念願の家づくり。眺望のいい場所に家を建てたいという人は、擁壁のあるひな壇状の敷地を選ぶケースが多くなります。しかし、古い擁壁を目にすると、この土地を購入していいものか、不安を覚えることも。そこで今回は、その注意点を一級建築士の守谷昌紀さんが解説してくれました。

法律では建物だけでなく「敷地の安全」も求められる

建築をする際には建築基準法を守る必要があります。この法律では、「建物の安全」だけでなく、「敷地の安全」も求めているのです。

擁壁があったり、傾斜がきつかったりする場合には、土地の安全を担保しなければいけません。

擁壁の安全性は、地元自治体の検査で、公的な証明がなされているケースもあります。しかし、それがない擁壁の場合、購入したあと、補修作業が必要になったり、擁壁に負担をかけない建て方を検討したりしないとけないケースも出てきます。

「敷地の安全」は、最終的には土地の所有者が守らなければならないからです。

 

公的な証明書のないプライベートな擁壁には要注意!

以前、事務所に30代前半の若い夫妻は、小さな子どもをバギーに乗せ、3人で相談に見えました。

閑静な住宅街にある、比較的傾斜のきついエリアの土地を、すでに購入しているとのこと。この土地の魅力を生かした、住みやすい家を建てたいという相談です。

さっそく土地を見に行くと、擁壁の上にあり、大変眺めのよい敷地。夫婦は、不動産会社の担当者から「このくらいの大きさの家が建ちますよ」と、簡単な図面をもらっていました。

「擁壁の安全性について、説明はありましたか?」と聞くと、「ありませんでした」と。プランを提案して欲しいという相談だったのですが、まずは敷地の調査から始めましょうと答えました。

 

現地を見に行くと、擁壁の高さは5m以上あり、工事の精度もいまひとつ。どうやらプライベートな擁壁のようです。

プライベートな擁壁とは、安全であるという公的な証明書がないものです。これがなければ、擁壁に、まったく圧力をかけないよう離して建てるか、荷重をかけないような対策を施さなければなりません。

擁壁に荷重をかけない地盤改良で300万円の出費に

ちなみに、擁壁底から安息角といわれるラインの下まで基礎を掘り下げれば、擁壁に荷重はかかりません。行政機関を回りましたが、この擁壁の安全を証明できるものはありませんでした。

ということは、擁壁からかなり下がって安息角を確保するか、荷重をかけない方法を考えなければなりません。

できるだけ安価で、擁壁に荷重をかけない地盤改良方法を見つけましたが、それでも300万円程はかかってしまうことがわかりました。

結局、聞いていた説明と違うということで、夫妻は不動産会社と裁判をすることになりました。

 

「宅地造成事業による工事の完了検査済証」の確認を!

擁壁のある土地がみなダメというわけではありません。今度は、4.5mほどの擁壁があったものの、問題なく家が建てられた事例を紹介しましょう。

 

こちらの場合は、30代の夫妻が土地を買う前に相談に見えました。昭和40年代に開発された、ひな壇型の敷地でした。

いろいろな街を見て回った結果、「坂のある街」が好きだとわかったそうです。

 

まず行政機関を調査すると、この擁壁が安全であることを証明する「宅地造成事業による工事の完了検査済証」が見つかりました。

このケースは、市役所の都市整備部というところに資料が残っていたのです。

 

このことにより、敷地いっぱいに建てられることがわかったのです。

 

周囲の視線を一切感じない、開放的で広い庭が手に入りました。

 

2階部の恩恵はさらに大きいものがありました。

 

すばらしい眺望が手に入りました。

 

安全に建てられれば、すばらしい家が建つ可能性も!

高低差があったり、擁壁があったりする敷地でも、安全に建てられることが証明できればとてもよい敷地となります。アクの強い食材が、調理法によってすばらしいひと皿になるのと同じです。

ですから、その土地にほれ込んだなら、状態が悪くても、擁壁をつくり替えて、安心と安全を担保して、家を建てることはできます。しかし、擁壁をやり替えるとなると、敷地にもよりますが、500万円程度はかかると考えたほうがいいでしょう。

また、擁壁があるということは、坂道があるというケースがほとんどです。将来に、年をとったときのこと、クルマに乗らなくなった場合のことまで含めて、考えておいた方がよいと思います。

 

土地探しで失敗しないよう、専門家のアドバイスを

本当に必要なのは「この土地になにが建てられるかという知識」です。これは専門家に相談するのが最善の方法だと思います。

私は候補のひとつと考えてもらっているなら無料で調査をしますが、費用の有無も相談時に確認しておいたほうがいいでしょう。

土地は一点もので、大変高い買い物です。「失敗しない土地探し」から「最高の土地探し」になるよう、参考にしてもらえればと思います。