作家・作詞家として活躍する高橋久美子さんによる暮らしのエッセー。今回はつい食材を食べきれない問題についてつづってくれました。

第78回「新陳代謝のいい冷蔵庫」

私は、本とかレコード、服もお皿も溜めこんでしまう性格だ。好きなものは捨てられない。まあ、腐るものでもないので、これでいいと思っている。しかし、いくら好きなものでも溜めてはいけないものがある。

●ついつい食べきれず放置されがちな食材

それは食材である。冷凍庫の奥底から、いつから入ってたかなあというものが出てきた経験はないだろうか? 非常食は別として、食材だけはおいしい時期を逃してはいけない。七味や、くるみ、ジャム、ふりかけ、佃煮、素麺、ラー油、海苔、乾燥ワカメ、お茶っ葉…油断していたら使いきれなくて、お陀仏してしまうこともある。

お土産にと、夫や私が仕事仲間や友人にいただく食べ物は、どれもこれもおいしそう。ありがたくいただきます!でも、大家族でない上に、学生ではないので、そんなにたくさん食べられない。

「おいしいねえ」「うん、すごくおいしいねえ」

ああ、昔なら全部平らげるのに、少しだけ食べて、袋をパチンと留めて冷蔵庫に入れることになるのだ。

「また今度食べようっと」

はい、駄目! それ駄目です! 冷蔵庫に入れたら最後、何度か食べた後は、忘れてパサパサになって発見されることになる。

ジャムやパテだって…おいしいねえと言って、残りを冷蔵庫に入れたら最後、2ヶ月後、白いものがうっすら浮かんで発見されることになるのは、目に見えている。二人とも食が好きなので、いただきものはとっても嬉しいのだ。

●なんとしてでも食べきる工夫をする

「一週間以内に食べるコーナー」を冷蔵庫の見える場所に置いて、日々それらを食べることに専念する。量にもよるが、とにかくフードロスは絶対駄目! な我が家において、時に義務のようになることもある。だったらもう久美子さんに食べものを渡すのは辞めようとは思わないでください。私たちは全国のおいしい珍しいものを食すのが大好きだ。だから、なんとしても食べきります!

とはいえ、いっそのこと開ける前に友人にあげた方がいいかなあと考える。でも、せっかくもらったんだから、開けたい。なにより食べたい。けれども、開けてちょっと食べたものを他人にあげることはできない。

「開けてしまったんですけど、残り食べて」と渡すことができるのは、実家の母や姉だけである。チーム愛媛の人々は、喜んで食べてくれる。

おいしそうだけど、全部は食べられないなというものは、なるべく愛媛に持ち帰り開けることにしている。私も一緒に味わうことができるし、甥っ子たちにより、瞬時になくなっていく気持ちよさよ。東京の冷蔵庫なら2ヶ月残るものが、愛媛では20分でなくなる。成長期とは素晴らしいものだなあ。

おいしいものや、全国の珍しい食べものが好きだ。だから、お土産をいただくのはとっても嬉しい。そして、食品とは腐るからこそ、期間が決まっている生ものだからこそ美味しい。その期間を見極めて食すからこそ楽しい。

●「食べものは、おいしいうちに身離れよく」

さらに、私は料理が好きなので、梅干しや梅酒、高菜も毎年大量に漬けてしまうし、マーマレードやジャム、しそジュース、柚子胡椒なんかもたんまり作ってしまう。そう、そもそも食べるのが追いつくわけがない家なのだ。

「食べものは、おいしいうちに身離れよく」と母は言う。

おいしいうちに、みんなで食べるのが一番だということだ。

手作りのものをお土産にするというのは、ためらってしまうかもしれない。こういうご時世でもあるし、何となく手作りというと重々しさとか、嫌味な感じがしてしまうのも分からんでもない。贈り物は、時と間柄を考えて、やっぱり手作りを渡せるのは、気心の知れた人になる。この年齢になってくると、自分の作ったものを、美味しい美味しいといって沢山食べてくれることが一番嬉しかったりする。見渡すと、自然とそういう仲間が私の周りには集っているなと思ったのだった。