NVIDIAやAMDに対し「中国へのAIチップの輸出規制」をアメリカ政府が命じる
近年、アメリカは中国への輸出規制を強めており、世界1位・2位の経済大国である二国間の対立が深まっています。今回アメリカ政府は、AI関連アプリケーションに必要な高性能半導体の輸出に新たなライセンス要件を導入したことを、国内の半導体企業に通知しました。これを受けて大手半導体メーカーのNVIDIAは、新たな輸出規制によりAIチップ開発の遅れや売上高減少の可能性があると述べています。
https://www.sec.gov/ix?doc=/Archives/edgar/data/1045810/000104581022000146/nvda-20220826.htm
Nvidia, AMD warned of new US export restrictions on AI chips - Protocol
https://www.protocol.com/bulletins/nvidia-amd-ai-chips
U.S. Export Rules May Cost Nvidia $400 Million, Prevent Completion of H100 Development | Tom's Hardware
https://www.tomshardware.com/news/us-export-rules-may-cost-nvidia-400-million-prevent-h100-development
NVIDIAは2022年8月31日の発表で、アメリカ政府から高度なAI開発やデータセンター向けチップである「A100」および近日発売予定の「H100」について、中国およびロシアへの輸出に新たなライセンス要件が課されたことを報告しました。このライセンス要件は直ちに有効とされ、A100またはH100を組み込んだその他のシステムも輸出規制の対象になるとのこと。
ライセンス要件はA100やH100といった特定の製品に限ったものではなく、チップのピーク性能およびI/O性能が特定のしきい値を超えるものが対象とされています。また、製品やシステムそのものに加え、これらの製品の開発に関する技術を輸出する際にもライセンスが必要となりました。
NVIDIAは発表の中で、「アメリカ政府は新しいライセンス要件について、対象製品が中国とロシアの『軍事的な最終用途』または『軍事的エンドユーザー』に使用されたり、転用されたりするリスクに対処するものだと説明しました」と述べています。海外メディアのProtocolは、半導体開発企業のAMDもアメリカ政府からの通知を受け取ったことを確認しており、A100の競合製品である「MI200」に影響が及ぶ可能性があると指摘しました。
by Will Clayton
今回の規制により、NVIDIAはH100の開発計画やA100のユーザーサポート能力に影響するかもしれないと報告しています。場合によっては特定の事業を中国から移行する必要に迫られるかもしれないとのことで、「当社はアメリカ政府と協力して、内部開発およびサポート活動を規制から除外するよう求めています」と述べています。NVIDIAは8月24日に発表した2022年第3四半期の見通しにおいて、中国での潜在的な売上高を4億ドル(約550億円)ほどと見込んでいたため、規制はNVIDIAの業績に打撃を与える可能性があるとのこと。
NVIDIAは中国の顧客に対し、新規制に抵触しない代替製品を販売することで需要を満たすことを計画していますが、当然ながらA30などの代替製品はA100やH100よりパフォーマンスが低いため、どうしてもA100やH100が必要な場合はライセンスを要求する必要があります。しかし、アメリカ政府がライセンスを発行するという保証はなく、また発行が直ちに行われるかどうかも不明です。
アメリカ商務省はProtocolへの声明で、「現時点では具体的な政策変更の概要を説明する立場にありませんが、アメリカの国家安全保障と外交政策の利益を守るため、技術・最終用途・エンドユーザーに関連して、必要な追加措置を実施する包括的アプローチを採っています。これには、中国による軍事的近代化の努力や人権侵害、その他悪意ある活動を可能にするための軍民融合プログラムに、アメリカの技術が取得・使用されるのを阻止することも含まれています」と述べました。
なお、AMDは中国に販売するAIチップが競合他社よりはるかに少ないため、今回の規制が収益に大きな影響を及ぼす可能性は低いとのことです。