ブロックを配置して何かを生み出したりサバイバル生活を楽しんだりと、明確な目標やゴールを与えられないなか無限に続く世界で自由に遊べるゲーム『マインクラフト』(通称マイクラ)。小学生を中心に圧倒的な人気を誇り、いまや『テトリス』を超え、世界でもっとも売れているゲームとなっています。教育版マインクラフト(より教育効果を高めるようアレンジされたバージョン)を使用した作品コンテスト「Minecraftカップ」の運営委員長を務める東京大学教授・鈴木寛先生によると、じつはこのマイクラ、子どもたちに学校の勉強だけでは身につかないさまざまな力を身につけさせてくれるのだとか。詳しく話を聞いてみました。

マインクラフトで“新学習指導要領”とマッチした4つの力が身につく

2020年より小学校でのプログラミング教育が必修化したなか、「プログラミングに役立つ」と少しずつ学校教育にも取り入れ始められているマイクラ。プログラミングを含む以下の4つの力が身につくと鈴木先生は言います。

(1) プログラミング的思考

プログラミングに関しては、「気がついたらプログラミングができるようになっている」という状態になれるそう。

「プログラミングで大切なのは、まずプログラミング的思考を身につけること。マイクラの世界でモノづくりをしていくなかで、『ものごとを順序立てて考え、試行錯誤し、解決する』というプログラミング的思考を抵抗なく身につけられます」(鈴木先生、以下同)

 

(2) プロジェクトマネージメント能力

2つめはプロジェクトマネージメント能力。同じくマイクラの世界でモノづくりをしていくなかで、計画してコントロールしていく力が身につきます。

「結局、社会に出て重要なことってこれですよね。だから実際に経験しておくことがとても重要なんです。受験もそもそもはプロジェクトマネージメント能力を育成するためにやっているんですよ。試験という要求されているものがあって、それに対してバッグキャストしてどう準備していくべきか計画して実行していくわけですからね」

(3) 調整力

3つめは調整力で、仲間とチームを組んで作品をつくったりすることを通して身につきます。

「それぞれ少しずつやりたいことや得意なことが違う仲間たちとチームを組んで何かをするとなると、当然、揉めたり板挟みになったりすることも出てきますよね。そこを粘り強く話し合って調整をして、みんながwin-winになるように交渉しなければいけない。そういう力がつくんです。受験勉強の場合はひとり相撲なので、こうした他者とのすり合わせの力、チームワークの力がつくのはマイクラならではですよね」

(4) クリエイティビティ

4つめはクリエイティビティ=創造性。

「マイクラは簡易にいろんな空間表現ができる環境。その環境をフルに活用してクリエイティビティを発揮する、そういう能力をどんどん身につけられます」

マイクラで身につくこの4つの力は、今後の学校教育において重要視されているものとバッチリ繋がってくると言います。

「改正された学校教育法にも、これからは思考力、判断力、表現力を育成することが重要だと書かれています。まさに、プログラミングをやることは思考力、プロジェクトをやることは判断力、クリエイティブな表現をすることは表現力を育てますよね。同じく、多様な他者と協働する力も重要なものとして位置づけられているのですが、これは調整力にあたります。つまりマイクラで身につく力は、新しい学習指導要領(学校教育法に基づき文部科学省が定める教育カリキュラム)の方向性と非常にマッチしているのです」

 

●マイクラは「ゲーム」ではなく「デジタルものづくり」

マイクラが新しい学習指導要領とこれほどまでにマッチしているのは、じつは偶然ではなく必然なのだとか。

「私は『OECD教育2030』という2030年の世界の教育を検討するプロジェクトの創設メンバーなのですが、同時に学習指導要領の作成も大臣補佐官として勤めているので、OECDで議論していることを日本の学習指導要領にも同期させているんですね。さらに、OECDとマイクラを販売するマイクロソフトの本社は交流が深く、私自身もマイクロソフトの教育担当の方と長年のおつき合いがあるので、同じような世界の教育改革の方向性を共有している。そういう文脈の中で教育版マインクラフトはできているんです」

要するに、単にゲームをつくったらそれが教育に使われたという話ではなくて、根っこからそういう方針でつくられているわけです。

「だから、僕たちはマイクラを“ゲーム”と言っていません。“デジタルモノづくり”と言っているんですよ」

●2025年から大学入学共通テストに加わる

すでに報じられているとおり、2025年から大学入学共通テストの教科に、プログラミングや情報リテラシーなどの知識を問う「情報」が加わります。現在小中学生の子どもはみんな受けることになるわけですが、マイクラで力を身につけておけばこの変化に慌てる必要もありません。

「遅ればせながらですが、ようやく社会での実践力を問うように日本の受験も変わっていくわけですね。つまりマイクラは、受験にも、その先の仕事にも対応しているということ。これからのデジタル社会を生き抜く力を身につけられるわけです」

 

●将来の強みになる“夢中力”も育む

受験にも仕事にも対応できる力が身につくとは親にとってうれしい限りですが、マイクラのすごいところは、子ども自身がそんなこととは無関係に夢中になってしまう面白さがあること。鈴木先生によると、ここもマイクラの見逃せないポイントだそう。

「教育的観点からすると、“夢中力”を育むというのはとても大事なキーワード。夢中になって寝食を忘れてものごとに取り組む経験というのは、将来の強みになります。対象が変わっても、夢中になることで成し遂げられることはいろいろありますからね」

マイクラが人を夢中にさせる要素はいくつも考えられますが、鈴木先生は「世界を創れる面白さ」が大きいのではないかと分析します。

「遊びでも仕事でも新しいものをつくること以上に面白いことはないので、新しい世界を創るというのはやっぱり面白いんですよ。それも、自分が思い描いたとおりに世界を構築していけるわけで、ある意味神様ですよね。現実世界では神様以外は創造主になれませんから」

サイバー空間とはいえ、相当なリアリティをもって自分が創った世界がそこに存在しているというのは、確かにマイクラ以外ではなかなか経験できないことです。

「自分が思い描いた世界をCGに起こすとなると、ものすごい技術がいるし労力も大変。でも、マイクラはものすごい簡易な手法なので幼児でもできてしまう。その環境を提供できているというのが、やっぱりすごいですよね」

 

●子どもとは思わない作品レベルに驚愕!

今年で4年目になる「Minecraftカップ」は満18歳(高校生)以下を対象とした作品コンテストで、小学校低学年以下の応募も多数あるそう。その過去の応募作品を見てみると、子どもが制作したとは思えない作品がずらりと並び、まさに“夢中力”のすごさを感じさせます。

「学校の先生や親御さんなど指導者の力量もあるとは思いますが、小さな子どもたちが自ら考え制作したのは事実です。最終選考会で質疑応答をすると、6歳や7歳の子が驚きのコメントをしてきますからね(笑)。本当に深く考えたということや、たくさん調査をしたということがわかるんです。やっぱりクリエイティビティは無からは生まれなくて、いろんなことをインプットする必要がある。だから結局はインプットの量と多様さが効いてくるなと思うのですが、夢中でのめりこんでいるからインプットにも夢中になって、すごい作品がつくれるんでしょうね」

もちろん、そうしたクリエイティビティを活かす作品を制作するには、マイクラを使いこなす技術があることも大前提。応募してくる子どもたちはみんな、そこもしっかり勉強しているそう。

「ゲームユーチューバーの動画や攻略本を活用して、コマンドなどを調べまくっていると思います。そう考えると、ものごとを突き詰める力もつきますよね」

マイクラというひとつのコンテンツでこれほどの効果を得られるなんて驚きですよね。すでにお子さんがマイクラを楽しんでいるという方も、印象が大きく変わったのではないでしょうか。