快挙! “タイガ”がツアーの歴史に名を刻んだ(撮影:佐々木啓)

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<パナソニックオープン 最終日◇25日◇小野東洋ゴルフ倶楽部(兵庫県)◇7113ヤード・パー72>
2週連続優勝を狙う大槻智春、史上8人目の50代優勝を狙う宮本勝昌らとの競り合いを制したのは、東北福祉大4年生の蝉川泰果(せみかわ・たいが)だった。首位タイから出た蝉川は、8バーディ・2ボギーの「66」で回り、トータル22アンダーまで伸ばして最上位でフィニッシュ。昨年大会の中島啓太に続き、ツアー史上6人目のアマチュア優勝を遂げた。
前日「61」の11アンダーをマークして勢いに乗る蝉川。タイトでOB杭が目立つコースであっても、ドライバーを多用するアグレッシブなプレーを見せた。スタートホールこそ「すごく緊張していました。手汗がすごくて…」とティショットは左に一直線に飛んで木の真下に行ったが、ライが悪い状況からでもグリーンをとらえて2パットのパー発進を決めた。
「2番からいい緊張感でできた」と2番パー5で3.5メートル、3番パー3では7メートルのバーディパットを沈めて首位に立つ。ドライバーショットは左に真っすぐ出るミスがたびたび出ていたが、「ボギーを叩かないマネジメントではなく、バーディを取るマネジメントをしていました。ショットが荒れている中で、しのげない部分もありましたが、昨日と朝の練習でショットは自信が持てる精度で調整して挑んだつもりでした。一つひとつのショットに不安はなかったです」とピンチを招いても焦ることはなかった。
9番パー4でボギーとして首位から陥落したが、10番パー4で5.5メートルのバーディパットを沈めると「行けそうな雰囲気がする」と手ごたえを感じる。攻める姿勢を崩すことなく、13番から5連続バーディ。一時は首位タイに4人が並ぶ大混戦から一気に抜け出した。2打リードで迎えた18番パー4は2メートルのパーパットを外してボギーとしたが、あふれ出る涙を抑えることはできなかった。
「びっくりしている気持ちと、何とも言えない味わったことのないうれしさがあります」。今週は優勝するつもりで乗り込んできたが「学生のうちに優勝できるというのは想像していなかった」と驚きの喜びだ。
ゴルフクラブを握ったのは1歳の頃。玩具店で買った子供用のプラスティックのクラブを振り回していた。物心ついたときからプロゴルファーを目指していたが、その決心を固めたのは今年の4月だ。
転機は今年の「関西オープン」。予選ラウンドを単独首位で突破して、最終的に17位タイに入った。「それまではツアーに出ても予選落ちや下位だったので、プロの世界は甘くないと思っていました。1、2月ぐらいは葛藤していました」というが、この好結果がプロを目指す蝉川の背中を押してくれた。
今年は来年のツアー出場権をかけた予選会(QT)に出る予定だったが、この優勝でプロ転向すれば2年間のシード権が付与される。QTでレギュラーツアーへの資格を得るのは狭き門とあって、「QTを受けなくていいのでホッとしています」というのは偽らざる本音だ。まだ大学の試合が残っているため、プロ転向は10月以降と見られるが、年内にはプロゴルファーとしてのキャリアをスタートさせることになる。
名前の由来はタイガー・ウッズ(米国)。父・佳明さんによると「海外でも呼びやすい名前にしたかった」という思惑もあったようだ。最初は「ジョージ」にするつもりだったが、タイガに落ち着いた。蝉川のほかにも、タイガーが名前の由来であるゴルファーは多い。蝉川の大学の先輩には杉原大河、先週の「ANAオープン」初日3位タイで滑り出した19歳の長野泰雅ら、JGTOに登録されている選手だけでも19人の「たいが」がいる。
「すごく目標にしていた杉原大河さんとかもいるんですけど、どの“タイガ”にも負けたくない。そんな気持ちが芽生えています」。もちろん、本家の背中を追うような活躍にも期待したい。(文・小高拓)
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