相場展望9月1日 バイデン大統領の反インフレ退治策で景気どん底リスク 日本株8月健闘も、9月懸念材料に注意

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■I.米国株式市場

●1.NYダウの推移

1)8/29、NYダウ▲184ドル安、32,098ドル(日経新聞より抜粋) ・パウエルFRB議長の8/26講演で、金融引締めの長期観測が強まり、米景気の一段の悪化を懸念した売りが続き、一時▲300ドル超下げ、約1カ月ぶりの安値で終えた。 ・パウエルFRB議長は講演で、インフレ抑制について「やり遂げるまで、やり続けなければならない」と述べた。経済全体の需要を抑えて物価を下げるために、「潜在成長率を下回る成長を続ける必要がある」とも主張し、景気の下支えよりも物価抑制に重点を置く姿勢を明確に示した。 ・売り一巡後は、米原油先物相場が大幅上昇し、石油株が買われ、相場を下支えした。 ・今週9/2に米雇用統計が発表されるので、FRBは今後の利上げペース次第としているため、内容を見極めたい雰囲気も強かった。 ・米長期金利が8/29に一時3.13%と6月下旬以来の高水準をつけ、割高感が意識されハイテクが売られた。スリーエムや化学のダウなど景気敏感株の下げも目立った。

【前回は】相場展望8月29日 パウエルFRB議長の『失敗』、バイデン大統領の大盤振る舞いが招いた高インフレ対策で、金融引締めは長期間・景気悪化は避けられず

2)8/30、NYダウ▲308ドル安、31,790ドル(日経新聞より抜粋) ・米連邦準備理事会(FRB)による金融引締めが長期化し、米景気を冷やすとの懸念が強まり、景気敏感株を中心に幅広い銘柄で売りが優勢となった。 ・NY連銀のウィリアム総裁が8/30のイベントで金融引締めを「来年まで続ける」と述べ、政策金利から予想インフレ率を引いた実質金利について「プラスにする必要がある」とも付け加えた。インフレ抑制で政策金利を一段と引上げ、高金利が長期化するとの警戒感が高まった。 ・8/30発表の米7月雇用動態調査(JOLTS)に非農業部門の求人件数が前月比で市場予想以上に増えた。歴史的な高水準が続いており、米労働市場の引締めが、インフレ高止まるにつながるとの見方を誘った。 ・米長期金利が8/30、一時3.15%と2ヶ月ぶりの高水準を付け、株式の割高感を意識。 ・ボーイング・シェブロン・ダウ・キャタピラー・アップル・テスラが売られた。

3)8/31、NYダウ▲280ドル安、31,510ドル(日経新聞より抜粋) ・前週末のパウエルFRB議長の講演を受け、米国株市場では金融引締めの予想以上の長期化が警戒されたが、8/31もFRB高官からタカ派寄りの発言で4日続落となった。 ・8月前半の強気相場が終盤に暗転、最後の4日で▲1,781ドル安、月間▲1,334ドル安。 ・クリーブランド連銀のメスター総裁は8/31の講演で、「来年の早い時期まで政策金利を4%を超える水準に引上げる必要がある。来年の利下げ転換はないだろう」と発言。 ・株式市場では、金融引締めの長期化が景気後退を招きかねないとの警戒が広がった。景気敏感株の売りを誘いキャタピラー・ボーイングが安く、アメックス・ナイキも下落。半導体のエヌビディア・AMDのほか、アマゾンも下げた。

●2.米国株:バイデン氏の反インフレ退治と原油価格再騰へ⇒インフレ率再上昇の懸念増す

 1)バイデン大統領、中間選挙勝利に向けてまっしぐら  ・バイデン支持率回復のため、米SPR(国家戦略備蓄)の原油放出で、ガソリン価格が▲23%低下し、支持率は回復し、民主党支持率も共和党と拮抗するまで上昇した。  ・しかし、備蓄放出は10月末まで。  ・11月以降、戦略備蓄量の回復のため高値での買い増しに迫られる。   7月米備蓄放出⇒11月以降、備蓄回復のため買い増し⇒原油価格再騰⇒インフレ上昇   ⇒世界景気はリセッション入りがより確実となる。  ・バイデン大統領は大統領選挙時の公約である環境保護のため、米国での原油生産規制策を打ち出した。原油開発は困難になり、原油生産量はトランプ時代の1,300万バレル/日⇒1,100万まで、落ち込んだ。  ・世界原油価格高騰の一因に、バイデン氏の原油生産規制がある。しかし、原油価格高騰によるガソリン価格急騰でバイデン支持低下⇒11月中間選挙で民主党敗北⇒バイデンのレームダック化への懸念が高まった。中間選挙での挽回のため、ガソリン価格低下をねらって国家戦略原油備蓄の大量放出を決定したという経緯がある。

 2)バイデン氏の「学生ローン1万ドル免除」方針打ち出す  ・米中間選挙での体勢挽回を意識した施策。  ・バイデン個人・民主党のためであり、インフレ圧力を高め、米景気・世界景気悪化リスクを高めた愚策。  ・バイデン大統領の「学生ローン免除、1人当たり1万ドル」は10年間で5,000億ドル(約68兆円)掛かるという。

 3)バイデン氏は、  (1)FRBには、インフレ退治を指示しながら、  (2)自分の支持率アップのために大盤振る舞いの財政政策をとる方針を出した。

 4)インフレ退治には、『総需要の縮小』が必要である。そのために必要なことは、  (1)FRB金融政策で、金利引上げと過剰資金の縮小による購買力減退。  (2)国の財政政策で、緊縮財政への転換による政府需要の縮小。  ところが、バイデン氏は、インフレ抑制より、支持率向上が大切なようである。これは「二兎追うものは一兎をも得ず」の典型的な失敗になる可能性がある。「二兎」とは、(1)インフレ退治 (2)支持率回復のための財政予算ばら撒き、である。   ・パウエルFRB議長は、8/26に悲壮な決意で「インフレ抑制」を表明したが、「前門の虎、後門の狼」である。   ・パウエル氏は、バイデン氏に「ハシゴを登らされて、ハシゴを外された」、格好である。   ・バイデン氏のやり方は、「自動車のブレーキとアクセルを同時に踏む」行為である。   ・パウエルFRB議長の「インフレ退治」の決意も、その効果に「暗雲」が垂れ込めてきた。   ・経済的には、パウエル氏が「最悪」とした、「徹底できないインフレ抑止で、経済が長期にわたる深いどん底」に向かう可能性が浮上してきた。   ・加えて、住宅ローン30年物固定金利が5.95%(8/27)へ急伸⇒米景気悪化へつながる。

 5)インフレ率再上昇の懸念  ・CRB指数8/29に301.75に再上昇。  ・原油価格再上昇85ドル⇒97.01ドル(8/29)。  ・サウジの減産表明。

●3.米住宅ローン30年物固定金利5.95%へ急伸(フィスコ)

●4.各国中銀、財政政策の改善がなければ、インフレ抑制困難=米研究(ロイターより抜粋)

 1)各国政府が、より慎重な財政政策を講じない限り、中央銀行はインフレを抑制できず、物価上昇率を更に押し上げる可能性があるという研究結果が、ジャクソンホール会合で示された。

●5.米7月求人件数1123.9万件と予想外の増加、労働市場の逼迫継続を示唆(ブルームバーグ)

 1)限られた労働力を、雇用主による奪い合う状況が続いている。

●6.米スナップ、広告収入鈍化で人員▲20%削減計画、コスト抑制で一部投資も減(ブルームバーグ)

●7.独8月消費者物価指数(CPI)は前年同月比+8.8%、ユーロ導入後で最高(ブルームバーグ)

 1)7〜9月のインフレ率は更に加速して+10%に達すると予想。

■II.中国株式市場

●1.上海総合指数の推移

 1)8/29、上海総合+4高、3,240(亜州リサーチより抜粋)  ・中国経済対策の効果が期待される流れとなった。  ・国務院が特別地方債の発行額の上積み決定や、中国人民銀行(中央銀行)の金利引下げを改めて材料視した。  ・また、このところマーケットの売り材料となっていた、電力需給の逼迫問題に関し、一部地域で解消されつつあることもプラス材料となった。  ・景気鈍化懸念が根強いほか、新型コロナ感染対策の行動抑制が一部地区で強化されていることが不安視されている。  ・業種別では、ハイテクの上げが目立ち、エネルギー関連も高く、金融が冴えない。

 2)8/30、上海総合▲13安、3,227(亜州リサーチより抜粋)  ・中国経済の不透明感が重石となる流れとなった。  ・国内では、新型コロナ感染対策が強化されている。感染者が拡大した深圳市では8/29から地下鉄24駅を封鎖。そのほか複数の地域で行動制限の措置が取られた。  ・明日8/31は8月中国製造業PMIが気懸かりだが、下値は限定的だった。  ・業種別では、石炭の下げが目立ち、発電・電力設備も安い。反面、不動産は高い。

 3)8/31、上海総合▲25安、3,202(亜州リサーチより抜粋)  ・前日の軟調な地合を継ぐ流れとなった。  ・国内で新型コロナ新規感染者数が高止まりする中、感染対策の行動制限強化が懸念。  ・欧米で金融引締めが長期化するとの観測もマイナス材料になった。  ・中国8月製造業PMIは49.4と、前月実績49.0と市場予想49.2を上回ったが、景況判断の境目となる50は前月に続き下回った。  ・業種別では、自動車の下げが目立ち、ハイテクも安い。反面、金融・医薬品は高い。

●2.中国半導体会社SMICを待ち受ける景気循環の試練、世界経済とシリコンサイクルが下降局面入り(東洋経済)

●3.バフェット氏の米バークシャー、中国BYD株の持ち分減らす20.0%⇒19.9%(ブルームバーグ)

■III.日本株式市場

●1.日経平均の推移

 1)8/29、日経平均▲762円安、27,878円(日経新聞より抜粋)  ・米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長が金融引締めへの強い決意を示し、前週末の米株式相場が大幅安となった流れを引き継ぎ、3週間ぶりの安値となった。  ・8/26の米NYダウは前日比▲1,000ドルを超える大幅な下落となった。パウエルFRB議長は8/26の講演で、高インフレの抑制について「やり遂げるまでやり続けなければならない」と述べた。  ・金利の上昇局面で割高感が意識されるグロース(成長)株を中心に売られた。日経平均の下げ幅と下落率は6/13以来、約2カ月半ぶりの大きさだった。  ・売り一巡後は、バリュー(割安)株の一部に買いが入った。  ・市場では「米金融引締めの長期化が見込まれるとあって、消去法的にバリュー株に物色が向かった」との声が聞かれた。  ・いすゞ・三菱自・フジクラ・NTNが上昇、エムスリー・リクルートの下げが目立った。

 2)8/30、日経平均+316円高、28,195円(日経新聞より抜粋)  ・米金融引締めへの懸念から前日に急落した反動で、自律反発を期待した買いが優勢。幅広い銘柄に買いが入ったが、上値では戻り待ちの売りも出た。  ・米連邦準備理事会(FRB)による大幅な利上げが長期するとの警戒感から日経平均は前日に▲700円超下げ、心理的節目の28,000円を下回たため、8/30は株価指数先物を中心に短期的な戻りを期待した買いや、売り方の買戻しも入って、相場を押し上げた。  ・新型コロナのオミクロン株に対応した改良ワクチンの接種開始時期について、政府がこれまでの10月半ばから9月に前倒しすると伝わったのも支援材料となった。市場では「経済再開に向けて更に前進する」との声が聞かれた。  ・もっとも、日経平均は25日移動平均線に近づくと伸び悩んだ。  ・FRBが積極的な金融引締め強化への警戒感は根強く、上値では戻り待ちの売りが出た。  ・三菱重工・川重・NEC・富士通・住友大阪が買われ、三井化学・クレセゾンが安い。

 3)8/31、日経平均▲104円安、28,091円(日経新聞より抜粋)  ・米国の金融引締めが長期化するとの警戒から売りが先行し、下げ幅は一時▲280円を超えたが、水際対策緩和による日本経済の正常化期待や円安が支えとなり、下げ幅縮小。  ・中国の景況感指数が低迷、先行き不安も意識され、海運や鉄鋼など景気敏感株が下落。  ・現行の入国者数を1日当たり2万人から9/7に5万人に引上げで、空運が買われた。訪日外国人の需要回復への思惑から三越伊勢丹・高島屋にも買いが波及した。

●2.日本株:岸田ショック再来となるか? 首相判断で、外国人投資家動向に注目

 1)9月から外国人投資家が揃い踏み  ・9/1から夏期休暇明けで外国人投資家が東京市場に戻って来て全員が揃うことになる。  ・8月は薄商いで値動きが一方向になりやすかったが、市場に戻ってきた外国人の動向を注視したい。  ・短期筋の外国人の先物・現物の買越し額は7/4〜8/19で2兆8,734億円と、巨額の買越しとなっている。

 2)昨年の「岸田ショック」再来か?  ・昨年の秋相場9/14天井30,670円⇒10/6底値27,527円と▲3,142円下落・▲10.2%安。  ・外国人投資家から不人気の岸田首相誕生で「岸田ショック」と言われた。  ・今年は、「旧統一教会」「国葬」と岸田首相の判断が株式市場にどう影響を及ぼすのか?  ・巨額買越しの外国人投資家の動向に注目したい。

 3)日本株相場は、米国株に対して健闘しているが、弱含みも見られる  ・NYダウは下落基調、特にSP500は75日移動平均線を割り、2番底へ。8/16高値34,152ドル⇒8/31安値31,510ドル、下げ幅▲2,642・下落率▲7.7%  ・日経平均は健闘:NYダウの下落率は日経平均の2倍。8/17高値29,222円⇒8/31安値28,091円、下げ幅▲1,131円・下落率▲3.9%   年初来高値8/31は63銘柄、年初来安値8銘柄  ・ただし、弱含みが見られる。   年初来高値:8/17 139銘柄 ⇒ 8/31 63銘柄 と減少傾向にある  4)例年9月相場は売られやすい習性がある  ・8月相場が高水準だっただけに、外国人投資家の買越しが巨額なだけに、注意。特に、外国人投資家の買越しの多くが先物である点に警戒したい。

●3.オリンパス、生物顕微鏡などを手掛ける科学事業を米ベインに4,276億円で売却(ロイター)

●4.企業動向

 1)日本製鉄  トヨタに車用鋼材を最大となる2〜3割の値上げ(日経新聞)  2)JR東日本  鉄道4,000人縮小し、不動産・流通にシフト(日経新聞)  3)JT     加熱式を値上げ最申請、一部は価格据え置き(日経新聞)  4)三菱商事  サハリン2新会社に出資へ(日経新聞)

■IV.注目銘柄(投資はご自身の責任でお願いします)

 ・1605 INPEX   原油価格再騰期待 ・5020 ENEOS   業績好調 ・5401 日本製鉄  業績好調

執筆者プロフィール

中島義之 (なかしま よしゆき)
1970年に積水化学工業(株)入社、メーカーの企画・管理(財務含む)を32年間経験後、企業再生ビジネスに携わる。現在、アイマックスパートナーズ(株)代表。メーカーサイドから見た金融と企業経営を視点に、株式含む金融市場のコメントを2017年から発信。発信内容は、オープン情報(ニュース、雑誌、証券リポート等々)を分析・組み合わせした上で、実現の可能性を予測・展望しながらコメントを作成。http://note.com/soubatennbou