この記事をまとめると

■これまで日本の観光地や道路などの英語表記は地域によってバラバラだった

■国が主導となり、観光立国を目指して多言語表記について一部を改めようという動きが起こった

■切り離すと意味をなさなかったり、広く認識されている場合には、全体の表音表記に加えて普通名詞部分の表意をしている

地域によって英語表記のルールは異なっていた

 関東の「荒川」にある標識には、「Arakawa River」と書かれているのに、同じく関東にある「利根川」は「Tone River」なっている。いったい、どんな基準で英語の表記を決めているのだろうか?

 こうした表記は、「寺」に対しても見受けられる。たとえば、福井県にある曹洞宗大本山の「永平寺」の場合、「Eiheiji Temple」になっている。

 その地域での習慣や風習、または地方自治体の判断など、英語表記についてはさまざまな解釈が並存してきたといえる。そうした状況について、改めて見直す、または一定のルールを考えようとする動きが「東京2020」を控えて、国が主導する形で起こった。

 それが、国道交通省 観光庁が2014年6月に公表した、「観光立国実現に向けた多言語対応の改善・強化のためのガイドライン」だ。前身となったのは、2013年6月に開催された観光立国推進閣僚会議で決定された「観光立国実現に向けたアクション・プログラム」である。美術館、博物館、自然公園、観光地、道路、公共交通機関などで、外国人目線に立った多分野で共通するガイドライン作りを目指すとした。

 その頃、訪日外国人旅行者数は1000万人を突破しており、2000万人の高みを目指すとしていたが、まさかその後にコロナ禍という史上空前の出来事が日本を含めた世界に巨大な影響を与えるとは、誰も想像していなかったことは言うまでもないだろう。

広く知られている固有名詞はそのまま英語表記している

 いずれにしても、観光立国を目指し、さらに「東京2020」という大きな目標に向けて、さまざまな多言語表記について、その実態を調査し、一部を改めようという動きが起こったことは間違いない。

 同ガイドラインでは、「多言語での表記方法」での「単語の種類」として、日本語の「言語パターン」が、固有名詞と普通名詞に分かれていることを改めて提示している。

 その上で、固有名詞は、一般的な固有名詞として「東京」といった地方名や人名などの「日本由来」なもの。また、「リンカーン」など外国の人名や地名の固有名詞があるに分類。こうした固有名詞には、普通名詞部分を含む固有名詞があり、「〇〇公園」、「〇〇川」、「〇〇山」などが該当する。一方で、普通名詞には、日本由来ではすでに翻訳されているモノとそうでないモノがあり、さらに外国由来があるという分類だ。

 こうした固有名詞と普通名詞での分類を踏まえて、ガイドラインでは「普通名詞部分を含む固有名詞」についてさらに深堀りしている。

 基本的なパターンは、「普通名詞部分以外の表音を表記するとともに、普通名詞部分の表意を表記する」モノ。それらは、表音表記のみならず、表意表記の頭文字も大文字としている。

 例としては、「日比谷公園(Hibiya Park)」、「成田空港(Narita Airport)」、「富士山(Mt.Fuji)」、「石狩川(Ishikari River)」、「東京湾(Tokyo Bay)」などだ。

 一方で「普通名詞部分を切り離してしまうと、それ以外の部分だけでは意味をなさなかったり、普通名詞部分を含めた全体が不可分の固有名詞として広く認識されている場合には、全体の表音表記に加えて、普通名詞部分の表意を表記する」モノがある、と説明している。

 例としては、「月山(Mt. Gassan)」、「立山(Mt. Tateyama)」、「荒川(Arakawa River)」、
「芦ノ湖(Lake Ashinoko)」、「大阪南港(Osaka Nanko Port)」「東大寺(Todaiji Temple)」、
「平安神宮(Heian-jingu Shrine)」を挙げている。

 こうして改めて日本語の固有名詞を見てみると、多言語化するためにさまざまな工夫が必要なことがよくわかる。