【▲ 接近した恒星を引き裂き、相対論的ジェットを放出するブラックホールの想像図(Credit: Carl Knox (OzGrav, ARC Centre of Excellence for Gravitational Wave Discovery, Swinburne University of Technology))】


メリーランド大学のIgor Andreoniさんとミネソタ大学のMichael Coughlinさんが主導する研究チームは、遠方の宇宙で発生した潮汐破壊現象に関する研究成果を発表しました。潮汐破壊現象(TDE:Tidal Disruption Event)とは、ブラックホールがもたらす潮汐力によって恒星が引き裂かれる現象です。


2022年2月11日、パロマー天文台の「ツビッキー・トランジェント天体探査装置(ZTF)」が「りょうけん座」の方向で1つの突発天体(トランジェント天体)を検出しました。「AT2022cmc」と名付けられたこの突発天体は「ハッブル宇宙望遠鏡」やヨーロッパ南天天文台(ESO)の「超大型望遠鏡(VLT)」など21の望遠鏡による追跡観測が行われ、約85億年前(赤方偏移z=1.19325)に発生した現象であることが判明しています。


さまざまな波長(ガンマ線、可視光線、電波など)で得られたAT2022cmcの観測データを研究チームが分析した結果、この突発天体は相対論的ジェット(光速に近い速度のジェット)の放出をともなうタイプの潮汐破壊現象だった可能性が示されました。ESOによれば、AT2022cmcは観測史上最も遠くで見つかった潮汐破壊現象とされています。


ESOによると、潮汐破壊現象の約1パーセントはブラックホールの両極方向にプラズマと電磁波が放出されるジェットをともなうと考えられています。ジェットをともなう潮汐破壊現象は観測例が少なく、ジェットが生成される仕組みや、一部の潮汐破壊現象だけでジェットが生じる理由はまだよく理解されていません。AT2022cmcの場合、ジェットの放出方向に地球が偶然位置していたとみられています。


また、ジェットをともなう既知の潮汐破壊現象は高エネルギーのガンマ線やX線を捉える望遠鏡の観測で最初に検出されてきましたが、AT2022cmcは光学観測で最初に検出された初の観測例になったといいます。研究チームは今回の発見について、ジェットをともなう潮汐破壊現象を検出する新たな方法を示すものだと受け止めており、発生頻度が低い同現象のさらなる理解や、ブラックホール周辺の極端な環境の研究が可能になると期待を寄せています。


 


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Image Credit: Carl Knox (OzGrav, ARC Centre of Excellence for Gravitational Wave Discovery, Swinburne University of Technology)ESO - Most distant detection of a black hole swallowing a starZTF - ZTF makes first dicovery of a rare cosmic lunch

文/松村武宏