大谷翔平をサポートするJAL、「目標となる存在」と語る理由とは【写真:ロイター】

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連載「人間・大谷翔平の肖像」第3回、JAL宣伝部の渡邉裕紀さんが語る企業視点の魅力

 米大リーグで5年目のシーズンを送るエンゼルス・大谷翔平投手は、野球の常識を覆す投打二刀流で地位を確立。礼儀正しく、少年のようにプレーを楽しむ姿は、日米の野球ファンのみならず、老若男女を魅了する。なぜ、この男はそれほどまでに愛されるのか。「THE ANSWER」の連載「人間・大谷翔平の肖像」はシーズン中、さまざまな立場から背番号17を語る記事を掲載。実力だけじゃない魅力を紐解き、大谷のようなトップアスリートを目指すジュニア世代の成長のヒントも探る。

 大谷は日本企業にとっても魅力的な存在だ。第3回は渡米時から4年間、大谷をサポートしてきた日本航空(JAL)の渡邉裕紀さんに話を聞いた。サポート契約を結んだ2018年から4年間担当。大谷がもたらしてくれる好影響や、なぜJALにとって目標となる存在と言えるのか。企業側の視点で語ってもらった。(取材・文=THE ANSWER編集部・宮内 宏哉)

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「大谷さんの担当と名乗れることが、本当に光栄でした」

 オンライン取材の画面越しに、感慨深い表情を浮かべた渡邉さん。2017年9月に関連会社からJAL宣伝部に出向。着任まもなく、大谷とのサポート契約という大仕事に携わり、MLB挑戦1年目から4年間に渡って大谷を支えてきた。

 JALは日本の航空会社として、初の国際線運航を開始した歴史を誇る。「世界で一番選ばれ、愛されるエアライングループ」を目指し、「挑戦」を重要視している。世界を舞台に活躍するアスリートは、同社にとって目標となる存在。大谷のほか、錦織圭、渋野日向子ら数多くの選手をサポートしている。

 中でも大谷は特に、JALの目指す姿を体現していると言える。あのベーブ・ルース以来の二刀流でプレーし、昨季はMVPを獲得。ブレずに挑戦する生き様、プレー以外の礼儀正しさや、ふとした仕草でも日米に愛される存在となった。

「世間が『二刀流は通用しない』と言っていたとしても、結果的にMLBのルールを変えてしまうくらい突き進み、なおかつ広く愛される方。野球の実力だけじゃなくて、周りの人にも真摯な対応をされているからこそ愛されているんだろうと。JALにとってまさに目標とも言える存在です」

運命感じたエンゼルス入団、18年凱旋で責任の大きさ実感

 大谷がもたらしてくれるメリットは、企業の認知度向上に限らない。コロナ禍ではあるが、本拠地アナハイムへ観戦希望を持つファンは激増。JALを利用し、米国に行く需要を掘り起こすきっかけも作り出している。航空会社にとって、飛行機の搭乗時以外に、スポーツ会場の場で利用者にJALの名前に親近感を持ってもらい接点を作ることができるのも大きい。

 そんな大谷とサポート契約を結んだ際、渡邉さんはある種の運命を感じていた。JALもエンゼルスも、ブランドカラーは「赤」。移籍先が決まってからオファーを出したと思われがちだが、そうではなかった。

 移籍先が決定する前から契約を打診。仮にドジャースなら青だし、ヤンキースなら黒のピンストライプ。赤以外のカラーのチームに入団する可能性もあったが、「チームはどこでも契約しよう」とGOサインが出た。蓋を開けてみればエンゼルス。期せずしてバッチリ合致した。

 中学まで野球経験があり、根っからの野球ファンだった渡邉さんにとって、NPB時代の大谷は常識を覆し続けるただただ素晴らしい選手で、遠い存在だった。それが突然、仕事相手に。初対面となった撮影現場での印象は「終始礼儀正しく、クールな人柄」だった。

「(通訳の)水原さんとはリラックスして談笑されていましたが、空港スタッフにも毎回、礼儀正しく『ありがとうございます』と言ってくださいます」

 渡邉さんの仕事は、CMなどで大谷を起用する際に、本人サイドと代理店等を通じて調整、企画を進めていくこと。加えて、年に2度の重要な任務があった。大谷を空港で無事に出国・帰国させる事だ。

「予約自体は席を確保するだけですが、空港にお越しになった時、注目を浴びてトラブルが起きないように、ケアはしっかりさせていただいています。日本に到着された時も、VIP担当を先頭に付けて、スムーズに動けるように段取りする必要がありますので」

 大谷を担当することがどれだけ責任感のあることなのか、実感したのはメジャー移籍初年度の18年。大谷は打者として打率.285、22本塁打、61打点、投げても10試合で4勝を記録し、新人王に輝いた。帰国した大谷を待ち受けていたのは、多くのファンと報道陣。到着ゲート、ロビーで無数のフラッシュがたかれた。

「カメラがバーッといて、派手な帰国だったのが印象に残っています。出発の時も地上波生中継も入ったくらいだったので、その時も張りつめていましたね」

怪我をしても社内外で聞こえなかった「なぜ?」の声

 昨年、大谷はア・リーグMVPを獲得。コロナ禍だったため帰国の際に人だかりができることはなかったが、渡邉さんが驚いたのはシーズン中の反響だ。「ここ数年は一番大きかった」と語るように、企業SNSで投稿した際などでその影響力を実感。取引先との話題にも、代表格として名前が挙がっていた。

 アスリートとの契約には、企業側に一つのリスクがある。故障などが起きてしまった際、現行の広告や支援にそぐわない、相応しくないという見方をされてしまうことだ。

 大谷も2018年オフに右ひじのトミー・ジョン手術を受け、投手としては翌年全休。2020年も2登板だけだった。ただ、社内外から「なぜ?」といった類いの声はほとんど聞かれなかった。「誰もできないことをやっている、そこに対する応援の気持ちをただ抱かせる。そんな大谷さんの人間性だからこそだと思います」。思いに応えるかのように大谷は翌年結果を出し、JALにも大きな好影響をもたらしてくれた。

 渡邉さんは5月で、4年間務めた大谷の担当を離れる。予定していた広告展開がコロナ禍でできなかったなど、やり残したこともある。もっともっと、大谷に関する思いを世の中の人たちと共感、共有したかったが、後任に後を託す。

「いい想いをたくさんさせてもらいました。大谷さんの担当で居られるのは大変光栄ですし、アナハイムにも何度か見に行きましたが、担当する選手が世界的に活躍されるのは嬉しい以外ないですね。

 これからコロナが落ち着いて、海外旅行に行くんだという雰囲気ができてきたら、宣伝展開できればいい。直接ご本人に(担当替えの)ご挨拶ができていないので、帰国のタイミングでご挨拶できることを楽しみにしています」

【私が感じる人間・大谷翔平の魅力】

「ブレないところ。既存の概念に縛られない、周りに何と言われようと前だけを見てやり続ける姿勢。挑戦を続けて、周りを認めさせる実績を残しましたし、今ある常識の中だけじゃなく、人が挑戦しないところまで見出していくことに尊敬と共感を抱いています」(日本航空 宣伝部・渡邉裕紀)

(THE ANSWER編集部・宮内 宏哉 / Hiroya Miyauchi)