閉じた状態で11.3mmと驚異的な薄さへと進化した新型MacBook Air。性能、バッテリーと、長く使えるパフォーマンスを備え、安心して選べる1台に仕上がっている。※評価機にはパブリックベータ版のmacOS Venturaを導入し、取材に基づく特別な許可を得て掲載しています(筆者撮影)

アップルは7月15日より、新デザインと新チップを搭載するMacBook Airを発売する。8コアCPU・8コアGPU・8GBメモリー・256GBストレージを備えるベースモデルで16万4800円(以下、価格はすべて税込み)。10コアGPU・512GBストレージを備えるモデルで20万8800円だ。

ちなみに、筆者が最もおすすめする構成は、8コアCPU・10コアGPU・16GBメモリー、512GBストレージで、23万6800円となる。その理由も後述する。

魅力は、1日に何本も行われるビデオ会議やオンライン授業をこなすだけのスタミナ、そしてビデオ編集も難なくこなすパフォーマンスが、他社には真似できない超薄型の新デザインと新色を組み合わせたまったく新しいボディに凝縮されていることだ。

新デザインで薄さ極まる

MacBook Airは2008年1月に発表されたアップルのMacラインナップの中で最も販売台数の多いノート型コンピューターだ。登場した当初は、アルミニウムのボディの底面を端に向かって湾曲させ、数字以上に薄さを強調する「影を用いたデザイン」を纏った点が秀逸だった。

拡張性を省いて薄型のデザインを重視するシンプルで割り切った製品として登場したが、その背景にはアップルがインテルチップを採用したことで、性能を維持しながらバッテリー持続時間を確保することができたことがあった。

その後、2010年に13インチに加えて11インチがラインナップに加わり、エッジからキーボードの手元にかけて、さらにカミソリのように鋭く薄くなるウェッジデザインを採用するなど、「薄さの演出」がデザインとして表現されるモデルだった。

今回の刷新では、2018年のiPad Pro以降採用されているアップルのデザイン言語である「シンプルな板」のデザインが踏襲された。これはiPadラインナップからiPhone、MacBook Proへと波及しており、今回のMacBook Airにもそのデザインが降りてきた格好だ。

ボディは均一な薄さで統一されており、閉じたときの高さは11.3mm。手にした感覚は、A4サイズよりやや大きい、厚さ1センチちょっとのアルミニウムの板そのもので、外形が変わっておらず薄くなったことから、以前のモデルに比べると極めて軽いと感じる。

今回レビューしたのは新色のスターライト。iPhoneやApple Watchにも採用された表現で、シルバーより黄色みが加わり、しかしゴールドよりも白い。ちょうどシャンパンゴールドのような雰囲気をもたらす。しかし強い光の下ではシルバーと同じような反射となり、周囲の光によってその表情を変えるところが面白い。

スターライトと共に追加されたミッドナイトは、既存色で人気のあったスペースグレーよりもさらに深く、室内では「黒」に見える。しかしこちらも少し青が差し込まれており、屋外ではその青さを覗かせる。明暗それぞれに用意された新色は、複雑な表情を見せる点が面白い。

ディスプレーとカメラの進化

ノート型コンピューターの紹介で、スマートフォンと同じポイントに言及するとは思っていなかったが、新型MacBook Airで多くの人にとって魅力的なポイントは、ディスプレーとカメラだ。

MacBook Airには今まで最大輝度400ニトのディスプレーが採用されてきたが、これが500ニトに引き上げられ、13インチMacBook Proと同等となった。さらにディスプレーは13.6インチと、旧デザインから0.3インチ拡大された。

縁ギリギリまで敷き詰められ、Liquid Retinaディスプレーの名前が与えられた点は、上位モデルである14インチ・16インチMacBook Proや、iPadの縁なしディスプレーと同じだ。ただし、14インチ・16インチには、ピーク輝度1600ニトまでサポートしており、明確な性能差が存在する。
表示領域が拡大された代わりに、カメラを避けるため、画面の切り欠き「ノッチ」が用意された。iPhoneでもおなじみのデザイン要素だが、コンピューターとしては邪魔になるのではないか?という懸念もあるかもしれない。


13.6インチに拡大したディスプレーは、ウェブカムを避ける形で切り欠きが入っている。しかしmacOSのメニューバーと高さを合わせてあり、アプリやコンテンツの表示に違和感はない(筆者撮影)

Macは画面上部にメニューバーが表示されており、画面拡大分とノッチの高さははこの部分にフィットする。メニューバーの表示が多い場合でも、ノッチを避けて表示されるため、使っていて特別邪魔だと感じることは少ないだろう。

カメラはiMac、MacBook Pro 14インチ・16インチと同様のフルHD(1080p)FaceTime HDカメラに進化した。アップルシリコンの画像処理によって、暗いところから明るいところまで、非常に的確で高画質な描写を行ってくれるカメラだ。ウェブ会議が当たり前の時代、「どんなウェブカム使ってるの?」とその画質の良さがすぐに相手にも見て取れるほどの違いが現れるだろう。

第2世代アップルシリコン

デザインの刷新に加えて、アップル自社設計の「アップルシリコン」も第2世代のM2が搭載された。M2では、製造プロセス技術が向上したことで、同じ設計でも18%前後の性能向上と省電力性が見込まれる。

実際、手元のマシンでGeekbench 5のベンチマークを実行したところ、シングルコア1900前後、マルチコア9000前後という結果が出た。M1はそれぞれ1750前後と7500前後であったことから、その性能が触れ込みどおり向上していることがわかる。

ちなみにこの結果は、インテルチップ採用のiMac 27インチを最も強力にカスタマイズした製品(3.6GHz 10コア第10世代Intel Core i9-10910)と同等の性能を発揮している点に驚かされる。ただし、アップルシリコンのラインナップの中では、MacBook Proに搭載されている下位のチップ、M1 Pro・M1 Maxのほうが25%高速となっている。

グラフィックスはM1モデルから30%向上しており、Geekbench 5(Metal)で30000以上のスコアを出している。加えて、Media Engineが採用された。M1 Pro、M1 Max、M1 Ultraといったプロ向けの製品に採用されるチップに用いられていたビデオ処理のアクセラレーターで、動画編集や書き出しの快適さでいえば、より上位に位置するM1 Proに匹敵する。

例えば何本ものビデオを重ねて編集した4K 15分のビデオをAdobe Premiere Proで書き出す際にも、4分30秒程度で完了し、バッテリー消費も2%に収まる。書き出し時間もさることながら、驚かされるのがバッテリー消費だ。バッテリー駆動でビデオの書き出しという、非常に重たくバッテリーを食う作業を行おうとは思わないのが当たり前だったが、M2チップではそうした常識は捨ててもよさそうだ。

どこにでも持ち運べるメインマシン

見た目からすると、どうしても薄型軽量のサブノートというイメージすらあるMacBook Air。しかしM2の搭載によって、強力な処理性能とバッテリー持続時間の両立を手に入れた。この特徴は、アップル独自のアップルシリコンの設計思想をそのまま反映する製品だ。

アップルはチップメーカーではなく、製品メーカーであり、その製品に最もフィットするチップを設計するというアプローチを採っている。そのため、チップありきではなく、MacBook AirありきでM2の設計や仕様を決めている点が重要だ。


キーボードはTouch ID付きMagic Keyboard。本体が薄く軽い分、MacBook Proなどに比べると多少重厚感・剛性感に欠けるタッチだが、軽快にタイピングできる(筆者撮影)

アップルはMacBook Airを「最も人気のあるMac」と語り、すなわち最も販売台数が多い製品であると指摘する。つまり、大多数の人々が、どんなコンピューター体験をするのか?という点が、新型MacBook Air、ひいてはM2チップに込められているのだ。

そこに強力なビデオ処理エンジンが加わった点は、非常に示唆的だ。iPhoneの動画の高画質化、高圧縮化がさらに進行し、こうした動画処理のアクセラレーターがなければ扱えなくなっていくことも考えられる。あるいはMedia Engineを前提としたより豊かなビデオ表現がコンピューターのアプリで実現する可能性も考えられる。

エントリーモデルとしては大げさとも言える処理性能、将来に備える動画性能、そしてオフィスワークなら2日に1度の充電でも十分対応できるだけのスタミナ、昨今の仕事や学習のスタイルに重要なウェブカムの進化と、向こう3〜4年は快適に使っていける前提で、選べる1台になるのではないか。

どんな仕様がおすすめ?

先述のとおり、読者の皆さんが予想するよりも少し長めの耐用期間を想定して手に入れることができるのが、アップルシリコン世代のMacBook Airといえる。その点でおすすめしたい構成は、8コアCPU、10コアGPU、16GBメモリー、512GBストレージ以上のスペックだ。もちろん色は自由に選べる。


電源は磁石でくっつくMagSafeが復活。USB-C/Thunderboltポート2つを電源に占有されず使えるようになった点も進化のポイントだ(筆者撮影)

この構成には、2つのUSB-Cポートを搭載する新型35W充電器も付属してきて、MacとiPhoneを同時に充電でき、荷物を減らすことができる点もポイントだ。

メモリーとストレージは、後から追加できない。もちろん8GBメモリーでも動画編集を含めて十分快適に扱うことができる。しかし長く使う前提であれば、少し多く見積もっておくといいだろう。

問題はストレージだ。こちらもデータ量が大きくなること、また動画や3Dなど、扱うデータがより大きくなっていくことを考えて、256GBではなく512GBかそれ以上のSSDを用意するべきだ。256GBを選びにくいもうひとつの理由、その速度にある。

手元にある512GBストレージは、M1時代と同じように書き込み2300MB/s前後、読み込み3000MB/s前後の計測結果が得られる。しかし256GBモデルの場合、3分の1から2分の1の速度しか出ず、特に読み込みの速度が遅い計測結果となった。これはM2搭載MacBook Proの256GBストレージでも同様だった。

アップルシリコンはメモリー搭載量が少なくても、高速なストレージを背景にしたメモリー内のデータを退避させる仮想メモリーで、その快適さを維持してきた。しかしストレージ速度の遅さは、作業が積み重なってきたときのパフォーマンスを落としかねない。

おすすめの構成は23万6800円。この金額は、為替が110円であれば20万円を切っていたはずで、円安によってかなり割高に感じるかもしれない。ただし、想定よりも長く使うことができ、中古モデルの流通やアップル自身の下取りも充実していることを考えると、最適な構成を選択し、新しい仕事や学習のスタイルを取り入れることをおすすめしたい。

(松村 太郎 : ジャーナリスト)