全店同時に24時間営業を撤廃できた背景には、こうした「画一主義」があったともいえるだろう。本社の指示が一斉に支店に伝わり、すべての足並みを揃えて営業スタイルの変更を行うことができる素地があったからである。

しかし、先ほども確認したようにライフスタイルの多様化が進む現在においては、こうした「画一主義」自体が時代遅れになってしまっている感がある。日本のチェーンストアが現代に対応するために求められているのは、「画一主義」に代わる「個店主義」だともいえるだろう。

したがって、筆者としては今回のガストの政策について、「画一主義」のファミリーレストランにおいて「個店主義」がどのように行われるのか、ということに大きな興味がある。いわば、この挑戦は、日本のチェーンストア業界において強く信じられてきた思想に対する挑戦でもあるからだ。

1300店舗以上あるガスト、個店主義は容易ではない

具体的にそこではそのような問題が起きるか。2022年12月31日現在、ガストは全国に1317店舗を展開している。そのすべての店舗が、それぞれの時間で営業時間を変更するとなると、大きな支障が生じる恐れがある。

ガストはセントラルキッチン方式というシステムを採用しているが、これはいくつかの同一店舗の食事を一つの工場で大量に調理し、それを店舗に運んで現場で提供するという仕組みだ。同一の商品を大量に作ることによって、大幅なコスト減を図ることができる、ファミレスのお家芸の一つでもある。

しかし、このシステムが前提としているのは、ある程度の量の消費が見込める店舗が近隣に多数存在することだ。大量に作るのだからある程度の消費量が必要で、逆にいくつかの店舗で消費量が減ってしまう場合は、逆に工場稼働によるコスト高が生じる可能性があり、最悪の場合、そのセントラルキッチンがカバーする店舗全店を、黒字店舗まで含めて撤退しなければならない可能性さえある。

営業時間を一括で変更する場合には、工場の稼働率を下げ全体への供給量を同じように下げればよい。しかし、各店舗の営業時間が変更になれば、当然各店舗で必要となる料理の量も変わり、ある程度の小回りが必要になってくるだろう。大規模で一括供給を基本とするセントラルキッチン方式で果たしてこうした小回りが利くのかは疑問である。

このように、具体的なレベルでガストの「個店主義」が困難を抱えていることも事実だ。

こうした個店主義を行う際の、1つのロールモデルになるのが、通称「ドンキ」として知られるディスカウントストア「ドン・キホーテ」を運営するPPIH(パン・パシフィック・インターナショナル)だろう。PPIHは現在、33期連続増収という企業としては異例の業績を残している。

その躍進の秘訣になった一つの要因が、ドンキが採用する「権限委譲」である。これは、その店舗や売り場でなにを、どのように売るのかを決定する権限をその店の店長や店員に大幅に持たせ、その地域の実情に合う店舗を作り出す仕組みである。いわば、究極の「個店主義」ともいえるのが、ドンキの「権限委譲」である。

ドンキの創業者である安田隆夫氏は、この権限委譲を一号店から実践し、それは現在PPIHを貫くDNAとして継承され続けている。そしてその結果として、ドンキは異例の収益を上げているのだ。それは、ある意味で「画一主義」に対する「個店主義」の強さを示しているともいえる。

筆者はこの「権限委譲」のシステムについて、拙著『ドンキにはなぜペンギンがいるのか』の取材の際に、PPIHの担当者に話を聞いたことがある。そのときの話で印象深かったのは、画一主義が浸透している企業において、この権限委譲を行うのには、その企業の仕組みそのものを大きく変更するような、いわば「血の滲むような改革」をしなければ成功しないだろう、という話であった。

また、ドンキがこの「個店主義」に成功しているのは、創業当時からこの「権限委譲」がDNAとして染み付いているからだとも付け加えていた。それぐらい、正反対である「画一主義」から「個店主義」へのシフトはきわめて難しいということなのである。

権限委譲に失敗した企業も当然ながら存在する

ファミレスとは業態が異なるが、かつて西武百貨店が「ショップマスター制」という制度を、当時のトップだった堤清二氏の主導の下で行ったことがある。これは、その売り場の商品に精通した担当者(ショップマスター)が、商品の売り方や仕入れの方法などをすべて自身で行うというものであり、ドンキの「権限委譲」と似たシステムである。しかし、ピラミッド型の組織が定着していた西武百貨店において、このようなシステム変更がもたらしたのは大きな混乱だったという(鈴木哲也著『セゾン 堤清二が見た未来』)。「個店主義」への挑戦の難しさがよくわかるだろう。

もちろん、ドンキほどの徹底した個店主義でなくても、今回のガストの政策において「個店主義」へのシフトが問題になるのは間違いない。コロナ禍ではさまざまな外部要因によって、なし崩し的に店舗ごとに営業時間が異なる状況が生まれていたが、自ら営業時間を決めていくことは、また話が違ってくるだろう。

一見すると何気ない「ガスト24時間営業復活」の問題には、実は日本のチェーンストアをめぐる本質的な課題が隠されているのである。

(谷頭 和希 : チェーンストア研究家・ライター)